アユム

ten KAI

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くも

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孤独、そう感じるのは何故だろう。
部屋に籠もり、誰とも会話をせずに1日を終える。
街へ出てみれば、みな、イヤホンをして周りへの配慮もない。
電車に乗れば、みな、うつむいてスマホを見る。
街には同じような店が連なり、どの店に入っても同じような対応をする。均一化し、まるで機械のようにマニュアルにそった対応。
街に浮かぶ月は四方をビルに囲まれ、悲しく嘆く。

部屋に一匹の小さなクモが入り込んできた。
ティッシュを2、3枚引き抜き、立ち上がり、クモに手をもっていく。
クモにティッシュをかぶせようとしたとが、つかまえようとした手を下ろした。

本能のままに生き、動いていただけなのに、見ず知らずの人間に、いきなり掴まれ、行動を阻害されては、クモも堪ったもんじゃないと思ったからだ。
しかしこの狭い部屋にいては、餌も捕まえられまいと思い、後で出してやろうと思った。

どこまでも無機質化された世界、人間でさえも無機質になっていく、いや人間自身が無機質化していくことを望んだのだ。
周りとの接触を必要最低限にし、互いに干渉せず、互いの権利を侵さないように生きる。いわゆる平等という権利を守るための合理的生き方。

ありがとうございます、すみません、という言葉の便宜性をいいことに、誰も彼もが感情のあるなしにかかわらず口にする。
感情がなかったとしても、偽りの表情と態度、また物を渡すことによって、あたかも気持ちの込もっているように振る舞う。
なんともおかしな世界だ。
しかし素直に生きている人間は受け入れられない。
私としては無機質に染まった、機械的な人間よりも、素直に生きる人こそが人間として生きていると思うのだ。
それ以外は、世間という一方的な多数派で固められた考えを活かすために生き、
自ら死んでいることに気付いていない。

変わらなければならない、変えていかなくてはならない。
平等という名において、誰もが自分勝手に権利を主張し合う世界から、
苦しみ喜び、痛み、悲しみでさえも分かち合える、個々の人間としての生き方を歩んでいくべきだ。

ポト、ポト、外の雨が止んだみたいだ。
使い古した肩掛けカバンに画材を詰め、
入り込んだ小さなクモをそっと手に包み、窓の外へ逃した。
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