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一章 悪女は牢の中で
⑧
しおりを挟む少なくとも参加できないと返信も来ると思っていたからだ。
昼食付近に新しい妃について四人で集まっていた。
本来ならばここにシャルレーヌがやってくるはずだったのだ。
「どういうつもり? 何か一言でも言えないのかしら。気が利かないなね。腹立たしい」
「落ち着いて……」
ナタリーのオレンジ色の髪が眩しいのか、その発言に腹が立ったのか。
エマニュエルの顔がわかりやすいほどに歪む。
「サンドラクト王国では文化が違いすぎるのだと思います。それに彼女は病弱との噂ですし、門番に放置されて倒れられたのですよね?」
「……そう聞いているわ」
「むしろこちらに非があるのではないでしょうか。寝込んでいたとしたら返事もらできなくて当然ですから」
ベアトリスは淡々と答えた。
ネイビーでストレートの長い髪がサラリと流れて耳にかける。
その発言にエマニュエルの口端がピクリと動いた。
ベアトリスに同意するようにアナベルが頷いた。
「ベアトリス様の言う通りだわ。こちらの常識を押しつけるのもよくありませんものね」
「チッ……どの口が言ってんのよ」
「あらエマニュエル様、言いたいことがあるならはっきりと言ってくださらないとわかりませんわよ」
「なんでもないわ」
エマニュエルは不機嫌な顔を隠すために扇子を取り出した。
口元を隠しつつも顔を背けた。
「だけど本当に体調が悪いのではないでしょうか。飲まず食わずで寝込んでいるのでは?」
ベアトリスはそう言ってエマニュエルに軽蔑した視線を送る。
「折角、サンドラクト王国との関係を良好なものにこんなことをするなど信じられません」
「説教はたくさんよ。やめてちょうだい」
「…………」
ナタリーは興味がなさそうにオレンジ色の毛先を指で遊びいたずらしている。
「あのくらい普通よ。それにただ見ていたあなたたちだって同じでしょう? 誰も手を差し伸べなかった。違う?」
エマニュエルの問いに三人は何も答えなかった。
彼女の言っていることは事実。新しい妃を警戒して観察していたのだ。
「それに随分と計算高い女のようだし、思わぬライバルになるかもしれないわよ」
「ありえませんわ」
「ここにいるということはみんな後に引けない理由があるはずよ」
空気はどんどんと張り詰めていく。
それは魔法が使えないシャルレーヌには正妃になる資格がないことがわかっている。
だけど妃でライバルである以上、警戒せざるを得ないのだ。
彼女たちは妙な胸騒ぎを感じながら静かにカップを持ち上げた。
正妃争いが本格化すれば、こうして顔を合わせることもなくなるだろう。
今は腹の探り合いだ。そして一つのミスが命取りとなる。
その後、衝撃的な光景を目にすることになるとは思わずに……。
* * *
夕方までぐっすりと眠り続けていたシャルレーヌは、妃たちのお茶会に欠席の連絡をしていないことに気づく。
しかしそれも仕方のないことだろう。
(ナリニーユ帝国のことは馬車の中で一通り頭に入れてきたけれど……。わたくしも日の光の元に長時間晒されたんですもの。これでもがんばったほうですわ)
昨日の今日で起きただけでも自分を褒めてあげようではないか。
(恐らく今回のお茶会はわたくしの値踏みでしょうね。牽制もあるのでしょうけど……)
シャルレーヌは腕を伸ばして、何度も咳を繰り返す。
扉を叩く音が聞こえた。
返事をすると扉の向こうから医師を呼ぶかと問われる。
名を明かさないため誰なのかはわからないが、シャルレーヌが倒れたことを知った誰かだろう。
それを断ると準備が出来次第、大広間で謁見するように伝えられた。
しかしそれも嘘かと思ったが疑ってばかりでは何も進まない。
(ご挨拶と謝罪も大切ですけれど……まずは陛下との謁見が先ですわよね)
ロミに事実かを確認しようと呼び立てるが、シャルレーヌの目の前には再びボロボロの格好をしているルイとロミの姿があった。
二人は深々と頭を下げている。
「シャルレーヌ様、申し訳ございません」
「繕おうかと思ったのですが、間に合いませんでした」
シャルレーヌは二人の返答を聞いた後ににこやかに笑った。
何をしないように指示を出したのはこちらの方だ。二人が謝る必要もない。
「……いいのよ。けれど困ったわねぇ。時間もないし、そのままでいいから謁見の準備をしてちょうだい」
「かしこまりました」
「お忙しい陛下をお待たせするわけにはいかないもの」
ボロボロの燕尾服のままロミは部屋の外へ。
ルイと共に準備を進めていく。
どうやら今から夫となった彼に会うことができるようだ。
(医師も手配してくれようとするなんて体調に気遣ってくれているのかしら)
シャルレーヌは窓を開く。サンドラクト王国の湿った地下牢の空気とは違う。
甘ったるく空気中に漂うものが魔力なのかもしれない。
(狭くて暗い……居心地はまぁまぁかしら)
シャルレーヌは辺りを見回して、プカプカと浮いている銀色の球体を手で引き寄せてから掴む。
「……ウフフ」
親指と人差し指で掴んでからコロコロと転がして、空に向かって思いきり投げつける。
するとカラスが飛んできて銀色の球を見事にキャッチした。
そのまま嘴で割ってしまったではないか。
「あらまぁ……」
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