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一章 悪女は牢の中で
①①
しおりを挟むシャルレーヌの謝罪を聞くとモルガンの首を包んでいた黒い煙がスッと引いた。
周りにいる人たちも彼への恐怖からか、まったく動かない。
彼らの視線がシャルレーヌへと流れていく。
笑顔を崩さないでいると、ヴィクトールの唇が開く。
「……何が望みだ?」
「望み、とはどういう意味でしょうか?」
ここでなぜその言葉が出てくるかわからない。
ナリニーユ帝国の文化にあっただろうかと考えていた。
サンドラクト王国では武勲に対して褒美が与えられる。ここでは失敗に褒美を出すのだろうか。
しかしモルガンに罰を与えようとしていた。
(サンドラクト王国では失敗とは死ぬと同義でしたけれど、そこは同じなのですね。難しい国ですわ。これが文化の違いなのかしら)
まだ来たばかりでわからないことだらけだが無理やり納得していた。
周辺に嫁いだ際は魔法がほとんどなかった分、文化も近かったのだろう。
けれどナリニーユ帝国はまったく違う。失敗には少し甘いのか、側近だからたまたま処罰が軽いだけなのかはわからない。
シャルレーヌはここに来たばかりなのだから。
「……こちらの失態だからな」
そう言いつつもヴィクトールを心底不満そうだ。
もうシャルレーヌの前で紳士的に振る舞うのをやめたのだろうか。
「それは、わたくしの願いを叶えていただけるということでしょうか?」
「……ああ、そうだ」
値踏みするような視線。これでシャルレーヌのことを推し量ろうとしているのかもしれない。
もしくは国の中枢を担っている者たちの前で晒しものにするつもりなのか。
シャルレーヌがあまりにも普通なため拍子抜けしてしまったのか。
それとも『ああ、やはりサンドラクト王国の王女だ』と、納得したいのか。
詳細はわからないが、頼み事を聞いてくれるというならば遠慮する必要はないだろう。
シャルレーヌに視線が集まっていたが気にすることなくあることを頼む。
「でしたら、陛下の魔法に触れさせてくださいませ」
「…………は?」
周囲は静まり返っていた。皆、目を見開いてこちらを見ている。
それだけ予想外だったということだろうか。
願いを叶えてもらうのなら、それがいい。
シャルレーヌが倒れた時に触れた感覚が忘れられない。
「……皇帝陛下?」
「どういうつもりだ。俺の魔法についてどこまで知っている?」
シャルレーヌが知っていることといえば闇魔法を使うということ。
大きな力で帝国を支配していることくらいだろうか。
「どこまで? お父様が闇魔法を使うとおっしゃっていましたわ」
「それだけか?」
「えぇ、あとは恐ろしいということでしょうか。わたくし、魔導具や魔石には何度か触れたことはありますが、魔法はまったく見たことがありませんの。お父様は魔法が大嫌いですから」
「…………」
訝しげに寄せられた眉。父の姿でも思い出しているのだろうか。
手を合わせて楽しげに微笑むシャルレーヌを憐れむような視線。
またはなんて恐れ多いことをと言いたげな表情に、くだらないとため息を吐く者。よりどりみどりである。
(意外と表情豊かなのね……こちらを馬鹿にしているから隙だらけですわ)
何を考えているのかと言いたげであるが、彼の反応を待っていた。
「……わかった」
「まぁ……! ありがとうございます」
「明日の朝食後に部屋に向かう」
「朝食後、ですか?」
どうやら朝食には妃たちと集まる場らしい。
彼女たちにとってはアピールの場で、ヴィクトールにとっても交流の場なのだそう。
そこにシャルレーヌも来いと言われて素直に頷いた。
「わたくしはいつでも構いませんわ」
ヴィクトールの唇がゆっくりと弧を描いていく。
それを止める者は誰もいない。モルガンもシャルレーヌとヴィクトールを交互に見つつ困惑していた。
シャルレーヌはサンドラクト王国のために己の役割を果たそうと判断したのかもしれない。
もしくは夜に寝首をかこうとしているとしていると思われたか。
(そう思われても無理はありませんわね。サンドラクト王国の王女なんですもの)
どちらでもシャルレーヌは関係ない。
ただあのひんやりとした闇に寄り添えたらそれでいいのだ。
こうしてシャルレーヌは無事に謁見を終えた。
オノレに侍女服や侍従服を支給してもらい、ルイとロミも無表情ではあるがご機嫌だ。
やはりボロボロな状態は不服だったのだろう。
今回の謁見はシャルレーヌの満足いく結果になったといえる。
瞼を閉じるとカラスの視界を借りることができた。
謁見の間では、シャルレーヌに関するいろいろな憶測が飛び交っているようだ。
まだシャルレーヌがどんな人物か掴みきれないというのが本音のようだ。
サンドラクト王国出身とは思えない物腰柔らかな振る舞いや口調。
動じない態度や妃の勤めを果たそうとする態度や謝罪の言葉を発したこと。モルガンを庇ったこともそうだ。
彼らはシャルレーヌを疑い、どんな人物なのか決めかねている。
しかしヴィクトールだけは、じっとシャルレーヌが出て行った扉を見つめていた。
その横ではオノレが自分がいない間に何があったのかわからないとばかりに首を傾げている。
周囲の様子をうかがっており、モルガンはショックを受けているのか呆然としている。
ロミとルイは無表情のまま、シャルレーヌの背後に控えていた。
しかしこちらを睨みつけたヴィクトールの顔が映り、カラスが飛びたったため視界が切れてしまった。
「……ふふっ」
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