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四章 悪女の罠
③⑧ アナベルside2
『シャルレーヌ様、魔法を使えないなんて本当なのかしら? だけど、あなたたちの方が優秀よね。あの子がいなくなったら、もしかしてあなたたちのどちらかが……なんて考えたらいけませんわよね』
遠回しにシャルレーヌを蹴落とせば、自分たちが代わりになるかもと囁いてやればいい。
アナベルがシャルレーヌが来たことにさりげなく不満を漏らすだけで、勝手に罰してくれる。
(捨て駒なんだから、しっかり役に立ってちょうだいね)
だけどその中の二人が勝手に粗相をしてしまいヴィクトールを怒らせてしまった。
『アナベル様のために、邪魔者をけそうと思っただけなんです』
『ナリニーユ帝国に相応しくないわ! あんな女が妃だなんて認められません』
よりにもよってアナベルのせいにしてきたのだ。
それに信じられないことに侍女の一人がアナベルを裏切ったのだ。
彼女は何日と眠れていないそうで、ひどい顔をしていた。
『あの人に逆らっちゃダメ……! 恐ろしいことがっ』
リリーの面倒を見ていた侍女によれば、数日間は天井の端の方を見ながら、ずっとそんなことを呟いていたらしい。
かなり不気味で何かに呪われているようだと言っていた。
(どっから紛れたか知らないけれど、このわたくしを裏切るなんて許さないんだから!)
アナベルのイメージを崩すわけにもいかずに、それらしくシャルレーヌに水をかけた侍女二人を罰したものの怒りでいっぱいだった。
シャルレーヌを勝手に虐げてくれる手駒を失ってしまったからだ。
彼女たちはもう少ししてから切り捨てる予定だったのに……。
そのきっかけを作ったリリーを再起不能になるほどに罰してやる。
そう思った矢先、彼女はシャルレーヌが引き取ることになってしまった。
(意味がわからないわ……! 何もかもうまくいかない。今まで順調だったのに)
八つ当たりもできずに不満はたまっていく。
こうして正妃候補になってからというもの、裏の性格を出せずに我慢し続けていた。
女神のように慈愛に満ちた対応をしているのはつらすぎる。
エマニュエルには裏の顔は多少バレてしまっているようだが、それでも表に出すことはなかった。
こうなるとエマニュエルのように傲慢で我儘でいられるのとが羨ましい。
(正妃になるまでの我慢よ。正妃になればすべて報われるはずなんだからっ)
だからこそ外の自分と本当の自分がわからなくなってしまう。
そのギャップに苦しさを感じているのも事実だ。本当のアナベルは女神のような性格ではない。
どろどろとした欲に塗れている。
それも正妃になるまでの我慢だ。自分は側妃になるような人間ではない。
ヴィクトールの隣でこそ輝ける。彼に愛されて、彼を導ける存在はアナベルしかいない。そう確信していた。
(なのにっ……! わたくしの邪魔ばかりするっ)
シャルレーヌがわざとしているのか、そうではないのか、それすらもわからない。
無害のような顔をしているが、自分と同じように裏があるのではないか。そう思っていた。
(魔法も使えないくせに、出しゃばるんじゃないわよ……! 正妃になれるなんて勘違いしないことね)
シャルレーヌは明らかにヴィクトールを誘って、夜に会おうとしていた。
よくよく考えたら、あの物置き部屋に彼を呼んだのだって、自分の今の状況を見せつけるためだ。
(わたくしが直接関わっていても、こんなことが続けば陛下に疑われてしまうわ。そしたらお義父様にも怒られるし、わたくしの立場だって危うくなってしまうかも……)
侍女たちにもシャルレーヌには近づくなと釘を刺しておいた方がいいだろう。
本当は気に入らない。今すぐに排除してしまいたい。
ここで大切なのは動かず静かに待つことだ。そう言い聞かせていた。
それにシャルレーヌの部屋を盗聴しているエマニュエルからも手紙が届いた。
その内容は彼女が夜な夜な〝テネブル〟という男を毎晩かわいがっているのではないかということだ。
『大好き』『かわいらしい』『ずっとそばにいて』
物置部屋で男と密会するたびにそんなことを言っているらしい。
窓を塞いでいるのは、彼との密会がバレないようにするためではないのか。そんなことが書かれていた。
(ふーん、珍しいこともあるものね。エマニュエルにしては役に立つ情報みたいね。気がきくじゃない)
恐らく不気味な侍女と侍従以外に、男を連れ込んでいて夜になると愛し合っているのかもしれない。
(嫁いできたくせになんてずうずうしいのかしら……!)
なんとか自分を落ち着かせて深呼吸をする。こんなことで立ち止まってはいられない。
邪魔な障害物は周りを使って踏み潰して壊していけばいい。今までもそうしてきたのだから。
(わたくしがいない間はあの性悪女がどうにかしてくれるはず……! そうだわ! あの子の病をわたくしが治してしまえばいいのよ)
アナベルはいいことを思いついたと唇を歪めた。
遠回しにシャルレーヌを蹴落とせば、自分たちが代わりになるかもと囁いてやればいい。
アナベルがシャルレーヌが来たことにさりげなく不満を漏らすだけで、勝手に罰してくれる。
(捨て駒なんだから、しっかり役に立ってちょうだいね)
だけどその中の二人が勝手に粗相をしてしまいヴィクトールを怒らせてしまった。
『アナベル様のために、邪魔者をけそうと思っただけなんです』
『ナリニーユ帝国に相応しくないわ! あんな女が妃だなんて認められません』
よりにもよってアナベルのせいにしてきたのだ。
それに信じられないことに侍女の一人がアナベルを裏切ったのだ。
彼女は何日と眠れていないそうで、ひどい顔をしていた。
『あの人に逆らっちゃダメ……! 恐ろしいことがっ』
リリーの面倒を見ていた侍女によれば、数日間は天井の端の方を見ながら、ずっとそんなことを呟いていたらしい。
かなり不気味で何かに呪われているようだと言っていた。
(どっから紛れたか知らないけれど、このわたくしを裏切るなんて許さないんだから!)
アナベルのイメージを崩すわけにもいかずに、それらしくシャルレーヌに水をかけた侍女二人を罰したものの怒りでいっぱいだった。
シャルレーヌを勝手に虐げてくれる手駒を失ってしまったからだ。
彼女たちはもう少ししてから切り捨てる予定だったのに……。
そのきっかけを作ったリリーを再起不能になるほどに罰してやる。
そう思った矢先、彼女はシャルレーヌが引き取ることになってしまった。
(意味がわからないわ……! 何もかもうまくいかない。今まで順調だったのに)
八つ当たりもできずに不満はたまっていく。
こうして正妃候補になってからというもの、裏の性格を出せずに我慢し続けていた。
女神のように慈愛に満ちた対応をしているのはつらすぎる。
エマニュエルには裏の顔は多少バレてしまっているようだが、それでも表に出すことはなかった。
こうなるとエマニュエルのように傲慢で我儘でいられるのとが羨ましい。
(正妃になるまでの我慢よ。正妃になればすべて報われるはずなんだからっ)
だからこそ外の自分と本当の自分がわからなくなってしまう。
そのギャップに苦しさを感じているのも事実だ。本当のアナベルは女神のような性格ではない。
どろどろとした欲に塗れている。
それも正妃になるまでの我慢だ。自分は側妃になるような人間ではない。
ヴィクトールの隣でこそ輝ける。彼に愛されて、彼を導ける存在はアナベルしかいない。そう確信していた。
(なのにっ……! わたくしの邪魔ばかりするっ)
シャルレーヌがわざとしているのか、そうではないのか、それすらもわからない。
無害のような顔をしているが、自分と同じように裏があるのではないか。そう思っていた。
(魔法も使えないくせに、出しゃばるんじゃないわよ……! 正妃になれるなんて勘違いしないことね)
シャルレーヌは明らかにヴィクトールを誘って、夜に会おうとしていた。
よくよく考えたら、あの物置き部屋に彼を呼んだのだって、自分の今の状況を見せつけるためだ。
(わたくしが直接関わっていても、こんなことが続けば陛下に疑われてしまうわ。そしたらお義父様にも怒られるし、わたくしの立場だって危うくなってしまうかも……)
侍女たちにもシャルレーヌには近づくなと釘を刺しておいた方がいいだろう。
本当は気に入らない。今すぐに排除してしまいたい。
ここで大切なのは動かず静かに待つことだ。そう言い聞かせていた。
それにシャルレーヌの部屋を盗聴しているエマニュエルからも手紙が届いた。
その内容は彼女が夜な夜な〝テネブル〟という男を毎晩かわいがっているのではないかということだ。
『大好き』『かわいらしい』『ずっとそばにいて』
物置部屋で男と密会するたびにそんなことを言っているらしい。
窓を塞いでいるのは、彼との密会がバレないようにするためではないのか。そんなことが書かれていた。
(ふーん、珍しいこともあるものね。エマニュエルにしては役に立つ情報みたいね。気がきくじゃない)
恐らく不気味な侍女と侍従以外に、男を連れ込んでいて夜になると愛し合っているのかもしれない。
(嫁いできたくせになんてずうずうしいのかしら……!)
なんとか自分を落ち着かせて深呼吸をする。こんなことで立ち止まってはいられない。
邪魔な障害物は周りを使って踏み潰して壊していけばいい。今までもそうしてきたのだから。
(わたくしがいない間はあの性悪女がどうにかしてくれるはず……! そうだわ! あの子の病をわたくしが治してしまえばいいのよ)
アナベルはいいことを思いついたと唇を歪めた。
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