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ふしぎの国の悪役令嬢はざまぁされたって構わない!〜超塩対応だった婚約者が溺愛してくるなんて聞いていませんけど!〜
①④
しおりを挟む髪留めを買い終わりファビオラが振り返ると、トレイヴォンが何かを考えながらボーっとしているのが見えた。
その周辺には女性達がトレイヴォンに話しかけようと頬を染めて彼を見ていた。
(やっぱりレイはモテるのね……)
何故かトレイヴォンは髪を伸ばすようになっていった。
これも原作と違う部分だが、彼の髪はとても美しい。
伸びてきた髪を留めるのにトレイヴォンはシンプルな紐を使っている。
ファビオラは代わりになるようなシンプルな黒い石の飾りがついた銀色の髪紐を買ったのだ。
「レイ、お待たせ」
「……おかえり、ビオラ」
「これ、受け取って」
「ビオラがつけてくれ」
「えぇ、いいわよ。エマ、荷物を持っていて」
「かしこまりました」
ファビオラはトレイヴォンの髪を結っていた。
「うん、よく似合ってるわ」
「ありがとう、ビオラ。大切にする」
笑いあう二人を見ていた人影。
ライトゴールドの髪がサラリと風に流れていく。
ファビオラはそんな人影に気づくことはなかった。
ドレスに合う髪飾りとピアスを買い終えて、ファビオラは楽しい気分で屋敷へと戻る。
トレイヴォンも機嫌がよくなったようで、無表情でも楽しげに見えた。
──そして迎えたパーティーの当日。
準備は万端でファビオラは鏡の前に立っていた。
足は生まれたての子鹿のように震えている。
「エマ、エマ……どうしよう。エマ、どうしよう」
「大丈夫です」
「わたくし変じゃない!?大丈夫?絶対に大丈夫じゃないと……っ」
「大丈夫です」
「今日だけは大丈夫だと言ってぇえぇっ!」
「大丈夫です」
このやりとりを何回繰り返しただろうか。
ファビオラは胃がギリギリするのを押さえていた。
エマは「大丈夫です」と機械のように繰り返している。
もう一度聞こうとすると「しつこいです」と一蹴されてしまう。
そんな怒りに満ちた表情も可愛いのがエマなのである。
「エマァ……!」
「ファビオラお嬢様は完璧です。私がそう言っているのですから信じますよね?」
「う、うん……!ありがとう、エマ」
「ファビオラお嬢様は世話が焼けますね」
エマにしがみついていると、優しく頭を撫でてくれる。
ファビオラが扉をノックする音も聞こえないくらいドキドキした心臓を押さえていた。
(半年ぶりのマスクウェル殿下よ!わたくしは、うまく自分の心を制御できるのかしら……)
しかしエマがこれだけファビオラを特訓して頑張ってくれたのだ。
それにマスクウェルが贈ってくれたドレスを着て恥ずかしい姿を見せるわけにはいかない。
(訓練の成果を見せるのよ!平常心で神を、マスクウェル殿下を迎え打つ!行くのよ、ファビオラ・ブラックッ……!)
ファビオラはエマに呼ばれて振り返る。
どうやらマスクウェルが迎えにきたことを知らせに来てくれたようだ。
スイッチを切り替えたファビオラはフッと息を吐き出してから足を進めた。
玄関の前に笑顔で立っていたのは半年振りのマスクウェルだった。
天使のように可愛らしい見た目は成長と共にレベルアップして神になった。
相変わらずの美しさだが、今日は正装しているからか大人びて見える。
いつもある前髪を今日は上げているからかもしれないが、優しい笑顔を向けられて心臓が大きく跳ねた。
すっかりと可愛らしさは消えて、かっこよく男性らしくなったマスクウェルに魅入られたように動けなかった。
(いつもと雰囲気が全然違う……)
エスコートするために伸ばされたマスクウェルの手を掴む。
半年前より高くなった背。
骨ばった手の感触に異性として意識するには十分だ。
重たくて甘い香水の香りにファビオラはクラリと目眩を感じた。
マスクウェルのカッコよすぎる姿に頬が赤くなる。
エマに助けを求めようと振り返ろうとするが、腕を掴まれて引き寄せられてしまう。
「行こう」
「は、はい……」!
抱きしめられるようにして、マスクウェルにエスコートを受けていた。
マスクウェルに触れられている部分が熱をもつ。
ファビオラは気絶寸前なのにも関わらずに、マスクウェルはにこやかに微笑んで涼しい顔である。
馬車に乗り、二人きりの空間になるとファビオラはギュッと膝で手を握った。
この高揚感と緊張感は感じたことがない。
(汗かいちゃいそう……)
ファビオラはチラリとマスクウェルを盗み見る。
「顔が赤いな。窓を開けようか」
「はい、ありがとうございます。マスクウェル殿下」
マスクウェルはファビオラの変化に敏感に勘付いてくれたようだ。
涼しい風が隙間から吹き込んでホッと息を吐き出した。
まるで熱に浮かされているようだ。
コルセットも相まってむず痒い。
意識を逸らそうと、マスクウェルに話を振った。
「ドレス、ありがとうございます。どうでしょうか?」
「…………」
「頑張って似合うように努力したんですよ?」
「…………」
「あの……マスクウェル殿下?」
返事が帰ってこないことを不思議に思っていたファビオラは顔を上げると、何故か目を逸らして口元を押さえているマスクウェルが見えた。
(エマが大丈夫って言っていたもの……!絶対に大丈夫よ)
そう思いつつも、もしかしてドレスが似合わなかったのかもしれないと心配していると、マスクウェルはすぐに元の表情に戻る。
「とても……とてもよく似合っている」
「本当ですか?よかったぁ」
「……っ」
ファビオラはホッとして息を吐き出した。
それから似合っているという言葉に手を合わせて喜んでいた。
たとえ上辺だけのリップサービスだとしてもマスクウェルに褒められて嬉しい。
半年間、マスクウェルのために努力してきた甲斐があったというものだ。
ドレスが似合うようにと死ぬほど体型を整えたり、肌を美しくするために野菜をたくさん食べていた辛さが一瞬にして報われていく。
マスクウェルは以前よりもずっと柔らかい雰囲気ではあるが、再び窓へと視線を向けてしまう。
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