【短編集】

●やきいもほくほく●

文字の大きさ
50 / 84
ふしぎの国の悪役令嬢はざまぁされたって構わない!〜超塩対応だった婚約者が溺愛してくるなんて聞いていませんけど!〜

①⑤

しおりを挟む
(前は超塩対応だったのに……!いきなりどうしちゃったのかしら。ハッ、わたくしやっぱり嫌われているのかしら)

思い込みから一気に尻込みしてしまい、エマから借りたナイフホルダーの中に忍ばせているプレゼントは渡せそうにない。

(そもそも受け取ってくれるのかしら……迷惑って言われたら立ち直れないわ!エマァアァッ、助けてぇ)

なんとなく気まずくなり、ソワソワして当たり障りない話題を出した。


「久しぶりのパーティーだから緊張してしまいます。それに……」


マスクウェルがカッコよすぎるから隣に並んだら気絶してしまうかもしれない、とは言えずにファビオラへ口を閉じる。
今日はイメージ回復を目指しているのに絶対にマスクウェルの前で失敗したくないという焦りからか指が震えていた。


「緊張する必要はない。僕が隣にいるのだから」


そう言ってファビオラに視線を送る頼もしいマスクウェルに心臓を撃ち抜かれたファビオラは意識を持っていかれる寸前だった。
白目にならなかった自分を褒めてあげたい。
何故こんなにも彼は尊いのか……思考停止中である。
表向きの顔でいたかと思いきや、途端に裏向きの顔で攻めてる。
油断も隙もないとはこのことである。

なんとか堪えたファビオラはマスクウェルに笑顔を返した。

(あっぶねえぇぇぇ……!もう少しで魂持っていかれるところだったわ)

なんとなくではあるが、また以前のように突き放されるのだと思っていた。
それなのに甘い雰囲気に戸惑っている。

マスクウェルも半年の間に何か心境の変化があったのだろうか。
こうしてファビオラに笑顔を向けてくれるのだが、それでも倒れずにすむのはエマとの訓練があったからだ。

(ここの空気が美味しいわ……マスクウェル殿下、かっこいい)

二人で当たり障りのない話題で談笑していた。

会場に着いてマスクウェルのエスコートで馬車から降りる。
会場に向かって歩いていく最中、妙に視線を感じていた。

(さすがマスクウェル殿下だわ。あまりの美しさに注目が集まっているのね!)

実際はファビオラの洗練された美しさに見惚れている人達が大勢いたのだが本人は気づくことはない。

(なんでかしら……わたくしに何かおかしいところが!?エマは大丈夫だって言っていたけど)

ファビオラが不安になっていると、マスクウェルがそっと顔を覗き込む。


「ファビオラ、大丈夫?」


フォビオラは暫く目を見開いて固まった後に、コクコクと首を動かした。
マスクウェルがさりげなくファビオラの名前を呼んで心配してくれる。
それだけでも天にも昇る心地だ。

社交界ではファビオラとマスクウェルの不仲説が流れていたが、それを一瞬で払拭していったとも知らずにファビオラはマスクウェルとパーティーを楽しんでいた。

(まるで本物の婚約者同士みたい……)

ふと、ファビオラの頭の中にあることが過ぎる。

(マスクウェル殿下とこうして過ごせるのも、あと少しだけなのね……学園に行けばアリス様と結ばれるのよね)

そう思うと胸が締めつけられるように悲しくなった。
わかっていたはずの結末なのに、受け入れていたはずなのに、嫌だと思ってしまう自分がいた。
しかしファビオラはその考えを振り払うようにすぐに首を横に振った。

(わたくしは愛に生きる女……ファビオラ・ブラックよ!悪役令嬢として、マスクウェル殿下の幸せを願って、去り際まで美しくいなきゃ)

気合いを入れながらファビオラは笑顔を作る。
しかしファビオラを襲う不安は暫く払拭できなかった。
マスクウェルとダンスを踊りながらも、この手を離したくないと思ってしまう。
幸せと不安が隣り合わせの中、曲が終わる。

(いつか……別れる運命ならば、こんなに好きにならなければよかった)

久しぶりに感情が昂ったからかファビオラは泣きそうになるのを堪えていた。


「ファビオラ……?」


ファビオラの瞳から一筋の涙が溢れていったのを見てマスクウェルが大きく目を見開いている。
ファビオラは急いで涙を拭って表情を取り繕う。
自分で決めたことなのに、こんな風に名前を呼ばれて触れていると勘違いしてしまいそうになる。


「ご、ごめんなさい。嬉しすぎて……わたくしったら」

「…………。向こうで休もう」

「いいえ、大丈夫ですわ!」


ファビオラがそう思っていても涙が止まらない。
ここで失態を犯してはならないと、なんとか涙を堪えようと俯いていた。


「───ビオラッ!」


そんな時、聞き覚えのある声が聞こえて顔を上げた。
トレイヴォンがファビオラを包み込むようにして抱きしめた。


「レイ……!」

「大丈夫か!?」

「えぇ、ごめんなさい。でも大丈─っ」

「大丈夫な訳あるか。向こうで休むぞ?」

「……っ、でもマスクウェル殿下の前で!」



ファビオラはトレイヴォンに抱え上げられた。
トレイヴォンの行動に会場からは黄色い悲鳴が上がり、頬を赤く染めている。
マスクウェルはその場に立ち尽くしていた。
騒めく会場でトレイヴォンとファビオラを讃える声が耳に届いた。

「ファビオラ様……なんて美しいのかしら」
「トレイヴォン様は男らしくて素敵ね」
「二人はご友人なのでしょう?わたくし、ファビオラ様がトレイヴォン様の婚約者なら諦められたのに」
「あの二人はお似合いよね」
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

真実の愛に祝福を

あんど もあ
ファンタジー
王太子が公爵令嬢と婚約破棄をした。その後、真実の愛の相手の男爵令嬢とめでたく婚約できたのだが、その先は……。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

売られたケンカは高く買いましょう《完結》

アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。 それが今の私の名前です。 半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。 ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。 他社でも公開中 結構グロいであろう内容があります。 ご注意ください。 ☆構成 本章:9話 (うん、性格と口が悪い。けど理由あり) 番外編1:4話 (まあまあ残酷。一部救いあり) 番外編2:5話 (めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処理中です...