60 / 78
四章 最強の皇帝
⑥⓪
しおりを挟む「今日を含め、あなたの行動を見ていましたが皇帝陛下に相応しいとは思えません」
「そうですか」
メイジーが平然としているのもまた気に入らないのかもしれない。
だが相応しくないと言われたらそうだろうとしか答えられない。
ここでメイジーは気になったことを問いかける。
「どんな方なら皇帝陛下に相応しいのですか?」
きっとベルーガたちはどんな女性でもこうなりそうだと思っていると……。
「それはもちろん美しくて皇帝陛下が気に入っておそばにいたいと心から思えるような……」
そう言いかけて、ベルーガはピタリと言葉を止めた。
ピンク色の瞳が動揺しているのか揺れ動く。
それを隠すように彼は視線を逸らしてしまった。
(……どうしたのかしら)
彼が何が言いたいのかがわからず、メイジーが言葉を待っているとベルーガは咳払いをしてこちらを向き直る。
「ゴホン……この話はもういいです。あなたもここにいたいなら、ずっといたらどうですか?」
ベルーガの提案にメイジーは目を見開いた。
そう言われたらメイジーの答えは決まっている。
ガブリエーレからメイジーのことをどう聞いているのかは知らないが、帝国に帰りたいなどいうはずもない。
ベルーガはガブリエーレの側近の中で一番、信頼されているような気がした。
もしかしたらガブリエーレを説得できるかもしれない。
(このチャンス、逃せないわね……!)
メイジーは目を輝かせながらベルーガの手を掴む。
「いいんですか!? なら、お言葉に甘えてそうさせていただきます。わたしは島で暮らしますから説得してくださいね!」
「だから言ったので…………えっ?」
ベルーガが言い直す前にメイジーは彼に背を向けて砂浜を凄まじい速さで駆け出していく。
「メ、メイジー様っ!?」
「皇帝陛下にベルーガさんから伝えといてください! さよなら~っ」
メイジーはその場にベルーガを置いて森の中に消えていく。
(よし、大成功……!)
帝国での窮屈なお姫様暮らしはもうたくさんだ。
(わたしはここで完璧な真珠を作る……!)
何故か目的は大きく変わっているが、明日から制限なしに色々できると思うと開放感でいっぱいだ。
島民たちとまた過ごせると島の子どもたちと大はしゃぎをしていると、荒く息を吐いたベルーガが追いかけてくる。
「メイジー様、帝国に帰りましょう!」
「絶対に嫌です。わたしがここにいた方がいいと言ったのはベルーガさんですから」
ベルーガはメイジーがガブリエーレに言って帝国に無理やり居座っていると思っていたのだろうか。
明らかに焦っているようだ。
「先ほどのことは訂正いたします。ですから一緒に……!」
「訂正は必要ありません。わたしはここにいるので帝国へ帰ってもらって大丈夫ですから!」
「いえ、そうではなく……!」
そんな押し問答を繰り返しているうちに、すっかり日が暮れてしまった。
ついに強硬手段に出ようとしているベルーガを見て、メイジーが太い幹に足を絡めてしがみついて抵抗していた。
「このままでいいんです! 説得しておいてくださいっ」
「困りますっ! お願いですから離してください」
「嫌です……! 早く帰らないと皇帝陛下が心配するんじゃないですか!?」
「それはこちらの台詞です……からっ!」
島民たちは戸惑っているように見える。
すると森の向こうから見覚えのある光の玉が見えた。
(ま、まさか……!)
メイジーが嫌な予感を感じていると、ガブリエーレとその背後にマオとイディネスが立っているではないか。
『メイジー……何をしている?』
「……見てわかりませんか?」
『芋虫の真似か?』
「違います」
ベルーガがメイジーから手を離して膝をつく。
『珍しいな、ベルーガ』
「……申し訳ございません」
『いや、構わない。こうなることはわかっていた』
意味深な発言にメイジーは眉を寄せる。
そして一瞬で移動したガブリエーレは、メイジーを抱えてしまう。
「なんでよ! 離してくださいっ」
『皆に迷惑をかけるな』
「ぐっ……!」
メイジーは些細な抵抗とばかりにガブリエーレを蹴り飛ばす。
げしげしと蹴っているとベルーガ、マオ、イディネスの顔が引き攣っていく。
『お前といると退屈しないな』
「…………いっ」
仕返しとばかりにガブリエーレに足をつねられたメイジーは悔しさを噛み締める。
抵抗虚しくガブリエーレに帝国に連れ返されるのだった。
435
あなたにおすすめの小説
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~
上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」
触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。
しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。
「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。
だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。
一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。
伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった
本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である
※※小説家になろうでも連載中※※
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!
さこの
恋愛
婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。
婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。
100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。
追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています
h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。
自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。
しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━?
「おかえりなさいませ、皇太子殿下」
「は? 皇太子? 誰が?」
「俺と婚約してほしいんだが」
「はい?」
なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。
大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる