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二章

①⑥

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ギラギラと輝く太陽ですらアシュリーを嘲笑っているような気がした。
クララが複雑そうな表情で地面に寝転がるアシュリーを見ている。


「アシュリーお嬢様、お肌が焼けてしまいますよ」

「ああ、そうね」

「いいのですか……?」

「だって、もうわたくしには関係ないもの」

「……アシュリーお嬢様」


昔、オースティンに言われたことがあった。
「アシュリーの肌は雪のように白くて素敵だ」と。
それからは室内でも日焼けをしないように気をつけていた。
オースティンが言っていた好みや褒め言葉をアシュリーはすべて覚えていた。
長い髪が好き、明るい色が好き、常に笑顔でいる人が好き、物静かな人が好き……少しでもオースティンに愛されるために自分なりに努力をしていた。

けれど、こうなってしまった今では、あの男の好みを気にしたところで仕方ないではないか。

実際、ユイナは肌も白くはないし、日に焼けていて健康的な肌の色をしている。
髪は自分よりもずっと短く、肩ほどの長さだ。
性格も物静かとはかけ離れており活発そうだった。
オースティンが言っていた好みとは真逆だが、彼はユイナを愛していると言った。

(何度考えても馬鹿らしいわ……あんな人に愛されたいだなんてどうかしているのよ)

暫くアシュリーは屋敷で好きなことをしながら穏やかなひびを過ごしていた。
自分がやりたかったことのあまりの小ささに吹き出す毎日を送っていた。
そんな生活を一週間ほど続けていただろうか。
アシュリーは両親が話しかけてこようとするのを徹底的に避けていた。
クララには絶対に部屋に入れないでと念を押した。
ロイスにも協力してもらい徹底していた。

二人はアシュリーが初めて取る反抗的な態度に戸惑っているようだ。
両親が部屋に無理矢理入ろうとした時は、叫び声を上げて裸足で飛び出したこともあった。
そんな様子を見て父と母は呆然としていた。
二人が屋敷にいる日は、屋敷の中をひたすらに逃げ回る。
顔を合わせないように隠れて動くのも、スリルがあって面白かった。

アシュリーの力を確かめるためか、力を求めてかは知らないが貴族や国民たちが勝手に動いて、エルネット公爵邸に訪れていた。
アシュリーは窓からその様子を見ていたからだ。
アシュリーが体調が悪いと言って言い訳していたらしいが、治療の催促をされてアシュリーの力が必要になったのだろう。
治療をしなければ金は得られない。
それは国王たちに聞いてアシュリーは知ってしまったのだ。

そうやって稼いでいたせいで両親は本来自分たちがしなければならない仕事をなおざりにしていたらしい。
ロイスが食事中にそう呟いていた。
娘の部屋に定期的に通う貴族や領民たちから毎回金を受け取るだけで働かなくてもいいのだから楽な商売だったろう。

しかし、アシュリー本人は朝から晩まで治療していたとしても何一つ恩恵を受けないままだった。
十年間ずっと二人の操り人形として動いていただけ。

(また利用しようというの……?あれだけのことをしておいて、わたくしが許すとでも?)

二人はその糸が切れたことに気づかないままだ。
ただ困惑していればいい。
両親にとっては愛する娘などではなく、ただの金の成る木、もしくは都合のいい駒だったのだろう。
そしてその木は何も知らずに一生懸命、金を実らせ続けていた。
そのせいでどんどんと二人がダメになっていくのにも気づかずに……。
目の前にある幸せを守ろうとして現実から目を背けた結果がコレだ。

(……滑稽だわ)

二人はアシュリーに謝るタイミングでも窺っているのだろうか。
縋るような声が耳に届くたびに吐き気がする。

(あの時は感情的になってしまった、我々はどうかしていたんだ、本当はあなたを世界で一番愛している、大切な娘だから……この中から何個当たるのかしら。ふふ、楽しみね)

そんな薄っぺらい言葉を並べれば、アシュリーならば絶対に許してくれると思っているに違いない。
だが餌をぶら下げながら、それをさせないように動いていた。
顔を合わせなければ謝罪もできない。
この作戦がギルバートがくるまでのいい時間稼ぎになっている。

二人は自分たちが追い討ちをかけたことでアシュリーがおかしな行動を取っていると思っているようだ。
珍しくこちらを気遣っているからか、まだ深追いはしてこない。
アシュリーの反応を伺いながら慎重に動いている。

けれど時間が彼らを着実に追い詰めていく。
金を手にできないもどかしさと歯痒さは二人の関係を更に悪化させていた。
だけどあの二人がどれだけ喧嘩をしようとアシュリーの心は以前のように痛むことはない。

(どうでもいいわ……勝手にすればいい)

アシュリーの力は定期的に治療することでよくなっていく。
治療ができなければ痛みは増して病は進行していくのだろう。
アシュリーが休んでいる時間を含めて、依頼はたくさんきていることだろう。

二人は依頼を完全に断るわけにもいかずに、いつものように受け続けているのだとしたらどうなるだろうか。
いつアシュリーが元に戻るかもわからない生殺し状態だ。
あとは治療を施すだけで以前と同じように大金が舞い込んでくるのに今はそれができていない。
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