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四章

⑤①

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* * *


アシュリーは爽やかな朝の風を感じながら、熱い紅茶をゆっくりと飲み込んだ。
ギルバートは笑顔でアシュリーの元へ。
頬にキスをして、彼は慈しむようにアシュリーの頭を撫でる。


「おはよう、アシュリー。今日はいいニュースがあるんだ」

「何かしら?」

「喜ぶと思うよ?」


ギルバートは内ポケットから真っ白な封筒を取り出した。


「……それは?」

「サルバリー国王からの手紙だよ」

「朝から最悪の気分だわ。今すぐ燃やしてくださる?」


アシュリーはニコリとしたまま表情ひとつ変えずに答えた。


「君なら喜ぶと思ったんだけどね。ユイナが力を使うのを拒否している。僕宛てやペイスリーブ王家相手じゃないところを見るとアシュリーの力を必要としているんじゃないかな?」

「えぇ、そうでしょうね。だから読む必要なんてないのよ」

「あはは、そうか……そうだね」


ギルバートが指で手紙を摘むと、真っ白な封筒が黒々とした闇に包まれて消えていく。
そして灰がヒラヒラと地に落ちていったのを侍女が風魔法を使い片付けた。

ギルバートは濡れた布で手を拭くと、アシュリーの目の前に朝食が運ばれる。
侍従が椅子を引くとギルバートは腰を下ろして席についた。


「アシュリーはこれからどうしたい?」

「どうもしないわ。ただ放っておけばいいのよ……それに今から本当の絶望を味わせることができるのに、わたくしが余計なことをする必要はないわ」

「それもそうだね」

「予定通り何も変わらない」

「なら、ユイナは用済みかな?」


ギルバートはそう言って持っていたグラスを傾けた。


「そうね。異世界の聖女様には元の世界に還っていただきましょう」

「あぁ、その準備は整っているよ」


ギルバートの言葉に、アシュリーの唇が弧を描く。


「ふふっ、優しいのね……ありがとう」

「君のためなら大金も惜しくないよ」

「お金がかかる女でがっかりした?」

「いいや?アシュリーはそれ以上のことを返してくれているからね」


アシュリーは「それならよかったわ」と小さく笑った。
ギルバートも優しい笑みを返す。


「優しいのはアシュリー、君の方だ」

「…………どうかしら」


そう言ったギルバートの手に黒い炎が上がる。
今度は真っ黒な封筒が現れた。


「最後まで何も言わないでいてくれたら助かるけれど……あの子、大丈夫かしら」

「別に今更、バレたところで構わないんじゃないかな」

「まぁ……悪い人」

「言い訳なんていくらでもできるからね」

「面倒はごめんだわ」


アシュリー淡々と言葉を返しながら、パンを千切って口に運んだ。
サルバリー国王たちが大金を使って異世界から呼び出したユイナを元いた世界へ還す。

アシュリーがユイナを元の世界に還す方法はないのかとギルバートに問いかけると「魔術師を捕まえれば責任を取らせることができる」と答えた。
つまり禁術を使わせてユイナを元の世界へと送り返すことができる。
ユイナは元の世界に戻り何事もなかったかのように暮らすことができるそうだ。
まるで悪夢から醒めるように、すべてが元に戻る。

(あぁ、羨ましい……わたくしはずっと悪夢の中にいるのに)

そのためにはユイナの〝元の世界に帰りたい〟という気持ちを増幅させなければならなかった。
それとサルバリー王家を使って魔術師を誘き出す必要がある。

夜会でユイナとオースティンの間に亀裂を入れて恐怖を植え付けてから孤立させる。
疑心暗鬼になったユイナは王宮から逃げ出して、プライドの高い国王と王妃がアシュリーに頼らなければならないほどに追い詰められているらしい。

(ウフフ……もうすぐよ。もうすぐ終わりはやってくる)

この復讐はユイナが消えた時にこそ、最大の効果を発揮する。
だからこそ、タイミングは見極めなければならなかった。


「ありがとう、ユイナ様。わたくしの役に立ってくれて………さようなら」


黒い封筒を受け取った侍女は、頭を下げた後に静かに部屋を出て行った。
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