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四章

⑤② ユイナside5

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* * *


一方、ユイナはオースティンの治療を終えて早足で自分の部屋に戻った。
すぐにベッドにうつ伏せになり、シーツを思いきり握り締めた。
オースティンの治療はユイナにとって苦痛でしかない。

(私の命が削れてるってことでしょう!?それを知りながら何度も何度も頼んでくるなんて……信じられない)

周囲から怒りや不満を向けられていることはわかっていた。
それにやはり自分が治療のためだけに必要とされていたのだと改めて思い知らされた。
以前は嬉しかった高待遇も裏が透けた今では気持ち悪くて仕方がない。
自分の周りにいる人がすべて敵に思える。
そう思うと部屋から一歩も出られなくなった。

毎日毎日、甘い言葉を吐いてくるオースティンを受け流す余裕もなく心は疲弊していた。
今では王妃教育もなくなり、部屋でボーッとしながら過ごしている。
それに以前、王宮から逃げ出そうとしたせいで監視が厳しくなっていた。
今、ユイナが一日でも離れたらオースティンはまた病に苦しむからだろう。
一時間おきに何かと理由をつけては侍女が部屋に入ってくる。

拒否しても「ユイナ様が心配なんです」と言われ、扉の外から返事をするまで何度も問いかけてくることもある。
とにかく窮屈で頭がおかしくなりそうだった。

(こんな生活、もう嫌……苦しいっ!)

そんな時は決まってアシュリーの言葉を思い出すのだ。
アシュリーも部屋に閉じ込められて治療をさせられていたと言っていた。
きっと今、自分はアシュリーと同じ状況なのだろう。
それに一日に一度は必ず力を使っている。

(このままだと私は……っ、怖い!)

元の世界ではどこにでもいる平凡な高校生だった自分が、異世界では特別な存在になった。
まるで物語に出てくるお姫様のようだと思った。
素敵な王子様との豪華な暮らしは夢のように輝いていた。

元の世界に帰れないと言われて寂しかったが、皆が『ユイナ』を必要としてくれた。
そして王子であるオースティンと結ばれて幸せの絶頂にいた。

けれど幸せは長くは続かなかった。
厳しすぎる王妃教育にオースティンの裏切り。
そして特別な力の代償。

すべては自分をうまく利用するための嘘だったのだ。
治療してもらえないのは困るから優しくしていただけ。

次々と明かされていく真実は残酷だった。
まるで今までいい思いをしてきた代償を支払っているようだ。
部屋に閉じ込もりながらオースティンの治療を続ける毎日は地獄のようだった。

(帰りたいよっ、皆に会いたい……!)

元の世界に帰りたくて仕方がない。
今みたいな特別な力がなくても、贅沢ができなくても、家族や友達と笑い合っていたあの日々に戻りたいと強く思う。

ユイナの目からは涙がポロポロと溢れ出た。

月が高く昇り皆が寝静まる時間だけがユイナが唯一自由になれる時間だった。
けれど扉の前には騎士がいて、ユイナが部屋から出て行かないかを見張っている。

(神様、助けて……)

月を見上げていた時だった。

──ガタッ!

突然、大きな音がして肩を揺らした。
恐怖を感じながらも音が鳴った窓の方へと足を進めた。

(……黒い、薔薇?)

窓を開けるとヒラヒラと舞う不気味な黒薔薇。
黒い薔薇を手に取った瞬間、黒い封筒が現れた。

(一体、誰が……)

今度は窓から逃げ出せないようにと、部屋は王宮の一番上へと移された。
窓までは絶壁で人がよじ登ることはできない。

心臓はドクドクと音を立てていた。
宛名は書いておらず、誰かの手紙を勝手に読むわけにはいかないと思いつつも、手紙の内容が気になって仕方なかった。

(誰かが困るといけないもの……!)

ユイナの心臓はドクドクと音を立てていた。
宛名は書いていない黒い封筒を手に取り、赤い蝋を丁寧に剥がしていく。
中には封筒と同じく真っ黒な紙が入っていた。


「──ッ!」


そこに書いてある文字を見て、ユイナは大きく目を見開いた。
溢れる涙は頬を伝い、黒い紙に染み込んでいく。
手紙を折り畳んでからそっと抱きしめた。

(アシュリー様、本当にありがとうございます……!)

ユイナは部屋に置いてあるメモに書き置きを残して、扉の外へと一歩踏み出したのだった。

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