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二章
①⑧
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ベルトルテ公爵邸に入ると、もうすっかり夜が更けていた。
ピーターも熟睡したのか、エヴァが彼を抱え上げても起きることはない。
ディアンヌはズキズキと痛む足元を見た。
包帯を巻いてもらったはずなのに血が滲んでいる。
捻った足は真っ赤に腫れている。
ピーターを抱えながら歩いたことが、とどめとなってしまったようだ。
その場でハイヒールを脱ぐわけにもいかずに、ディアンヌは痛みに耐えるしかなかった。
(それにしてもすごい屋敷だわ)
ディアンヌの想像を遥かに超える豪華な装飾品。
真っ赤な絨毯に壁に飾られている高級そうな絵や壺を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。
まるで絵本の世界に迷い込んでしまったようだ。
これ以上、足を動かせずに震えていると、リュドヴィックが侍女たちに指示を出しているのが見えた。
ライトブラウンの髪を二つにまとめているカトリーヌと呼ばれた侍女は、リュドヴィックを見て明らかに顔を赤らめている。
しかし彼の話を聞いた瞬間、驚いていると思いきや、すぐにディアンヌに敵意のこもった視線を送ってくるではないか。
(これは……なんだか不穏な予感ね)
改めてリュドヴィックを見るが、彼は彫刻のように美しい。
こんな男性がいるのかと思うのは前世の記憶が蘇ったからだろうか。
そんな彼と目が合ったディアンヌは軽く会釈すると、リュドヴィックはこちらにやってくる。
「改めてピーターの件、ありがとう」
「いえ……」
「今日はゆっくり休んでくれ」
「はい、ありがとうございます」
ディアンヌが頭を下げると、先ほど説明を受けていたカトリーヌが「こちらにどうぞ」と、低い声を出す。
しかしディアンヌは「はい」と返事を返したものの、その場から一歩も動くことはできない。
「ディアンヌ様、どうかされましたか?」
「えっと、あの……」
「ふざけていないで、早くしてくださいませ」
カトリーヌの苛立ちを滲ませた声が聞こえた。
そしてディアンヌにしか聞こえないように「どんくさ」と、吐き捨てるように言った。
(……この人、裏表激し過ぎだわ)
チラリと足元に視線を送り一歩踏み出すも、激痛に顔を歪めて止まってしまう。
カトリーヌの苛立ちに満ちたチッと舌打ちが聞こえた。
(もう少しだけ、がんばらないと……! 何を言われるかわからないもの)
そう言い聞かせたディアンヌが無理矢理足を動かそうとした時だった。
リュドヴィックがディアンヌの前で足を止めるとこちらに手を伸ばす。
「気づかなくてすまない」
「……え?」
何故かフワリと体が浮く感覚がした。
逞しい腕がディアンヌの体を持ち上げる。
ディアンヌが驚きながら瞼を開けると間近にリュドヴィックの端正な顔立ちが見えて息を止めた。
本日、二度目のお姫様抱っこである。
「無理をさせてしまったようだ。すぐに手当しよう。救急箱を部屋に頼む」
「……わ、わかりましたわ!」
「あの……!」
「足が痛んで動けないのだろう?」
リュドヴィックの言葉にディアンヌは小さく頷いた。
カトリーヌはリュドヴィックの行動にうっとりしていたり、ディアンヌを睨みつけたりと忙しそうだ。
「すぐに医師も手配してくれ」
「か、かしこまりました!」
だんだんと大袈裟になっていく状況に、ディアンヌは慌てたように声を上げる。
「大したことありませんから!」
「傷が悪化したら大変だ。歩けないほど辛いのだろう?」
彼の言う通りだった。
ディアンヌは何も言えずに押し黙る。
「あの……リュドヴィック様」
「それに早く着替えた方がいい」
「……はい」
ディアンヌが露出度の高いドレスを着ていることにより、彼の頬がほんのり赤くなっている。
そのことに気づくことはなく、リュドヴィックの優しさに甘えて体を預けていた。
ピーターも熟睡したのか、エヴァが彼を抱え上げても起きることはない。
ディアンヌはズキズキと痛む足元を見た。
包帯を巻いてもらったはずなのに血が滲んでいる。
捻った足は真っ赤に腫れている。
ピーターを抱えながら歩いたことが、とどめとなってしまったようだ。
その場でハイヒールを脱ぐわけにもいかずに、ディアンヌは痛みに耐えるしかなかった。
(それにしてもすごい屋敷だわ)
ディアンヌの想像を遥かに超える豪華な装飾品。
真っ赤な絨毯に壁に飾られている高級そうな絵や壺を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。
まるで絵本の世界に迷い込んでしまったようだ。
これ以上、足を動かせずに震えていると、リュドヴィックが侍女たちに指示を出しているのが見えた。
ライトブラウンの髪を二つにまとめているカトリーヌと呼ばれた侍女は、リュドヴィックを見て明らかに顔を赤らめている。
しかし彼の話を聞いた瞬間、驚いていると思いきや、すぐにディアンヌに敵意のこもった視線を送ってくるではないか。
(これは……なんだか不穏な予感ね)
改めてリュドヴィックを見るが、彼は彫刻のように美しい。
こんな男性がいるのかと思うのは前世の記憶が蘇ったからだろうか。
そんな彼と目が合ったディアンヌは軽く会釈すると、リュドヴィックはこちらにやってくる。
「改めてピーターの件、ありがとう」
「いえ……」
「今日はゆっくり休んでくれ」
「はい、ありがとうございます」
ディアンヌが頭を下げると、先ほど説明を受けていたカトリーヌが「こちらにどうぞ」と、低い声を出す。
しかしディアンヌは「はい」と返事を返したものの、その場から一歩も動くことはできない。
「ディアンヌ様、どうかされましたか?」
「えっと、あの……」
「ふざけていないで、早くしてくださいませ」
カトリーヌの苛立ちを滲ませた声が聞こえた。
そしてディアンヌにしか聞こえないように「どんくさ」と、吐き捨てるように言った。
(……この人、裏表激し過ぎだわ)
チラリと足元に視線を送り一歩踏み出すも、激痛に顔を歪めて止まってしまう。
カトリーヌの苛立ちに満ちたチッと舌打ちが聞こえた。
(もう少しだけ、がんばらないと……! 何を言われるかわからないもの)
そう言い聞かせたディアンヌが無理矢理足を動かそうとした時だった。
リュドヴィックがディアンヌの前で足を止めるとこちらに手を伸ばす。
「気づかなくてすまない」
「……え?」
何故かフワリと体が浮く感覚がした。
逞しい腕がディアンヌの体を持ち上げる。
ディアンヌが驚きながら瞼を開けると間近にリュドヴィックの端正な顔立ちが見えて息を止めた。
本日、二度目のお姫様抱っこである。
「無理をさせてしまったようだ。すぐに手当しよう。救急箱を部屋に頼む」
「……わ、わかりましたわ!」
「あの……!」
「足が痛んで動けないのだろう?」
リュドヴィックの言葉にディアンヌは小さく頷いた。
カトリーヌはリュドヴィックの行動にうっとりしていたり、ディアンヌを睨みつけたりと忙しそうだ。
「すぐに医師も手配してくれ」
「か、かしこまりました!」
だんだんと大袈裟になっていく状況に、ディアンヌは慌てたように声を上げる。
「大したことありませんから!」
「傷が悪化したら大変だ。歩けないほど辛いのだろう?」
彼の言う通りだった。
ディアンヌは何も言えずに押し黙る。
「あの……リュドヴィック様」
「それに早く着替えた方がいい」
「……はい」
ディアンヌが露出度の高いドレスを着ていることにより、彼の頬がほんのり赤くなっている。
そのことに気づくことはなく、リュドヴィックの優しさに甘えて体を預けていた。
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