【奨励賞】花屋の花子さん

●やきいもほくほく●

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第一章 花屋の花子さん

④ 古い女子トイレ

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「なんだかお化けやしきみたいたね」
「暗くなってきたよ。ねぇ、やっぱり……」
「三階のトイレまでもうすこしだね。小春、早く行こうよ!」

やっぱりやめよう、そう言おうとしたけれど夏希ちゃんは聞こえなかったみたい。
暗闇にむかって廊下を歩いていくと、今にも落ちそうな汚れた濃い茶色の木の板に『女子トイレ』の文字があった。

「三階の女子トイレって、ここじゃない?」
「……そうだね」
「小春、入ってみようよ!」
「わ、わかった」

ここまできたらもうやるしかないと夏希ちゃんの手をギュッとにぎってから歩き出した。
夏希ちゃんが女子トイレの木でできた押し戸をゆっくりとあげる。
ギギギッ……と、嫌な音が鳴っている。
壁も床もピンク色の小さなタイルが張られていて、なんだか可愛いなって思った。
新校舎の学校のトイレとはまったく違う。

けれど、廊下よりヒンヤリとした空気に鳥肌がたつ。
なんだか気味がわるい。
トイレの中には個室が三つ。
汚れたクリーム色のカベがあった。
不思議なことにトイレの個室の扉は誰もいない時には開いているはずなのに今は閉まっている。
ふと、顔をあげると……。

「ひゃ……!」
「えっ、なになに? 急にどうしたの?」

二つに結んだ髪と、お母さんが誕生日にプレゼントしてくれたピンク色のお花のかざりがついたヘアピン。
パッチリとした二重に驚いた顔。
花柄のワンピースが見えて、肩を揺らした。
自分の姿が鏡に映っていただけだと気がついて、わたしは体から力が抜けた。
心臓がバクバクと音をたてていて、口からとびだしてしまいそうになった。
夏希ちゃんもわたしの声を聞いて、さすがに驚いたみたい。
わたしの腕をつかんで、首を横に動かしながら辺りを確認している。

「ごめん、夏希ちゃん……鏡に自分の顔が映ってびっくりしちゃって」
「もうっ、驚かせないでよ! もうお花屋さんが見つかったのかと思ったじゃん!」

夏希ちゃんは泣きそうな顔で、わたしの腕を掴んでいる。

「もしかして夏希ちゃんも怖いの?」
「ばっ、ばか言わないでよ! 言ったでしょう? びっくりしただけなの」
「ふふっ、よかった。わたしだけが怖がっていると思ってたから……」

どうやら夏希ちゃんも怖くないフリをしているだけだったみたい。
わたしが安心して笑った時だった。

──ドンッ!

誰かが扉を押すような音がして、夏希ちゃんと抱き合った。

「だ、だれかいるの……?」
「でっでも、誰もいなかったよ?」

誰もいないはずの旧校舎に物音が聞こえたことにびっくりして、わたしの体は固くなって動かなくなってしまう。

「だ、だれかいませんかー?」
「ちょっと、夏希ちゃん! やめてよ」
「もしかしたらウチらの他に誰かいるかもしれないでしょう!?」

夏希ちゃんが大きな声で呼びかけても、だれも返事を返してくれない。
誰もいないことにホッと息を吐き出した時だった。

『ちょっと、ちょっと店の前で話しているのはだれ?』

後ろから知らない女の子の声がして、わたしたちは怖くて動けなかった。
恐怖で一歩も動けない。
それは夏希ちゃんも同じようだ。
口をパクパクさせながら声がした扉を指さしている。
そして三番目のトイレの扉がゆっくりと開いていく。
ひた、ひた……そんな音と共に汚れた上履きが見えたような気がした。

「ひっ……!」
「──キャアアアアアッ!」

わたしは思いきり叫びながら床に座り込んだ。
つられるようにして夏希ちゃんも悲鳴を上げる。

『あら、こんなにいい悲鳴は久しぶりだわ……!』
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