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一章 「この婚約は間違いだった」
②
しおりを挟む腰まで伸びたピンクゴールドの髪、ぱっちりと美しいゴールドの瞳。
彼女は誰もが認める絶世の美少女である。
周囲からは突然変異とすら呼ばれているほどに家族に似ていない。
クロエが生まれたばかりの頃は母が不貞行為を疑われるほどの大事件に発展するほどだったらしい。
シューマノン子爵家はどこを辿っても平凡すぎるくらい平凡だったからだ。
人間なのかと疑ってしまいそうになるほどに美しいクロエはとにかくどこへ行っても注目の的だった。
ミシュリーヌは三人兄妹。
シュマーノン子爵家にはミシュリーヌより二つ歳上の兄がいる。
エーワンは第三騎士団に所属しているのだが、花魔法と身体強化魔法を使うことができた。
ミシュリーヌとも似ていて、並んでいると兄妹に見えるだろう。
しかしクロエだけは別格だった。
シューマノン子爵家に突然として現れた美少女。
それに加えてクロエが持つ魔法も愛魔法と初めて名付けられるほどに珍しいものだった。
ベルガー王国で唯一の魔法。子爵ながら王太子の婚約者候補に名前が上がるほどだ。
魔法内容としては魅了魔法、恋愛成就など多岐に渡るのだが、人の心を操ってしまう魅了魔法を使うこと自体を禁じられているそうだ。
そんなクロエには幼い頃から毎日、ラブレターや求婚の手紙が頻繁に届いていた。
その美貌は他国まで広がり、傾国の美女と呼ばれるほどだ。
テーブルの上に積み上がっていく手紙をクロエは読むこともなく、宛先を確認するだけ。
中にはクロエが寄った店の定員、庭師、従者に彼女を一目見ただけの令息たちが求婚してくる。
あまりもひどいため、幼いミシュリーヌはベルガー国王に助けを求める手紙を書いた。
王太子の婚約者候補ということもあり、もしかしたら対応してくれるかもと思ったからだ。
そしてなんとミシュリーヌの願いを聞き入れてくれたベルガー国王はクロエへの接触を禁じてもらったのだ。
クロエが自分から話しかける場合は別だが、求婚やアピールは手紙のみでプレゼントも送ることは禁止されていた。
クロエ本人は自分の魔法を嫌っていたが、魔法など使わなくともクロエはモテモテだ。
ミシュリーヌにとってクロエは可愛い普通の妹だった。
それにクロエはさまざまな問題に巻き込まれてしまうため、それを助けて和ませるのもミシュリーヌの役割だと思っていた。
『婚約者を魅了魔法でとろうとした』
『パーティーで出会いの場をぶち壊して台無しにした』
『令息たちの視線をすべて奪った』
とにかくクロエはいるだけで、注目を集めてしまう。
令嬢たちには毛嫌われてしまい誤解されやすい。
令息の視線を一心に集めるクロエが気に入らないだろう。
それはいい家に嫁ぎたいという思いが強いため仕方ないことなのかもしれない。
物心ついた頃からトラブルに多く巻き込まれ続けて、クロエは家族以外は誰にも心を許さずにすっかり人間不信になってしまった。
令嬢も令息も大嫌いで屋敷から一歩も外に出なくなってしまったのだ。
このままではいけないとミシュリーヌは常にクロエに寄り添い続けた。
いい意味で平凡なミシュリーヌは令嬢たちとの仲は良好だった。
間に入ってミシュリーヌがなんとかクロエが社交界で楽しく過ごせるように少しずつ少しずつ誤解を解いていった。
最近のクロエはミシュリーヌがいなくても出かけられるほど、随分と強くなったような気がしていた。
彼女は社交界での立ち回りを学んでいったようだ。
令嬢たちと過ごす時間はどんどん増えていき、姉離れしてくれたのは嬉しいのだが、なんだか少しだけ寂しい。
それでも子爵邸内では、常にミシュリーヌにぴったりとくっついてくる可愛らしい妹だ。
そんな中、オレリアンからの手紙はシューマノン子爵家にとっては朗報ともいえる嬉しいものだった。
彼ならばクロエとお似合いだし、この国で唯一の魔法を持つ同士、いい理解者になるだろう。
他の令嬢たちの反応が気になるところだが、オレリアンと釣り合うのは王太子かオレリアンくらいだと言われていたため納得できるものもあるだろう。
(美男美女の夫婦になるのね。素敵だわ……!)
しかしミシュリーヌの予想とは違い、両親と兄のエーワンが何度確認しても手紙はミシュリーヌ宛てだったというわけだ。
(どう見てもわたしの名前が書かれているわ……でもどうして?)
侍女に呼ばれた両親と兄のエーワンが慌てた様子でやってきた。
三人も何度何度も手紙を確認した後に目を合わる。
沈黙が流れ続けていたが、父が呟くように言った。
「何故……ミシュリーヌを選ぼうと思ったんだ?」
「クロエじゃないの? どういうことかしら」
「ミシュリーヌ宛て……本当に?」
「さぁ……わかりません」
両親とエーワンの問いかけに答えるようにミシュリーヌは首を横に振る。
何故ミシュリーヌなのか、本人が一番疑問だからだ。
まさかと思うが……クロエとミシュリーヌを間違えたんじゃないか?」
「その可能性はありそうね。でも似た名前じゃないから間違えることまないと思うけど。エーワン、どう思う?」
「あの真面目なレダー公爵がこんなミスするとは思えないんだが……」
「「「…………」」」
エーワンの言葉に三人は押し黙ってしまう。
確かにあのオレリアンがこんなミスをするとは考えずらい。
ミシュリーヌは父に問いかける。
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