なんでもできるスキル〈ゲームマスター〉を手に入れたけど速攻飽きたので、ヒロインを「俺の考えた最強の主人公」に仕立て上げます

八白 嘘

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005 / 竜とパイプ亭

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 街に辿り着いたのは、夕刻のことだった。
 西洋風の建造物が建ち並ぶ街並みは、茜色に染め抜かれ、いっそ荘厳にすら感じられる。
 俺は安堵した。
 野宿をする羽目にはならずに済みそうだ。

「──……?」

 決して小さくはない規模の集落に見えるが、不思議と活気がない。
 民家の数に比して、人の往来が少ないのだ。

「あのー、すみません」

 道行く四十代半ばほどの女性に声を掛ける。

「ここらに宿ってありませんか?」

「ああ、ここらねえ」

 女性が、通りの遥か向こうへと視線を移す。

「向こうの山肌に遺跡が見えるでしょう。あの傍に、竜とパイプ亭って宿屋があるよ」

「竜とパイプ亭、ですね。ありがとうございます」

 俺には〈ゲームマスター〉と同時に自動翻訳の能力も与えられている。
 看板の文字を読むのに苦労することはないだろう。
 俺は、女性に会釈をすると、遠くに見える遺跡のほうへと足を向けた。
 岩肌を直接くり抜いたかのような遺跡は、ここからでも随分と朽ちていることがわかる。
 道なりに歩いて行くと、やがて、竜を模した看板を掲げた建造物が見えてくる。
 見上げると、屋根の上に、ひときわ大きな煙突が据えられていた。
 なるほど、竜とパイプというわけだ。
 冬になれば、暖炉によって生み出された煤まみれの煙が、あの煙突から立ちのぼるのだろう。
 その様子を想像しながら、竜とパイプ亭の玄関扉を押し開いた。

 まず目に入ったのは、広々としたホールに並べられた無数の丸テーブルだ。
 酒場と言うよりビアホールに近い。
 隅では、常連らしき数名がテーブルを二つくっつけて、楽しそうに酒を酌み交わしていた。
 経営状態が心配になるくらい、がらがらだ。
 だが、他人の心配をしている余裕はない。
 まず今夜の宿を確保しなければ。
 俺は、カウンターでゆったりと読書をしている女性に声を掛けた。

「すみません、宿を取りたいんですが……」

「──…………」

 眼鏡を掛けたピンク髪の女性──否、十代後半に見える少女が、値踏みをするようにこちらを見上げた。

「……えーと?」

「旅人、には見えませんが」

 そうだろうなあ。
 明らかに旅装ではないし。

「まあ、いろいろと事情がありまして……」

「どのような?」

 曖昧な返答で濁そうと思ったのだが、そうは問屋が卸さないらしい。
 そりゃ、身元不明の相手なんて泊めたくはないよな。

「あー……」

 いいや、ある程度は言ってしまえ。

「実は、行き倒れていたところを、奴隷商人の馬車に拾われたんです」

「奴隷商人」

「運よく鎖が古くなっていたので、なんとか逃げ出して、ここまで歩いてきました。お金はあるので安心してください」

 そう言って、鞄から財布を取り出す。

「……もっとも、拾ったものですけど」

「誰かを襲って奪ったのではなく?」

「こちとら身ひとつですからね。仮に襲ったとしても、あっさり返り討ちですよ」

「──…………」

 少女は、しばし思案すると、カウンターの奥から番号札の下がった鍵を一つ手に取った。

「一晩、青銅貨三枚となります」

 なんとかお眼鏡に適ったらしい。
 小さく安堵の息を吐く。

「軽くでいいんで、夕食もとりたいんですが」

「鉄貨五枚追加で、朝夕に食事がつきます」

「では、それで」

 俺は、財布から青銅貨を三枚、鉄と思しき貨幣を五枚取り出すと、カウンターに並べた。
 鉄貨十枚と青銅貨一枚が等価値だ。
 青銅貨十枚は銀貨一枚と、銀貨十枚は金貨一枚と等価値で、他にも銀貨とほぼ価値を同じくする神殿発行の神聖紙幣なるものも存在しているらしい。
 もっとも、縁があるかはわからないが。
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