なんでもできるスキル〈ゲームマスター〉を手に入れたけど速攻飽きたので、ヒロインを「俺の考えた最強の主人公」に仕立て上げます

八白 嘘

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006 / 攻略済みのダンジョン

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「えーと、一つ尋ねたいんですが」

「敬語はいりません。あなたは客ですし、年上に見えますから」

「そう? なら普通に話すよ」

「是非そうしてください。むずむずします」

「むずむずするのか……」

 思わず苦笑する。

「ここらにダンジョンはない? そこの遺跡とか、違うのかな」

 この世界には、ダンジョンなるものが無数に点在している。
 宝と魔物が冒険者を待ち受けるダンジョンは、冒険譚には欠かせない存在だ。

「──…………」

 少女が目を伏せる。

「たしかに、その遺跡は、ダンジョンの入口となっています」

「よっしゃ!」

 小さくガッツポーズを取る。
 ダンジョンを求めてさまよい歩く必要はなさそうだ。

「御存知かと思いますが、吟遊詩人を同行させなければダンジョンには入れません。これは、法律ではなく、神の定めた"法則"です。手を離せばリンゴが地面に落ちるのと同じこと」

 そうなのだ。
 吟遊詩人とは、冒険譚の目撃者であり、語り部でもある。
 だからこそ、彼らは一切の嘘を書き記すことができない。
 神は、嘘偽りのない冒険譚を求めているのだから。

「ああ、それなら大丈夫。俺は吟遊詩人なんだ。ほら」

 そう言って、羽根ペンと羊皮紙を喚び出してみせる。
 これは〈ゲームマスター〉というより、吟遊詩人自体に備わった能力だ。
 いつ何時でも目の前の冒険を書き留めることができるように、という配慮なのだろう。

「!」

 少女が、驚きに目をまるくする。

「吟遊詩人。久し振りに見ました」

「見たとこ街は寂れてるみたいだけど、問題ない。吟遊詩人なしでダンジョンに入ることはできなくても、吟遊詩人だけで冒険することは禁じられてないはずだ」

「それは、そうですが……」

「これでも剣の素養はあるんだ。丸腰だと何もできないけど、ダンジョンがあるなら武器屋くらいはあるだろ」

「──…………」

 少女が、意を決したように口を開く。

「このダンジョンは、既に、完全攻略が達成されているのです」

「……完全攻略?」

「すべてのボスモンスターは討伐され、すべての宝箱は開かれ、野生の生物が細々と生息するだけ。そこには、なんの冒険も発生し得ません。かつてはダンジョン攻略で賑わったこの街ですが、今となってはこの通り。冒険至上主義のこの世界では、既に攻略が終わったダンジョンに価値はないのです。私も、本来は、宿屋の看板娘ではなく、神殿から派遣されたダンジョンの管理者なのですが……」

 少女が自嘲気味に微笑む。

「このまま、暇を持て余しながら、余生を過ごすのでしょうね」

「……そう、か」
 余生という言葉を使うには、いささか若すぎる。
 だが、神官ともなれば、いろいろなしがらみがあるのだろう。
 ブラック企業なら辞めればいいが、神の信徒を辞するのは難しい。
 そのブラック企業すら辞められなかった俺が言うのだから、間違いない。

「それでも行くと言うのなら、止めはしません。大した危険もありませんから。時間の無駄とは思いますが……」

「いちおう、行くだけ行ってみるよ。俺、ダンジョン攻略初めてだからさ。最初は簡単なとこってのが定石だろ」

「たしかに。仲間がいないのであれば、慣れるのにちょうどいいかもしれませんね。生き残っているのは魔物ではなく野生生物だけですし、命の危機に晒されることもないでしょう」

「ま、冒険譚になるかは微妙だけどな……」

「ログが冒険譚として認められるかは、神のみぞ知るところです」

「認められたら出版できるんだよな」

「ええ。ログを奉納し、神印しんいんたまわることができれば、それは"神の認めた物語"として神殿が責任を持って出版します。当然、その冒険譚に出演した人々は、印税でがっぽがぽというわけです」

「そこらへん、妙に生々しいというか、俗っぽいというか……」

「事実です。一度でも素晴らしい物語を紡いだ人々は、その後の人生でお金に困ることはありません。もっとも、それに飽きて別の冒険へ向かう冒険者が多いのも、また事実ではありますが」

 わかる気がする。
 TRPGでも同じだ。
 目的は冒険それ自体であって、金銭ではない。
 この世界の冒険者たちは、命を懸けてそれを実践しているというだけの話だろう。
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