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057 / 第六層攻略最前線
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第五層の地図を写し終えたあと、今回の探索で何が起こったのかをアーネに話していた。
しっかりと同席して第六層の情報を得ようとするあたり、ナナセはしたたかだ。
「──木人、ですか」
「ああ。巨木が人の形にくり抜かれて、それが襲ってくる。精霊が動かしてるように見えた。一部の精霊は、俺たちを外敵と見なしてるらしい」
「アンタの言う通りなら、巨木も精霊も無尽蔵でしょ。下手すればジリ貧になるんじゃない?」
「一部って言ったろ。たしかにきりはないけど、頻度自体はそう高くない。全滅させるのは不可能に近いけどな」
「ふうん。ま、全滅させる気なんてないから、いいけど」
アーネが言葉を挟む。
「魔物は、一匹でも残れば、時間の経過によって元の数まで戻ります。完全討伐すればその層は安全になりますが、希少な素材の取れる魔物もいますので、良し悪しですね」
「……もしかして、あのダンジョンって」
「ええ。全身から希少な素材を剥ぐことができる魔物が深層に生息していました。競うように討伐された結果が、この通りです」
ナナセがしみじみと言う。
「人間は愚かねえ……」
その通りだと思った。
しっかりと管理し、配分すれば、素材の安定供給が見込めたろうに。
「そんなことより、アタシは精霊に興味津々だわ。上手く捕まえて売れないかしら」
「それ、俺たちも考えた。人工精霊用の小瓶で捕まえてみたんだけど、あいつら物質を通り抜けるんだよな。試しにと思って魔法の鍵も使ってみたんだけど、それすらすり抜けた。物質でも魔法でも閉じ込められないんじゃ、お手上げでさ」
「そう上手くは行かないってことか。大金持ちになれるかと思ったんだけど」
「精霊の研究は、六層のような生息地で直接行われるそうです。特殊な捕獲呪で捕まえることも可能ではあるのですが、土地から離れると衰弱して消滅してしまいます。売り払ってがっぽがっぽは難しいでしょうね」
「……なんだか、すっごくもったいないことをした気分だわ」
「わかる」
べつに損をしたわけでもないのだが、皮算用が無に帰すとそんな気持ちになる。
「木人はあんまし魔物って感じしないわよね。普通の魔物はいないの?」
「いちおう三種類確認してる。ただ、いずれも臆病で、接敵するとすぐ逃げる。たまーに遠距離から攻撃してくるけど、実害はさしてないし、脅威になるのは木人だけだな」
「なんだ、楽勝じゃないの」
「いや、そうとも限らない。この木人が、やたらと硬い上に痛みを感じないんだよ。精霊が操ってるんだから当然っちゃ当然だけど。戦闘が続行できないくらいに破壊するか、火炎呪で焼き払うくらいしか倒す方法がない。ナナセたちとは相性が悪いかもな」
「なーるほどー……」
ナナセが思案する。
「なら、ルクレツィアの水撃呪は封印ね。水で濡らすと雷鳴呪が連鎖して使い勝手がいいんだけど、神経を持つ相手じゃなさそうだし。普通に雷鳴呪だけ使ったほうがワンチャン燃えてよさそうだわ」
「物理はどうですか?」
「硬いと言っても木製でしょ。それなら、うちのソディア──大剣使いでもなんとかなると思う。ただ、グラナダは本格的に役立たずね。あいつの武器、ナイフだから」
「そいつは不利だな……」
得物がナイフでは、どんな達人だってあの木人を仕留めることはできないだろう。
「そう考えると、やっぱパーティメンバーは多いほうがいいんだな。攻撃手段が少ないと詰む可能性がある」
「そうよ。だからこそ、パーティには別々の役割の人間を揃えるわけ。多ければ多いほどいいってわけでもないけどね」
「分け前が減るからか?」
「それもある。あるけど……」
ナナセが溜め息をつく。
「登場人物が多いと、ウケが悪いのよ。誰が誰だかわからないってね。ノンフィクションだから、極端なキャラ付けをするわけにも行かないし……」
「ああ……」
切実な問題だった。
「戦力、分け前、書きやすさ──このあたりのバランスが取れるのが、四人から六人って言われてるわ。吟遊詩人含めね。だから、あんたたちは心配なの。二人とかあり得ないわよ」
「それは、わかってるんだけど……」
だが、いないものは誘えないのだ。
しっかりと同席して第六層の情報を得ようとするあたり、ナナセはしたたかだ。
「──木人、ですか」
「ああ。巨木が人の形にくり抜かれて、それが襲ってくる。精霊が動かしてるように見えた。一部の精霊は、俺たちを外敵と見なしてるらしい」
「アンタの言う通りなら、巨木も精霊も無尽蔵でしょ。下手すればジリ貧になるんじゃない?」
「一部って言ったろ。たしかにきりはないけど、頻度自体はそう高くない。全滅させるのは不可能に近いけどな」
「ふうん。ま、全滅させる気なんてないから、いいけど」
アーネが言葉を挟む。
「魔物は、一匹でも残れば、時間の経過によって元の数まで戻ります。完全討伐すればその層は安全になりますが、希少な素材の取れる魔物もいますので、良し悪しですね」
「……もしかして、あのダンジョンって」
「ええ。全身から希少な素材を剥ぐことができる魔物が深層に生息していました。競うように討伐された結果が、この通りです」
ナナセがしみじみと言う。
「人間は愚かねえ……」
その通りだと思った。
しっかりと管理し、配分すれば、素材の安定供給が見込めたろうに。
「そんなことより、アタシは精霊に興味津々だわ。上手く捕まえて売れないかしら」
「それ、俺たちも考えた。人工精霊用の小瓶で捕まえてみたんだけど、あいつら物質を通り抜けるんだよな。試しにと思って魔法の鍵も使ってみたんだけど、それすらすり抜けた。物質でも魔法でも閉じ込められないんじゃ、お手上げでさ」
「そう上手くは行かないってことか。大金持ちになれるかと思ったんだけど」
「精霊の研究は、六層のような生息地で直接行われるそうです。特殊な捕獲呪で捕まえることも可能ではあるのですが、土地から離れると衰弱して消滅してしまいます。売り払ってがっぽがっぽは難しいでしょうね」
「……なんだか、すっごくもったいないことをした気分だわ」
「わかる」
べつに損をしたわけでもないのだが、皮算用が無に帰すとそんな気持ちになる。
「木人はあんまし魔物って感じしないわよね。普通の魔物はいないの?」
「いちおう三種類確認してる。ただ、いずれも臆病で、接敵するとすぐ逃げる。たまーに遠距離から攻撃してくるけど、実害はさしてないし、脅威になるのは木人だけだな」
「なんだ、楽勝じゃないの」
「いや、そうとも限らない。この木人が、やたらと硬い上に痛みを感じないんだよ。精霊が操ってるんだから当然っちゃ当然だけど。戦闘が続行できないくらいに破壊するか、火炎呪で焼き払うくらいしか倒す方法がない。ナナセたちとは相性が悪いかもな」
「なーるほどー……」
ナナセが思案する。
「なら、ルクレツィアの水撃呪は封印ね。水で濡らすと雷鳴呪が連鎖して使い勝手がいいんだけど、神経を持つ相手じゃなさそうだし。普通に雷鳴呪だけ使ったほうがワンチャン燃えてよさそうだわ」
「物理はどうですか?」
「硬いと言っても木製でしょ。それなら、うちのソディア──大剣使いでもなんとかなると思う。ただ、グラナダは本格的に役立たずね。あいつの武器、ナイフだから」
「そいつは不利だな……」
得物がナイフでは、どんな達人だってあの木人を仕留めることはできないだろう。
「そう考えると、やっぱパーティメンバーは多いほうがいいんだな。攻撃手段が少ないと詰む可能性がある」
「そうよ。だからこそ、パーティには別々の役割の人間を揃えるわけ。多ければ多いほどいいってわけでもないけどね」
「分け前が減るからか?」
「それもある。あるけど……」
ナナセが溜め息をつく。
「登場人物が多いと、ウケが悪いのよ。誰が誰だかわからないってね。ノンフィクションだから、極端なキャラ付けをするわけにも行かないし……」
「ああ……」
切実な問題だった。
「戦力、分け前、書きやすさ──このあたりのバランスが取れるのが、四人から六人って言われてるわ。吟遊詩人含めね。だから、あんたたちは心配なの。二人とかあり得ないわよ」
「それは、わかってるんだけど……」
だが、いないものは誘えないのだ。
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