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075 / 長髪と禿頭(2/4)
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「へえ。あんたら、吟遊詩人勧誘するのに脅迫まですんのな」
「おめェが嫌がるからだろ、色男。吟遊詩人なんざ、俺たちの後ろでチマチマ地図描いてりゃいいんだよ。それで分け前もらえるんだから、楽な仕事だろ」
「はッは! おいらたちゃ冒険譚なんざ、カケラも興味ねえかんな!」
「そりゃ、そんだけ醜悪な性格してたら不快な冒険譚しか書き上がらないもんな。自分たちのことよーくわかってて、偉いでちゅねー」
脳内で命令文を走らせる。
アーネを傷つけてはいけない。
竜とパイプ亭を燃やしてはいけない。
その二つの条件を満たすのは、容易だ。
「……おい、そりゃ煽り文句のつもりかよ。吟遊詩人風情がよ」
長髪の男が、ゆらりと立ち上がる。
そして、腰に佩いた長剣に手を掛けた。
「に、刃傷沙汰《にんじょうざた》はいけません!」
俺は、アーネを安心させるように微笑んでみせた。
「大丈夫。そんなことにはならないよ」
「お、なんだなんだ。土下座でも決めてくれんのか?」
そう言って、長髪の男が下卑た笑みを浮かべる。
「いや、なに」
男の長剣を、顎で示す。
「そんな熱いもん、よく持てるなって話だよ」
「は! 何言ってやが──」
ジュウ、と、何かが焼ける音がした。
「……?」
冒険者が、自分の手元を見る。
長剣の持ち手から白煙が上がっていた。
「──あ……ッ、ぢい!」
「うーわ、反応鈍いな。そんなんで魔物と戦えんのかよ」
大男が、心配そうに長髪の男を見やる。
「お、おい、大丈夫かよお」
「てンめえ……、何しやがった!」
「何も?」
「ざっけんな! おい、こいつやんぞ! ぶッ殺す!」
「お、おう……」
大男が、ようやくアーネを離す。
「いけません! ここは冒険者ギルド、いさかいは御法度です! 神殿から厳罰を与えられても構わないのですか!」
「ぐ……」
二人が、苦々しく奥歯を軋ませる。
「賢い冒険者サマは、ンな頭の悪い真似しませんよねえ。よわーいよわーい吟遊詩人をボコにしようとして返り討ちなんざ、俺なら恥ずかしくて外歩けないもんな。神殿が怖いなんて大義名分で逃げられるんだから、運が良──」
「リュータ、挑発しないの!」
びし。
「あだ!」
フェリテの手刀が俺の後頭部を打ち据える。
すこし、我に返った。
「……すまん。頭に血がのぼってたみたいだ」
「大丈夫。気持ち、わかるから……」
「──おい」
額に血管を浮き上がらせた長髪の男が、人を殺せそうな目で俺を睨む。
「ここまでふざけた真似されて、矛を収められるわけねェだろうがよ!」
「──…………」
フェリテが、大男を見上げる。
「わかった。平和的に、腕相撲で勝負しよう。あたしが勝ったら大人しくすること」
大男が呵々大笑する。
「わははッ! おめーみたいなヒョロい女が、おいらに勝てるわけねーだろが!」
「ンで、負けたら何してくれんだ、お嬢ちゃん」
フェリテが不敵に微笑む。
「いいよ、なんでもしてあげる。リュータを貸してあげてもいいよ」
「──…………」
「──……」
二人の冒険者が、下卑た顔を見合わせた。
きっと猥褻なことを考えているのだろう。
「……やめたほうがいいと思うけどな」
俺の呟きを別の意味に取ったのか、大男がアーネの腕を離し、笑いながらテーブルに右肘を置いた。
「ふはは、吐いた言葉はもう飲み込めねーよなあ! ベッドでたっぷり可愛がってやるよ!」
もう勝ったつもりでいるらしい。
「お前らに言ったんだよ、クズ野郎ども。いい機会だ。プライドべっきべきにへし折られておけば?」
「あーん?」
「いいから、始めようよ」
フェリテが腰を落とし、大男の右手を握る。
大人と子供ほどに大きさが違うため、互いに握りにくそうだ。
「おめェが嫌がるからだろ、色男。吟遊詩人なんざ、俺たちの後ろでチマチマ地図描いてりゃいいんだよ。それで分け前もらえるんだから、楽な仕事だろ」
「はッは! おいらたちゃ冒険譚なんざ、カケラも興味ねえかんな!」
「そりゃ、そんだけ醜悪な性格してたら不快な冒険譚しか書き上がらないもんな。自分たちのことよーくわかってて、偉いでちゅねー」
脳内で命令文を走らせる。
アーネを傷つけてはいけない。
竜とパイプ亭を燃やしてはいけない。
その二つの条件を満たすのは、容易だ。
「……おい、そりゃ煽り文句のつもりかよ。吟遊詩人風情がよ」
長髪の男が、ゆらりと立ち上がる。
そして、腰に佩いた長剣に手を掛けた。
「に、刃傷沙汰《にんじょうざた》はいけません!」
俺は、アーネを安心させるように微笑んでみせた。
「大丈夫。そんなことにはならないよ」
「お、なんだなんだ。土下座でも決めてくれんのか?」
そう言って、長髪の男が下卑た笑みを浮かべる。
「いや、なに」
男の長剣を、顎で示す。
「そんな熱いもん、よく持てるなって話だよ」
「は! 何言ってやが──」
ジュウ、と、何かが焼ける音がした。
「……?」
冒険者が、自分の手元を見る。
長剣の持ち手から白煙が上がっていた。
「──あ……ッ、ぢい!」
「うーわ、反応鈍いな。そんなんで魔物と戦えんのかよ」
大男が、心配そうに長髪の男を見やる。
「お、おい、大丈夫かよお」
「てンめえ……、何しやがった!」
「何も?」
「ざっけんな! おい、こいつやんぞ! ぶッ殺す!」
「お、おう……」
大男が、ようやくアーネを離す。
「いけません! ここは冒険者ギルド、いさかいは御法度です! 神殿から厳罰を与えられても構わないのですか!」
「ぐ……」
二人が、苦々しく奥歯を軋ませる。
「賢い冒険者サマは、ンな頭の悪い真似しませんよねえ。よわーいよわーい吟遊詩人をボコにしようとして返り討ちなんざ、俺なら恥ずかしくて外歩けないもんな。神殿が怖いなんて大義名分で逃げられるんだから、運が良──」
「リュータ、挑発しないの!」
びし。
「あだ!」
フェリテの手刀が俺の後頭部を打ち据える。
すこし、我に返った。
「……すまん。頭に血がのぼってたみたいだ」
「大丈夫。気持ち、わかるから……」
「──おい」
額に血管を浮き上がらせた長髪の男が、人を殺せそうな目で俺を睨む。
「ここまでふざけた真似されて、矛を収められるわけねェだろうがよ!」
「──…………」
フェリテが、大男を見上げる。
「わかった。平和的に、腕相撲で勝負しよう。あたしが勝ったら大人しくすること」
大男が呵々大笑する。
「わははッ! おめーみたいなヒョロい女が、おいらに勝てるわけねーだろが!」
「ンで、負けたら何してくれんだ、お嬢ちゃん」
フェリテが不敵に微笑む。
「いいよ、なんでもしてあげる。リュータを貸してあげてもいいよ」
「──…………」
「──……」
二人の冒険者が、下卑た顔を見合わせた。
きっと猥褻なことを考えているのだろう。
「……やめたほうがいいと思うけどな」
俺の呟きを別の意味に取ったのか、大男がアーネの腕を離し、笑いながらテーブルに右肘を置いた。
「ふはは、吐いた言葉はもう飲み込めねーよなあ! ベッドでたっぷり可愛がってやるよ!」
もう勝ったつもりでいるらしい。
「お前らに言ったんだよ、クズ野郎ども。いい機会だ。プライドべっきべきにへし折られておけば?」
「あーん?」
「いいから、始めようよ」
フェリテが腰を落とし、大男の右手を握る。
大人と子供ほどに大きさが違うため、互いに握りにくそうだ。
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