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第三話
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今日も動物園は無事に閉まり、獣舎に移動すると二階堂くんがやってくる。けれど僕は背を向けたままでいた。
「昨日はごめんな」
二階堂くんがそばに屈んで触れようとする。僕は数歩歩いてその手を拒絶した。
今日はずっとこんな感じだった。二階堂くんが触ろうとするなら避けて、知らんぷりを貫く。広告用の動画としてカメラを向けて企画も用意していたようだけれど、僕は家の角に頭を突っ込みカメラに映るのは尻だけの状態にして全てを拒絶した。
けれどこれも僕を蔑ろにした二階堂くんが悪いのだ。
僕だって謝られてすぐに許す程簡単ではない。
「ほらココアの好きなコッペパンだ。にんじんとサツマイモも挟んである」
ちらりと見ると僕の大好きなコッペパンがそこにあった。しかも中にはにんじんとサツマイモまである。
「ココア本当にごめんな。……けどどうか俺の気持ち、受け取ってくれないか?」
そのコッペパンはお詫びの品といったところだろうか。改めて二階堂くんの思いを受け止める。
そして僕は喜んでそれにかぶりついた。
仕方ないな~。許すのは今回だけだからね~。
そんな僕の様子に安心したようで二階堂くんが僕に触れる。撫でられる久しぶりの感覚は気持ちよくて目を細めてうっとり浸っていた。
けれどそんな天国のような時間もすぐに終わってしまう。ブーブブと二階堂くんのポケットが震えて、彼が手を突っ込んでスマホを取り出し画面を確認する。
二階堂くんの顔がみるみる内に怖くなっていく。
「……あの野郎」
そう呟くと二階堂くんが急に立ち上がる。
えっ。
僕の戸惑いは大きい。もっと撫でて欲しいと二階堂くんの足に縋り付くと彼は「ごめん」と謝ってきた。
「アイツ、俺が嫌なことをして楽しんでやがるんだ。だから一度旭を懲らしめに行ってくる」
また旭……。
何が二階堂くんをそんなに怒らせているのか分からない。けれど旭を優先しているのは間違いない。僕は寂しくなって離れていく足にしがみついたまま拙い二足歩行で着いていく。
二階堂くん行かないでよ。
見上げると二階堂くんがサラリと軽く頭を撫でてくる。
「明日はココアが満足するまで構ってあげるから」
嫌だ。それ昨日も同じようなこと言ってたじゃんか。
二階堂くんが困ったような表情を浮かべる。そして思いついたように「ほら」と向こうを指差した。
「まだココアの好きなコッペパンが残ってるぞ。食べないのか?」
気を逸らした内に離れようとする二階堂くんの見え透いた算段に今までの寂しさを塗り潰す勢いで怒りが爆発的に湧いてくる。
怒りに支配された時にはもう遅かった。
「っ……!」
二階堂くんが痛みに顔を歪める。先程まで僕を撫でていた彼の指からは血が流れていた。
……あ。僕、……そんな。
床に落ちる赤い雫。僕は自分が二階堂くんを傷つけてしまったことが信じられなくて後退る。
二階堂くんが、僕が噛んだ指を見る。そして彼は怒るでもなく僕に安心させるような微笑みを浮かべた。
「大丈夫、傷は深くない。ココア、また明日な」
余程急いでいるのだろう。二階堂くんはそれだけ言って寝室を出て行く。
けれど僕にしてみればその様子が、対応が面倒だからと当たり障りのないことを簡単に言って済ましているようだった。
それが、僕は二階堂くんに愛想を尽かされてしまったのだと痛感させる。
静かになった寝室で僕は頭を抱える。
うわぁぁん。僕はなんてことをしてしまったんだぁぁ。二階堂くんを傷つけるなんて。絶対二階堂くんに嫌われちゃったよぉ。
もうコッペパンを見ても食欲は湧かなかった。
明日二階堂くんに会ってすぐ謝れば許してくれるだろうか。そしたら愛情を取り戻してくれるだろうか。
僕はその夜、不安で心がいっぱいになって一睡も出来なかった。
「昨日はごめんな」
二階堂くんがそばに屈んで触れようとする。僕は数歩歩いてその手を拒絶した。
今日はずっとこんな感じだった。二階堂くんが触ろうとするなら避けて、知らんぷりを貫く。広告用の動画としてカメラを向けて企画も用意していたようだけれど、僕は家の角に頭を突っ込みカメラに映るのは尻だけの状態にして全てを拒絶した。
けれどこれも僕を蔑ろにした二階堂くんが悪いのだ。
僕だって謝られてすぐに許す程簡単ではない。
「ほらココアの好きなコッペパンだ。にんじんとサツマイモも挟んである」
ちらりと見ると僕の大好きなコッペパンがそこにあった。しかも中にはにんじんとサツマイモまである。
「ココア本当にごめんな。……けどどうか俺の気持ち、受け取ってくれないか?」
そのコッペパンはお詫びの品といったところだろうか。改めて二階堂くんの思いを受け止める。
そして僕は喜んでそれにかぶりついた。
仕方ないな~。許すのは今回だけだからね~。
そんな僕の様子に安心したようで二階堂くんが僕に触れる。撫でられる久しぶりの感覚は気持ちよくて目を細めてうっとり浸っていた。
けれどそんな天国のような時間もすぐに終わってしまう。ブーブブと二階堂くんのポケットが震えて、彼が手を突っ込んでスマホを取り出し画面を確認する。
二階堂くんの顔がみるみる内に怖くなっていく。
「……あの野郎」
そう呟くと二階堂くんが急に立ち上がる。
えっ。
僕の戸惑いは大きい。もっと撫でて欲しいと二階堂くんの足に縋り付くと彼は「ごめん」と謝ってきた。
「アイツ、俺が嫌なことをして楽しんでやがるんだ。だから一度旭を懲らしめに行ってくる」
また旭……。
何が二階堂くんをそんなに怒らせているのか分からない。けれど旭を優先しているのは間違いない。僕は寂しくなって離れていく足にしがみついたまま拙い二足歩行で着いていく。
二階堂くん行かないでよ。
見上げると二階堂くんがサラリと軽く頭を撫でてくる。
「明日はココアが満足するまで構ってあげるから」
嫌だ。それ昨日も同じようなこと言ってたじゃんか。
二階堂くんが困ったような表情を浮かべる。そして思いついたように「ほら」と向こうを指差した。
「まだココアの好きなコッペパンが残ってるぞ。食べないのか?」
気を逸らした内に離れようとする二階堂くんの見え透いた算段に今までの寂しさを塗り潰す勢いで怒りが爆発的に湧いてくる。
怒りに支配された時にはもう遅かった。
「っ……!」
二階堂くんが痛みに顔を歪める。先程まで僕を撫でていた彼の指からは血が流れていた。
……あ。僕、……そんな。
床に落ちる赤い雫。僕は自分が二階堂くんを傷つけてしまったことが信じられなくて後退る。
二階堂くんが、僕が噛んだ指を見る。そして彼は怒るでもなく僕に安心させるような微笑みを浮かべた。
「大丈夫、傷は深くない。ココア、また明日な」
余程急いでいるのだろう。二階堂くんはそれだけ言って寝室を出て行く。
けれど僕にしてみればその様子が、対応が面倒だからと当たり障りのないことを簡単に言って済ましているようだった。
それが、僕は二階堂くんに愛想を尽かされてしまったのだと痛感させる。
静かになった寝室で僕は頭を抱える。
うわぁぁん。僕はなんてことをしてしまったんだぁぁ。二階堂くんを傷つけるなんて。絶対二階堂くんに嫌われちゃったよぉ。
もうコッペパンを見ても食欲は湧かなかった。
明日二階堂くんに会ってすぐ謝れば許してくれるだろうか。そしたら愛情を取り戻してくれるだろうか。
僕はその夜、不安で心がいっぱいになって一睡も出来なかった。
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