溺愛処方にご用心

皐月もも

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1巻

1-3

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「エミリア?」
「ん……アル、だめ……恥ずかしいの……ご、ごめんなさい」

 アルベルトの声が少し沈んだため、エミリアは指の隙間から彼を見て謝った。

「どうして謝るの? いいよ……可愛いから許してあげる。でも、もう少し積極的になってくれると、僕はもっと嬉しいんだけどね」
「あっ……」

 グッと、内腿うちももに彼の熱塊が押し付けられる。硬くて、熱い……

「今日も……僕がしていいの?」
「……き、聞かないで」

 恥ずかしさに涙がにじむ。エミリアはアルベルトにぎゅっと抱きつくことで、肯定の気持ちを伝えた。これが彼女の精一杯だ。

「だーめ。欲しいって、ちゃんと言って? ね、エミリア」

 アルベルトはエミリアを抱きしめ返してくれるが、耳元でささやくだけで、身体を繋げようとはしない。

「うぅ……」

「欲しい」なんて言い方は、はしたない気がするし、恥ずかしくて言いにくい。かといって否定も出来ず、エミリアは首をすくめてうなる。
 すると、アルベルトは苦笑して、キスをしてくれた。

「仕方ないね……エミリア、今日は許してあげる」

 仕方ないと言いながらも、彼のキスはいつくしみに溢れたものだ。だんだんとキスを深くしつつ、アルベルトはエミリアの泉にたかぶりをあてがった。

「まだれているね。恥ずかしがっていても、僕を待っていてくれて……嬉しい」
「あ、ア……アル……」

 たかぶりが泉の奥を目指して入り込む。途中、何度かゆるゆると抜き差しを繰り返して蜜をまとったたかぶりは、じっくりとエミリアの中を味わうように最奥へ辿り着いた。

「ああ……熱い。絡み付いてくる」

 恍惚こうこつのため息とともにアルベルトが呟き、腰を擦り付ける。

「んんっ、あ、はぁっ」

 たけった熱塊に膣壁を擦られると、湧き上がってくる快感に逆らえない。エミリアの中は、そんな甘い刺激を与えてくれるアルベルトを離さんと言わんばかりに彼に絡みつき、うごめく。

「エミリア……」
「あぁっ……アル、アル……っ」

 アルベルトの呼吸が乱れ始め、汗ばんだ肌がエミリアのそれにしっとりと合わさる。彼女は夢中で彼にしがみつき、与えられる愉悦ゆえつひたった。
 ぐちゅぐちゅと音を立てて、隘路あいろを押し広げられる。
 硬く大きな質量は苦しいのに、とろけたそこは悦びをむさぼろうと屹立に吸い付く。
 アルベルトは薄く唇を開き、なまめかしい吐息をこぼしつつ、自身の抜き差しを繰り返した。
 押し込むときは、柔らかさを堪能するようにじっくりと、引き抜くときは巧みに気持ちいい場所を先端でかすめていく。
 一定のリズムでそれを繰り返され、涙が出るほど感じてしまい、エミリアはシーツを握り締めて身悶みもだえた。

「エミリア、ダメだ……激しくするよ?」
「んっ、ああッ――」

 余裕がなさそうなのに、それでもエミリアを気遣ってくれるアルベルト。彼の動きが激しくなって、エミリアは更に翻弄ほんろうされる。

「あ、あぁっ……は、あん……あッ」

 エミリアの口からは、もう意味をなさない声しか出てこない。膨らんでは弾けていく快感に、意識が追いやられる。
 アルベルトは、律動に合わせて揺れるエミリアの乳房に手を伸ばし、ピンと存在を主張するつぼみを擦った。
 もう片方のつぼみにも同じように刺激を与えられ、エミリアは身体をらせてあえぐ。

「ああぁっ!」

 そうすると、更に胸を突き出す格好になり、同時に彼のたかぶりを締め付けてしまうのに……

「……っ、エミリア、そんなに……っく」

 アルベルトは眉根を寄せて苦しそうな表情をしつつも、激しい抽挿ちゅうそうを止めない。エミリアはシーツを掴み、大きな波に耐えた。
 だが、耐えようとすればするほど、快楽を強く意識してしまう。そして、大きな波が彼女の意識をさらおうと押し寄せてくる。

「ああっ、あ、アル……アル、あっ」
「んっ、イッて……僕も、もう……」

 アルベルトは、エミリアを安心させるために彼女の頬をそっと包み込み、唇を重ねた。その優しい動作とは対照的に、彼のたかぶりはエミリアの中で更に膨らみ、高波を作り続ける。

「あッ、は……あ、んぅ、は……っ、あぁ――ッ」

 そしてエミリアは一際高い快楽の波にさらわれて、身体を震わせた。アルベルトもかすかにうめき、白濁を吐き出す。

「あ……」

 そそがれた精を受け止め、エミリアは彼を抱きしめた。
 じんわり広がる愛しい人の熱を感じ、また涙がにじむ。

「エミリア……愛してる」
「ん、アル」

 荒い呼吸の合間にささやいて、口付けを落としてくれるアルベルト。エミリアは彼のしっとりと汗ばんだ背に手を回し、それを受け入れた。
 しばらく軽い触れ合いを続けた後、アルベルトは名残なごり惜しそうにエミリアから身体を離す。

「エミリア、大丈夫? つらくなかった?」

 アルベルトはエミリアを気遣って声を掛け、髪をいてくれる。

「うん……」
「気持ちよかった?」
「――っ! そんなこと、聞かないで……」

 心地よさにうとうとしていたエミリアだが、アルベルトの一言で先ほどの火照ほてりが戻ってきた。
 彼女は脱がされた寝衣を素早く拾い、前も後ろも確認せずにかぶった。

「……また照れてる」
「恥ずかしいの……アルってば、知っているくせに……」

 もぞもぞと寝衣の後ろ前を直しつつ、エミリアは恨めしそうに抗議する。

「うん。ごめんね」

 アルベルトはクスッと笑い、エミリアの頭をでた。

「でも、エミリアが気持ちよくなってくれたのか知りたいのは、本当の気持ちだよ。僕ばっかりじゃ嫌だから、ね?」

 アルベルトに引き寄せられて、エミリアは再びベッドに沈む。

「う……」

 イエスともノーとも返せず、曖昧あいまいうなり、彼女はアルベルトの胸に顔をうずめた。
 アルベルトのストレートな愛情表現には、恥ずかしくてついていけないときがある。嬉しくないわけではないのだが、あまりに率直な彼にどうこたえていいのかわからなくなるのだ。
 男女の違いなのか、それとも単に性格の問題なのか。
 エミリアはそんなことを考えつつも、アルベルトの胸の鼓動を聴き、再びうとうとし始めた。
 彼の体温や匂いには、安心感がある。規則正しい心臓の音も子守唄みたいに聴こえるのだ。
 アルベルトのことが好き。
 それはいつわりのない気持ちなのに……どう伝えたらいいのだろう。
 考えようとするが、アルベルトの与えてくれる安らぎには逆らえない。

「恥ずかしがらないで、言ってほしいんだ……」
「……ん……」

 アルベルトの望みは、うとうとしていたエミリアの耳をすり抜けてしまう。
 愛しい人と抱き合った幸福感で満たされた彼女は、そのまますぐに夢の世界へいざなわれた――


   ***


 数日後。
 今日は休診日だ。急患の対応などはするが、基本的には薬の材料の補充や、薬の調合をして過ごす。
 ほとんどの薬草は森や水辺で採取することが出来る。りにくい薬草は、診療所に薬草栽培の庭があるため、二人で管理し育てていた。
 今日は川沿いの道を散策しつつ、薬草探しをすることにしている。朝食を済ませた後、エミリアとアルベルトは支度を整えて外へ出た。
 診療所から少し歩いた先に流れる川沿いには、薬の効果を高める薬草が生えていて、重宝している。今日の目的は主にそれだ。

「晴れてよかったね」

 薬草をみながら、エミリアが言う。
 最近は雨の心配もあまりなくなったが、冬から春にかけては天気が崩れやすいのだ。しかし、今日は気持ちのいい晴れ間が広がっていて、風も穏やかだった。
 エミリアは動きやすいよう、膝丈のワンピースを着てカーディガンを羽織はおっている。アルベルトも半袖のシャツにベストとズボンという身軽な姿だ。

「うん。ここの薬草も状態がよさそうで安心したよ。天気がよかったからかな」

 収穫出来るものと出来ないものをり分け、二人は場所を移動していく。立ったりかがんだりするので、この作業は意外と重労働だ。とはいえ、暑くも寒くもないこの時期は比較的やりやすい。

「アル。こっちのかごは、保存用にするよ」
「ああ、うん。そうしよう」

 季節によってれる種類が変わるので、たくさんれたときは長持ちするよう魔法で加工して、薬品調合室の棚に保存する。
 今日も診療所へ戻ったら、その作業をすることになりそうだ。

「この辺りだけでも結構たくさんれたね」

 エミリアの言葉に、アルベルトは笑顔で答える。

「うん。遠くまで行かなくていいし、便利だね」

 これも、田舎町いなかまちの利点だった。

「城下町に住んでた頃は、他の地区まで行かなきゃいけなくて大変だったからなあ」
「城下町は薬草が栽培出来る場所も少ないし……室内だけじゃ限度もあったからね。海は近くてよかったけど」

 マーレ王国の城下町近くには海があったので、よく学校帰りに行くことが出来た。学生の頃はアルベルトと薬草集めのついでに海でデートをしたものだ。
 そういえば……結婚して毎日一緒にいるせいか、最近はデートをしていない。海には二人の思い出もたくさんあるし、久しぶりに行きたいなぁ……などと、エミリアはぼんやり考えた。

「エミリア。今日は海まで行ってみようか」

 そんな妻の心中を見透みすかしたかのようなタイミングで、アルベルトが提案する。エミリアは驚きを隠せず、目をぱちくりさせた。

「この様子なら、今日む予定の薬草はすぐ集まりそうだし、時間もまだ早いでしょう? 一回診療所に戻って薬草を置いても、余裕があるよ。だから、久々にデートしよう」

 アルベルトは微笑んで「最近、デートをしてなかったよね」と付け足す。

「うん! 嬉しい……今ね、アルと同じことを考えていたの」

 こういうのを以心伝心と言うのだろうか。二人の気持ちが一緒だったことが嬉しくて、エミリアはアルベルトの腕に寄り添った。
 結婚して二人の時間は増えたけれど、デートはまた違う。アルベルトのこういった細かな気配りがエミリアの心を温かくする。

「それはよかった。それじゃ、早く済ませてしまおう」
「うん」

 二人は手分けして、今日収穫する予定だった薬草を手早くかごへ入れていく。エミリアは主に川原に生息しているものを、アルベルトは水の中で育つものをった。
 保存用に多めに採取し、二人のかごがどちらもいっぱいになったところで、切り上げる。アルベルトはかごを見て満足そうに言った。

「よし、それじゃあ一度、診療所に戻ってこれを魔法水槽にけよう」

 魔法水にけると、薬草が柔らかくなり、煮出したりすり潰したりと加工をするときに成分が出やすくなるのだ。
 二人は他愛のない会話を交わしながら、診療所へ戻る道を歩く。
 すると、途中で馬車が止まっているのが見えた。この辺りで馬車を使うのは、ラーゴを含む南地区の一角を治める領主であるオスカル・スコットくらいだ。
 何やら馬車にトラブルがあったのか、扉が開き、着飾った中年の男性が中から出てくる。宝石をたくさん身につけているので、すぐにオスカルだとわかった。彼は御者ぎょしゃに何か伝えている。

「こんにちは」

 その近くまで歩き、二人はオスカルに頭を下げる。アルベルトは「何かお困りですか?」と御者ぎょしゃが馬車の車輪を確認している側へ寄り、手伝いを申し出た。
 エミリアは手持ち無沙汰になってしまい、何となく居心地の悪い気分で彼を待つ。
 そんな中、視線を感じて顔を上げると、オスカルと目が合った。彼のことは、どちらかというと苦手だ。というよりは、オスカルの方が新参者のエミリアを信用していない雰囲気がある。
 ほとんどの住民がファネリ診療所へ通ってくれるようになった今でも、彼は隣町のスペルティ診療所まで足を運んでいるのだとか。今もその帰りなのかもしれない。
 しかし、エミリアが彼を嫌う理由はないので、彼女はぎこちないながらも笑顔を作った。

「ひっ!」

 途端、オスカルがかすかな悲鳴を上げ、慌てて目を逸らした。かなりおびえた様子に、エミリアはこっそり肩を落とす。
 引っ越しに際して挨拶あいさつに行ったときも同じような反応をされたが、訳もわからず怖がられるのはショックだ。
 女性が苦手なのか、それとも他に理由があるのか……

「エミリア、お待たせ。車輪が石に引っかかっていたみたい」
「早く行くぞ。君たちにも、世話をかけたな」

 アルベルトがエミリアのもとへ戻ってくると、オスカルは御者ぎょしゃに声をかけてそそくさと馬車の中へ入ってしまった。

「どうしたの、エミリア?」
「あ……うん。また、オスカル様に怖がられていたみたいだったから。あまりいい気分ではないなって」

 苦笑しつつ、エミリアは正直に話す。

「ああ……ミスター・スコットは診療所の設立にもあまりいい顔をしなかったしねぇ」

 彼はスペルティ診療所があれば十分だと思っていた様子だ。領主として町の様相を変えることには慎重なのかもしれない。

「うん。でも、町の人はだんだん通ってくれるようになったし、オスカル様もいつか受け入れてくれるよね」

 エミリアは希望も込めてそう返す。

「そうだよ。あまり気にしない方がいい」

 アルベルトも前向きな返事をしてくれて、二人は再び歩き始めた。


 診療所に戻った二人は、手分けして薬草を洗い、あらかじめ用意しておいた魔法水にそれらをけた。しばらくけ置かなければいけないので、この後は出かけても問題ない。
 エミリアは、薬草採取で汚れてしまったドレスを着替え、すでに外で待っているアルベルトのもとへ急ぐ。

「ごめんね、遅くなって」
「そんなに急がなくても、まだ日が沈むまでは時間があるから大丈夫だよ」

 久しぶりのデートで浮かれ気味のエミリアを愛おしそうに眺め、アルベルトは彼女の手を取った。

「お出かけ用のドレス、可愛いね。よく似合っているよ」
「あ、ありがとう……」

 エミリアが着ているのは、七分袖の青い花柄のドレスだ。袖と膝丈スカートの裾から白いフリルがのぞいているのが可愛くて気に入っている。胸下切り替えでスタイルがよく見えるのもポイントだ。
 背中についているリボンやボリュームのあるスカートは、普段着のドレスよりも豪華だった。
 普段は白衣を着るので飾りの少ないドレスが多いが、その分、出かけるときはお洒落しゃれをしたいのが乙女心というものだ。

「それじゃあ、行こう。はぐれないでね」

 アルベルトがしっかり手を握り直したことに、エミリアはドキッとする。同時に、彼の気遣いや頼りがいを実感し、安心した。本当に大切にしてくれていることが嬉しくて、自然と彼に寄り添って歩く。
 二人は他愛のない会話をしつつ、海へ向かう。市場へ繋がる道を反対に進むと海へ出られるのだ。
 マーレ王国は小さな国で、他国との陸続きの国境以外は海に面している。二人の住むラーゴの北は緑が豊かだし、南には海が広がっていて薬の材料が手に入りやすいので、クラドールとしてはかなり好条件の土地だ。

「すごい! 綺麗な青!」

 やがて前方に海が見え、エミリアは興奮を隠さず叫んだ。
 海の色は繊細せんさいだ。深さや波の動き、光の加減などいろいろな要素が加わって、多彩な青を描くから面白い。小さい頃から見ていても飽きることがなかった。

「そうだね。砂浜まで下りてみよう」

 アルベルトに手を引かれ、足早に海岸へ進む。
 砂が柔らかく足場が悪くてよろけそうになると、アルベルトがしっかり腰を支えてくれた。エミリアも彼の腕に掴まって寄り添いながら波打ち際へ近づく。
 さぁっと波が寄せては返す。波が引くと、流されてきた貝殻かいがらが砂の中から顔を出しているのが見えた。
 エミリアはかがんでその一つを拾う。

「見て、アル。可愛い!」

 小さな白い貝殻かいがらかかげて、アルベルトに見せる。

「ほら、エミリア。これ、エミリアに似合いそう」

 すると、彼も大きな貝殻かいがらを拾ってエミリアに差し出していたところで……二人は見つめ合った後、同時にプッと噴き出した。

「同じことしてる」
「ふふ……うん」

 何だかくすぐったくて、エミリアは首をすくめて笑う。
 アルベルトが持っている貝殻かいがらはほんのり桃色で、可愛らしい。

「今つけているこれも可愛いけど、こっちも加工してみる?」

 アルベルトはエミリアの髪飾りにそっと触れつつ問う。
 エミリアがいつもつけている髪飾りは、アルベルトがプレゼントしてくれたものだ。彼が海岸で拾った貝殻かいがらをいくつか合わせ、城下町の職人さんに髪飾りとしてアレンジしてもらった。

「ううん……これが気に入ってるの。アルがプロポーズのときにくれたものだから。毎日つけていたい」

 エミリアがそう言うと、アルベルトは彼女のひたいにキスを落とす。

「そっか。じゃあ、これは未来の娘にあげようかなぁ」
「も、もう……またそんなこと言って、気が早いってば」
「ん? エミリアみたいな可愛い女の子が欲しいなぁって思って。ダメだった?」

 頬を赤く染めてもじもじするエミリアを抱きしめて、アルベルトが言う。

「ダメじゃないけど……」

 エミリアもアルベルトの背に手を回し、彼の体温を感じる。

「でも、まだ結婚したばかりだし……アルのこと……と、取られたくないもん」

 ぎゅうっと彼に抱きついて、エミリアはそう言い募った。
 二人で過ごした時間は長いけれど、夫婦としてはまだ駆け出しだ。もう少し、こんな風にアルベルトを独り占めしたい。そんな風に思うのは、わがままだろうか。

「そんな可愛いこと言って……ずるいね、エミリアは」

 そう言ったアルベルトはからかうみたいに笑う。

「だ、だって……それに、クラドールとしても、もっと成長したいの」

 仕事をきちんとやりたい、出来るようになりたい、というのも本音だ。

「今でも十分だよ。エミリアはよくやっているし、感謝している」

 アルベルトはエミリアの背をでつつ、優しく話し続ける。

「子供が出来ても、クラドールの仕事はもちろん続けてほしい。僕も協力するし……エミリアを不安にはさせないよ」

 そう言うと、彼は何かを思い出したのかクスクス笑い始めた。

「アル……?」
「ふふ、ごめん。プロポーズをしたときのことを思い出して……」

 エミリアが不思議そうにアルベルトを見上げると、彼は目を細めて彼女を見つめる。それから両手で彼女の頬を包み込み、そっとキスをした。

「エミリアってば、頷いてくれたのに、いろんな心配をしていて……同じだなぁって」

 プロポーズをしてくれたときも、アルベルトは家族を作りたいと言っていた。とても嬉しくて、幸せな瞬間だった。
 だが、学生の頃から優秀で研究員としても評価の高い彼の隣に立つことに、エミリアは不安も感じていた。
 アルベルトは夫婦で診療所をやりたいと思ってくれている。でも、まだ国家試験に受かったばかりの自分は足手まといにならないか。また、引っ越しをして、新しい地できちんとやっていけるのか。エミリアの気がかりは多かった。
 社交的で器用なアルベルトとは違い、エミリアはやや臆病おくびょうで魔法についても人並みだから、つい後ろ向きな考えが浮かんでしまう。

「だって、アルは何でも出来ちゃうから……私は、ちゃんとアルのことを支えられるのかなって、不安だったの」

 そう言うと、アルベルトは目を見開いて首を横に振る。

「僕はエミリアがいるから頑張れるんだ。不安に思うことなんてない。エミリアはちゃんと僕の心の支えになってるよ」
「本当?」
「うん、本当。優しくて一緒にいるといやされる。可愛くて守りたいって思うけど……エミリアは自分でも頑張りたいって考えているから、もっと頼ってほしいっていうのは、僕のわがままかもね」

 そう言うと、アルベルトは照れた様子で眉を下げ、もう一度エミリアを抱きしめた。

「何だか恥ずかしいことを言ったね。久しぶりのデートで、浮かれているのかな」
「ううん。嬉しい」

 エミリアは、夫婦になったらもっと落ち着いた関係になるのかもしれないと思っていた。実際、デートの回数は減ったし、一緒に住んでいることで〝家族〟という意識が強くなった気がする。
 だから、恋人だった頃を思い出させるような告白はとても嬉しいし、ドキドキした。

「そっか。よかった」
「ん……っ、アル」

 再び唇が重なって、エミリアは彼の胸にしがみつく。彼の舌が口内を探り、くちゅっとなまめかしい音を立てた。
 日が傾き始め、風が少しひんやりしてきた。そんな中、お互いを温め合うみたいに、二人は唇を合わせる。

「んんっ、ふ……」
「……あんまりすると、我慢出来なくなっちゃうな」

 お互いの吐息を感じられる距離でささやかれ、エミリアの背にぞくぞくとしびれが走った。

「アル……」
「ん、ここまで。もう少しデートをしたら、帰ろう」

 エミリアの唇に人差し指を当て、アルベルトが笑う。
 二人はその後も貝殻かいがらを拾ったり、砂浜を走ったり……ちょっぴりはしゃいだデートを楽しんで、診療所へ帰った。


   ***


 エミリアとアルベルトの新婚生活は順調そのものだった。
 町の住民とは、患者さんとクラドールとしても、ご近所付き合いにしても問題はなく、平和な日常を送っている。
 そんなある日のことだ。

「ジータ様、どうぞ」

 先日会った領主オスカルの娘、ジータが診療所を訪れた。彼女はエミリアより年下だが、はっきりした顔立ちで大人っぽく見える。


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