3 / 17
1巻
1-3
しおりを挟む「エミリア?」
「ん……アル、だめ……恥ずかしいの……ご、ごめんなさい」
アルベルトの声が少し沈んだため、エミリアは指の隙間から彼を見て謝った。
「どうして謝るの? いいよ……可愛いから許してあげる。でも、もう少し積極的になってくれると、僕はもっと嬉しいんだけどね」
「あっ……」
グッと、内腿に彼の熱塊が押し付けられる。硬くて、熱い……
「今日も……僕がしていいの?」
「……き、聞かないで」
恥ずかしさに涙が滲む。エミリアはアルベルトにぎゅっと抱きつくことで、肯定の気持ちを伝えた。これが彼女の精一杯だ。
「だーめ。欲しいって、ちゃんと言って? ね、エミリア」
アルベルトはエミリアを抱きしめ返してくれるが、耳元で囁くだけで、身体を繋げようとはしない。
「うぅ……」
「欲しい」なんて言い方は、はしたない気がするし、恥ずかしくて言いにくい。かといって否定も出来ず、エミリアは首を竦めて唸る。
すると、アルベルトは苦笑して、キスをしてくれた。
「仕方ないね……エミリア、今日は許してあげる」
仕方ないと言いながらも、彼のキスは慈しみに溢れたものだ。だんだんとキスを深くしつつ、アルベルトはエミリアの泉に昂りを宛がった。
「まだ濡れているね。恥ずかしがっていても、僕を待っていてくれて……嬉しい」
「あ、ア……アル……」
昂りが泉の奥を目指して入り込む。途中、何度かゆるゆると抜き差しを繰り返して蜜を纏った昂りは、じっくりとエミリアの中を味わうように最奥へ辿り着いた。
「ああ……熱い。絡み付いてくる」
恍惚のため息とともにアルベルトが呟き、腰を擦り付ける。
「んんっ、あ、はぁっ」
猛った熱塊に膣壁を擦られると、湧き上がってくる快感に逆らえない。エミリアの中は、そんな甘い刺激を与えてくれるアルベルトを離さんと言わんばかりに彼に絡みつき、蠢く。
「エミリア……」
「あぁっ……アル、アル……っ」
アルベルトの呼吸が乱れ始め、汗ばんだ肌がエミリアのそれにしっとりと合わさる。彼女は夢中で彼にしがみつき、与えられる愉悦に浸った。
ぐちゅぐちゅと音を立てて、隘路を押し広げられる。
硬く大きな質量は苦しいのに、蕩けたそこは悦びを貪ろうと屹立に吸い付く。
アルベルトは薄く唇を開き、艶めかしい吐息を零しつつ、自身の抜き差しを繰り返した。
押し込むときは、柔らかさを堪能するようにじっくりと、引き抜くときは巧みに気持ちいい場所を先端で掠めていく。
一定のリズムでそれを繰り返され、涙が出るほど感じてしまい、エミリアはシーツを握り締めて身悶えた。
「エミリア、ダメだ……激しくするよ?」
「んっ、ああッ――」
余裕がなさそうなのに、それでもエミリアを気遣ってくれるアルベルト。彼の動きが激しくなって、エミリアは更に翻弄される。
「あ、あぁっ……は、あん……あッ」
エミリアの口からは、もう意味をなさない声しか出てこない。膨らんでは弾けていく快感に、意識が追いやられる。
アルベルトは、律動に合わせて揺れるエミリアの乳房に手を伸ばし、ピンと存在を主張する蕾を擦った。
もう片方の蕾にも同じように刺激を与えられ、エミリアは身体を仰け反らせて喘ぐ。
「ああぁっ!」
そうすると、更に胸を突き出す格好になり、同時に彼の昂りを締め付けてしまうのに……
「……っ、エミリア、そんなに……っく」
アルベルトは眉根を寄せて苦しそうな表情をしつつも、激しい抽挿を止めない。エミリアはシーツを掴み、大きな波に耐えた。
だが、耐えようとすればするほど、快楽を強く意識してしまう。そして、大きな波が彼女の意識を攫おうと押し寄せてくる。
「ああっ、あ、アル……アル、あっ」
「んっ、イッて……僕も、もう……」
アルベルトは、エミリアを安心させるために彼女の頬をそっと包み込み、唇を重ねた。その優しい動作とは対照的に、彼の昂りはエミリアの中で更に膨らみ、高波を作り続ける。
「あッ、は……あ、んぅ、は……っ、あぁ――ッ」
そしてエミリアは一際高い快楽の波に攫われて、身体を震わせた。アルベルトも微かに呻き、白濁を吐き出す。
「あ……」
注がれた精を受け止め、エミリアは彼を抱きしめた。
じんわり広がる愛しい人の熱を感じ、また涙が滲む。
「エミリア……愛してる」
「ん、アル」
荒い呼吸の合間に囁いて、口付けを落としてくれるアルベルト。エミリアは彼のしっとりと汗ばんだ背に手を回し、それを受け入れた。
しばらく軽い触れ合いを続けた後、アルベルトは名残惜しそうにエミリアから身体を離す。
「エミリア、大丈夫? つらくなかった?」
アルベルトはエミリアを気遣って声を掛け、髪を梳いてくれる。
「うん……」
「気持ちよかった?」
「――っ! そんなこと、聞かないで……」
心地よさにうとうとしていたエミリアだが、アルベルトの一言で先ほどの火照りが戻ってきた。
彼女は脱がされた寝衣を素早く拾い、前も後ろも確認せずにかぶった。
「……また照れてる」
「恥ずかしいの……アルってば、知っているくせに……」
もぞもぞと寝衣の後ろ前を直しつつ、エミリアは恨めしそうに抗議する。
「うん。ごめんね」
アルベルトはクスッと笑い、エミリアの頭を撫でた。
「でも、エミリアが気持ちよくなってくれたのか知りたいのは、本当の気持ちだよ。僕ばっかりじゃ嫌だから、ね?」
アルベルトに引き寄せられて、エミリアは再びベッドに沈む。
「う……」
イエスともノーとも返せず、曖昧に唸り、彼女はアルベルトの胸に顔を埋めた。
アルベルトのストレートな愛情表現には、恥ずかしくてついていけないときがある。嬉しくないわけではないのだが、あまりに率直な彼にどう応えていいのかわからなくなるのだ。
男女の違いなのか、それとも単に性格の問題なのか。
エミリアはそんなことを考えつつも、アルベルトの胸の鼓動を聴き、再びうとうとし始めた。
彼の体温や匂いには、安心感がある。規則正しい心臓の音も子守唄みたいに聴こえるのだ。
アルベルトのことが好き。
それは偽りのない気持ちなのに……どう伝えたらいいのだろう。
考えようとするが、アルベルトの与えてくれる安らぎには逆らえない。
「恥ずかしがらないで、言ってほしいんだ……」
「……ん……」
アルベルトの望みは、うとうとしていたエミリアの耳をすり抜けてしまう。
愛しい人と抱き合った幸福感で満たされた彼女は、そのまますぐに夢の世界へ誘われた――
***
数日後。
今日は休診日だ。急患の対応などはするが、基本的には薬の材料の補充や、薬の調合をして過ごす。
ほとんどの薬草は森や水辺で採取することが出来る。採りにくい薬草は、診療所に薬草栽培の庭があるため、二人で管理し育てていた。
今日は川沿いの道を散策しつつ、薬草探しをすることにしている。朝食を済ませた後、エミリアとアルベルトは支度を整えて外へ出た。
診療所から少し歩いた先に流れる川沿いには、薬の効果を高める薬草が生えていて、重宝している。今日の目的は主にそれだ。
「晴れてよかったね」
薬草を摘みながら、エミリアが言う。
最近は雨の心配もあまりなくなったが、冬から春にかけては天気が崩れやすいのだ。しかし、今日は気持ちのいい晴れ間が広がっていて、風も穏やかだった。
エミリアは動きやすいよう、膝丈のワンピースを着てカーディガンを羽織っている。アルベルトも半袖のシャツにベストとズボンという身軽な姿だ。
「うん。ここの薬草も状態がよさそうで安心したよ。天気がよかったからかな」
収穫出来るものと出来ないものを選り分け、二人は場所を移動していく。立ったり屈んだりするので、この作業は意外と重労働だ。とはいえ、暑くも寒くもないこの時期は比較的やりやすい。
「アル。こっちの籠は、保存用にするよ」
「ああ、うん。そうしよう」
季節によって採れる種類が変わるので、たくさん採れたときは長持ちするよう魔法で加工して、薬品調合室の棚に保存する。
今日も診療所へ戻ったら、その作業をすることになりそうだ。
「この辺りだけでも結構たくさん採れたね」
エミリアの言葉に、アルベルトは笑顔で答える。
「うん。遠くまで行かなくていいし、便利だね」
これも、田舎町の利点だった。
「城下町に住んでた頃は、他の地区まで行かなきゃいけなくて大変だったからなあ」
「城下町は薬草が栽培出来る場所も少ないし……室内だけじゃ限度もあったからね。海は近くてよかったけど」
マーレ王国の城下町近くには海があったので、よく学校帰りに行くことが出来た。学生の頃はアルベルトと薬草集めのついでに海でデートをしたものだ。
そういえば……結婚して毎日一緒にいるせいか、最近はデートをしていない。海には二人の思い出もたくさんあるし、久しぶりに行きたいなぁ……などと、エミリアはぼんやり考えた。
「エミリア。今日は海まで行ってみようか」
そんな妻の心中を見透かしたかのようなタイミングで、アルベルトが提案する。エミリアは驚きを隠せず、目をぱちくりさせた。
「この様子なら、今日摘む予定の薬草はすぐ集まりそうだし、時間もまだ早いでしょう? 一回診療所に戻って薬草を置いても、余裕があるよ。だから、久々にデートしよう」
アルベルトは微笑んで「最近、デートをしてなかったよね」と付け足す。
「うん! 嬉しい……今ね、アルと同じことを考えていたの」
こういうのを以心伝心と言うのだろうか。二人の気持ちが一緒だったことが嬉しくて、エミリアはアルベルトの腕に寄り添った。
結婚して二人の時間は増えたけれど、デートはまた違う。アルベルトのこういった細かな気配りがエミリアの心を温かくする。
「それはよかった。それじゃ、早く済ませてしまおう」
「うん」
二人は手分けして、今日収穫する予定だった薬草を手早く籠へ入れていく。エミリアは主に川原に生息しているものを、アルベルトは水の中で育つものを採った。
保存用に多めに採取し、二人の籠がどちらもいっぱいになったところで、切り上げる。アルベルトは籠を見て満足そうに言った。
「よし、それじゃあ一度、診療所に戻ってこれを魔法水槽に浸けよう」
魔法水に浸けると、薬草が柔らかくなり、煮出したりすり潰したりと加工をするときに成分が出やすくなるのだ。
二人は他愛のない会話を交わしながら、診療所へ戻る道を歩く。
すると、途中で馬車が止まっているのが見えた。この辺りで馬車を使うのは、ラーゴを含む南地区の一角を治める領主であるオスカル・スコットくらいだ。
何やら馬車にトラブルがあったのか、扉が開き、着飾った中年の男性が中から出てくる。宝石をたくさん身につけているので、すぐにオスカルだとわかった。彼は御者に何か伝えている。
「こんにちは」
その近くまで歩き、二人はオスカルに頭を下げる。アルベルトは「何かお困りですか?」と御者が馬車の車輪を確認している側へ寄り、手伝いを申し出た。
エミリアは手持ち無沙汰になってしまい、何となく居心地の悪い気分で彼を待つ。
そんな中、視線を感じて顔を上げると、オスカルと目が合った。彼のことは、どちらかというと苦手だ。というよりは、オスカルの方が新参者のエミリアを信用していない雰囲気がある。
ほとんどの住民がファネリ診療所へ通ってくれるようになった今でも、彼は隣町のスペルティ診療所まで足を運んでいるのだとか。今もその帰りなのかもしれない。
しかし、エミリアが彼を嫌う理由はないので、彼女はぎこちないながらも笑顔を作った。
「ひっ!」
途端、オスカルが微かな悲鳴を上げ、慌てて目を逸らした。かなり怯えた様子に、エミリアはこっそり肩を落とす。
引っ越しに際して挨拶に行ったときも同じような反応をされたが、訳もわからず怖がられるのはショックだ。
女性が苦手なのか、それとも他に理由があるのか……
「エミリア、お待たせ。車輪が石に引っかかっていたみたい」
「早く行くぞ。君たちにも、世話をかけたな」
アルベルトがエミリアのもとへ戻ってくると、オスカルは御者に声をかけてそそくさと馬車の中へ入ってしまった。
「どうしたの、エミリア?」
「あ……うん。また、オスカル様に怖がられていたみたいだったから。あまりいい気分ではないなって」
苦笑しつつ、エミリアは正直に話す。
「ああ……ミスター・スコットは診療所の設立にもあまりいい顔をしなかったしねぇ」
彼はスペルティ診療所があれば十分だと思っていた様子だ。領主として町の様相を変えることには慎重なのかもしれない。
「うん。でも、町の人はだんだん通ってくれるようになったし、オスカル様もいつか受け入れてくれるよね」
エミリアは希望も込めてそう返す。
「そうだよ。あまり気にしない方がいい」
アルベルトも前向きな返事をしてくれて、二人は再び歩き始めた。
診療所に戻った二人は、手分けして薬草を洗い、予め用意しておいた魔法水にそれらを浸けた。しばらく浸け置かなければいけないので、この後は出かけても問題ない。
エミリアは、薬草採取で汚れてしまったドレスを着替え、すでに外で待っているアルベルトのもとへ急ぐ。
「ごめんね、遅くなって」
「そんなに急がなくても、まだ日が沈むまでは時間があるから大丈夫だよ」
久しぶりのデートで浮かれ気味のエミリアを愛おしそうに眺め、アルベルトは彼女の手を取った。
「お出かけ用のドレス、可愛いね。よく似合っているよ」
「あ、ありがとう……」
エミリアが着ているのは、七分袖の青い花柄のドレスだ。袖と膝丈スカートの裾から白いフリルがのぞいているのが可愛くて気に入っている。胸下切り替えでスタイルがよく見えるのもポイントだ。
背中についているリボンやボリュームのあるスカートは、普段着のドレスよりも豪華だった。
普段は白衣を着るので飾りの少ないドレスが多いが、その分、出かけるときはお洒落をしたいのが乙女心というものだ。
「それじゃあ、行こう。はぐれないでね」
アルベルトがしっかり手を握り直したことに、エミリアはドキッとする。同時に、彼の気遣いや頼りがいを実感し、安心した。本当に大切にしてくれていることが嬉しくて、自然と彼に寄り添って歩く。
二人は他愛のない会話をしつつ、海へ向かう。市場へ繋がる道を反対に進むと海へ出られるのだ。
マーレ王国は小さな国で、他国との陸続きの国境以外は海に面している。二人の住むラーゴの北は緑が豊かだし、南には海が広がっていて薬の材料が手に入りやすいので、クラドールとしてはかなり好条件の土地だ。
「すごい! 綺麗な青!」
やがて前方に海が見え、エミリアは興奮を隠さず叫んだ。
海の色は繊細だ。深さや波の動き、光の加減などいろいろな要素が加わって、多彩な青を描くから面白い。小さい頃から見ていても飽きることがなかった。
「そうだね。砂浜まで下りてみよう」
アルベルトに手を引かれ、足早に海岸へ進む。
砂が柔らかく足場が悪くてよろけそうになると、アルベルトがしっかり腰を支えてくれた。エミリアも彼の腕に掴まって寄り添いながら波打ち際へ近づく。
さぁっと波が寄せては返す。波が引くと、流されてきた貝殻が砂の中から顔を出しているのが見えた。
エミリアは屈んでその一つを拾う。
「見て、アル。可愛い!」
小さな白い貝殻を掲げて、アルベルトに見せる。
「ほら、エミリア。これ、エミリアに似合いそう」
すると、彼も大きな貝殻を拾ってエミリアに差し出していたところで……二人は見つめ合った後、同時にプッと噴き出した。
「同じことしてる」
「ふふ……うん」
何だかくすぐったくて、エミリアは首を竦めて笑う。
アルベルトが持っている貝殻はほんのり桃色で、可愛らしい。
「今つけているこれも可愛いけど、こっちも加工してみる?」
アルベルトはエミリアの髪飾りにそっと触れつつ問う。
エミリアがいつもつけている髪飾りは、アルベルトがプレゼントしてくれたものだ。彼が海岸で拾った貝殻をいくつか合わせ、城下町の職人さんに髪飾りとしてアレンジしてもらった。
「ううん……これが気に入ってるの。アルがプロポーズのときにくれたものだから。毎日つけていたい」
エミリアがそう言うと、アルベルトは彼女の額にキスを落とす。
「そっか。じゃあ、これは未来の娘にあげようかなぁ」
「も、もう……またそんなこと言って、気が早いってば」
「ん? エミリアみたいな可愛い女の子が欲しいなぁって思って。ダメだった?」
頬を赤く染めてもじもじするエミリアを抱きしめて、アルベルトが言う。
「ダメじゃないけど……」
エミリアもアルベルトの背に手を回し、彼の体温を感じる。
「でも、まだ結婚したばかりだし……アルのこと……と、取られたくないもん」
ぎゅうっと彼に抱きついて、エミリアはそう言い募った。
二人で過ごした時間は長いけれど、夫婦としてはまだ駆け出しだ。もう少し、こんな風にアルベルトを独り占めしたい。そんな風に思うのは、わがままだろうか。
「そんな可愛いこと言って……ずるいね、エミリアは」
そう言ったアルベルトはからかうみたいに笑う。
「だ、だって……それに、クラドールとしても、もっと成長したいの」
仕事をきちんとやりたい、出来るようになりたい、というのも本音だ。
「今でも十分だよ。エミリアはよくやっているし、感謝している」
アルベルトはエミリアの背を撫でつつ、優しく話し続ける。
「子供が出来ても、クラドールの仕事はもちろん続けてほしい。僕も協力するし……エミリアを不安にはさせないよ」
そう言うと、彼は何かを思い出したのかクスクス笑い始めた。
「アル……?」
「ふふ、ごめん。プロポーズをしたときのことを思い出して……」
エミリアが不思議そうにアルベルトを見上げると、彼は目を細めて彼女を見つめる。それから両手で彼女の頬を包み込み、そっとキスをした。
「エミリアってば、頷いてくれたのに、いろんな心配をしていて……同じだなぁって」
プロポーズをしてくれたときも、アルベルトは家族を作りたいと言っていた。とても嬉しくて、幸せな瞬間だった。
だが、学生の頃から優秀で研究員としても評価の高い彼の隣に立つことに、エミリアは不安も感じていた。
アルベルトは夫婦で診療所をやりたいと思ってくれている。でも、まだ国家試験に受かったばかりの自分は足手まといにならないか。また、引っ越しをして、新しい地できちんとやっていけるのか。エミリアの気がかりは多かった。
社交的で器用なアルベルトとは違い、エミリアはやや臆病で魔法についても人並みだから、つい後ろ向きな考えが浮かんでしまう。
「だって、アルは何でも出来ちゃうから……私は、ちゃんとアルのことを支えられるのかなって、不安だったの」
そう言うと、アルベルトは目を見開いて首を横に振る。
「僕はエミリアがいるから頑張れるんだ。不安に思うことなんてない。エミリアはちゃんと僕の心の支えになってるよ」
「本当?」
「うん、本当。優しくて一緒にいると癒される。可愛くて守りたいって思うけど……エミリアは自分でも頑張りたいって考えているから、もっと頼ってほしいっていうのは、僕のわがままかもね」
そう言うと、アルベルトは照れた様子で眉を下げ、もう一度エミリアを抱きしめた。
「何だか恥ずかしいことを言ったね。久しぶりのデートで、浮かれているのかな」
「ううん。嬉しい」
エミリアは、夫婦になったらもっと落ち着いた関係になるのかもしれないと思っていた。実際、デートの回数は減ったし、一緒に住んでいることで〝家族〟という意識が強くなった気がする。
だから、恋人だった頃を思い出させるような告白はとても嬉しいし、ドキドキした。
「そっか。よかった」
「ん……っ、アル」
再び唇が重なって、エミリアは彼の胸にしがみつく。彼の舌が口内を探り、くちゅっと艶めかしい音を立てた。
日が傾き始め、風が少しひんやりしてきた。そんな中、お互いを温め合うみたいに、二人は唇を合わせる。
「んんっ、ふ……」
「……あんまりすると、我慢出来なくなっちゃうな」
お互いの吐息を感じられる距離で囁かれ、エミリアの背にぞくぞくと痺れが走った。
「アル……」
「ん、ここまで。もう少しデートをしたら、帰ろう」
エミリアの唇に人差し指を当て、アルベルトが笑う。
二人はその後も貝殻を拾ったり、砂浜を走ったり……ちょっぴりはしゃいだデートを楽しんで、診療所へ帰った。
***
エミリアとアルベルトの新婚生活は順調そのものだった。
町の住民とは、患者さんとクラドールとしても、ご近所付き合いにしても問題はなく、平和な日常を送っている。
そんなある日のことだ。
「ジータ様、どうぞ」
先日会った領主オスカルの娘、ジータが診療所を訪れた。彼女はエミリアより年下だが、はっきりした顔立ちで大人っぽく見える。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。