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第一章:いざ、王都!

9. ウサギ、お出かけする

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 只今、王都に向かう馬車の中。

 馬車の中の2人は真逆の雰囲気を纏っていた。

 アルジェントはなんだかご機嫌な様子で窓の外を見ている。
 口角が少し上がっているためニヤついているのかもしれない。

 対するネロはオドオドと挙動不審である。

 なぜこのようにネロが挙動不審かというと、家を出る前にアルジェントが言った「ネロとデートができるなんて楽しみだ」という発言のせいである。

 ネロは今まで恋愛をした事がなかった。
 淡い恋心というのも皆無。衣食住が保てれば問題ないという考えであったため、男性と出かけても”デート”ではなく”買い物”、”おつかい”という認識になっていた。

(デ、デートって…、腕に絡みついて街を歩いたり、食べ物を食べさせあったりするやつ…?)

 生憎、ネロのデート知識は村の友達が読んでいた恋愛小説の受け売りである。それ以外知識のないネロはそれが偏った知識である事を知らない。

(こんな女性にモテそうなアルジェントさんとデート…。う、腕に絡みつく…?アルジェントさんのファンに刺されるのでは…!?)

 このファンに刺される、というのも恋愛小説に出てきたシーンである。なんとも物騒な小説だ。


ーーさて、空回った想像をしているネロとご機嫌なアルジェントを乗せた馬車は無事に王都に到着した。


「はい、ネロ足もと気をつけて」

 先に馬車を降りたアルジェントがネロに手を差し出す。
 貴族出のアルジェントはこういったエスコートに慣れているわけだが、そんな常識ネロにはない。

「え!?あ、ありがとう、ございます…」

 慣れないエスコートに動揺するネロを見て何だか微笑ましくなるアルジェントは…いる。ネロはネロで、「この手を掴んで腕を絡ませるのか!?」と考えていたり…する。

 流石に刺されたくなかったネロは腕に絡みつくことはせず、半歩後ろをついて行くことにした。

 相変わらず王都は人が多く、アルジェントと逸れないようについて行くのに必死だ。
 まぁ、アルジェントがネロを見失うようなヘマはしないのだが。
 
「どこに向かわれるんですか…?」

 キョロキョロ辺りを見渡してみると、豪華なドレスショップ、宝石店…等、ネロには馴染みのない店ばかりである。

「今日は王都の案内をしようと思っていたのだが…。そうだ、ネロは欲しい物とかないのか?」

 物欲が殆どないネロはアルジェントのこの発言で少し考え込んでしまう。
 なんてったってついこないだ軍手と麦わら帽子を手に入れたばかりである。
 
 しかしその時ハッとある事を閃く。今日は思考が冴えているらしい。



「あ、あの…雑貨屋さんとかってないですか?」

 ***



 王都の大通りを少し外れた細道。
 その突き当たりにアンティーク感のある雑貨屋は建っていた。

 店内はキラキラとしたアクセサリーから、小物、文具、様々な物が売っている。
 はじめて入る雑貨屋にネロの目はキラキラと輝いている。

(すごい!キラキラした物がいっぱい!!)

 何故こうして雑貨屋に来たのかお分かりだろうか。

 そう!マローネの妹に軍手と麦わら帽子のお礼且つ、好感度を上げるために貢ぎ物をしよう!という魂胆である。一応菓子も渡す予定だが、好みが分からない。

 せっかく友達になるチャンス、嫌われたくないネロは必死なのである。

 マローネの妹は16歳のお年頃らしい。
 お年頃か…と悩むが今日のネロは冴えている。

 野菜を触る=軍手していても手が荒れるのでは…ということを。
 お年頃ということは手の荒れも気にするのでは…と。

 偶然近くにハンドクリームの瓶があったので見てみるのだが、何せ香りが豊富である。

「アルジェントさん、どの香り好きですか?」

 自分の嗅覚と好みを信用できないネロは、近くで小物を見ていたアルジェントに尋ねる。“イケメンが好きと言った香りは万人に受ける説”を勝手に提唱したわけである。

 アルジェントが良い香りと言ったらたぶんそうなのだ。
 今日は冴えているのできっとそう。

「これ、良い匂いだと思うぞ」

 と、ピンク色の可愛らしい瓶からハンドクリームを手に出し、
 ネロの手をそっと取る。

「え…っと、?」

 最初はエスコートをする時のような触れ方をしたアルジェントの手は、
 次第にゆっくり、ゆっくり、ネロの指を絡めとる。

「なっ…!」

 ゆっくり指一本一本、爪の形を探るように。 
 指の関節を確かめるようにするりと撫で、まるで恋人繋ぎをするかのようにネロの手にクリームを馴染ませていく。

 ハンドクリームで滑りが良くなった手の甲をアルジェントの指がするりと滑る。
 アルジェントの少し低めの体温がダイレクトに手に伝わり、たまらず頬を紅潮させる。

「な?良い匂いだろう?」

 そしてアルジェントは何事も無かったかのようにスッと手を離し、匂いの良し悪しを問う。

 男女の触れ合いに疎いネロであっても、そんな触り方をされてしまうと気恥ずかしくなり、頬の赤みを隠すかの様に顔を俯かせる。


 結局香りの良し悪しは分からなかったがアルジェントが良し言うので、
 そのままハンドクリームを購入しラッピングを頼むことにする。




 ラッピングを待っている間、ふと琥珀色の石が付いたバレッタに目がいく。

 何だかアルジェントの瞳の色に似ていて綺麗だな…と軽い気持ちで値段を確認する。さすが王都、値段は可愛くないのだなとネロはしみじみ思ったのであった。
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