ビビりな兎はクールな狼の溺愛に気づかない

柊 うたさ

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第一章:いざ、王都!

20. ウサギはヒロインになれない

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 なかなか止まらない血。
 雨でずぶ濡れになり、傷口を抑えていたハンカチも役目を果たさない状態で。
 
 血が雨で流れて行くのをぼーっと眺める。
 屋根のある所へ行けばいいものの、ネロはバレッタのある脇道を離れられないでいた。


 雨が止んでから考えよう。
 それまでバレッタを探そう。


 ネロは今すぐ帰宅するのは諦めていた。
 止まらない血、全身ずぶ濡れ。
 この状況で家に帰る手段をネロは持ち合わせていなかった。

 アルジェントに怒られ、呆れられ、
 仕事をクビになったとしても仕方ないかもしれない。

 それならアルジェントから貰ったバレッタだけでも手元に残したい。
 
 なかなか見つからないバレッタが、よりネロの心を締め付ける。
 ネロには必要ないと、不釣り合いだと言っているのだろうか。
 言っているのかもしれない。

 ここまで見つからないのだ、きっとそうなのだ。
 ネロには相応しくないから見つからない。

 段々とネロの視界に透明な膜がかかる。
 鼻の奥がツンとして痛い。心も、痛い。


「うっ、うっ…釣り合わないなんてわかってるもん…」


 あの婚約者と名乗ったキツネはどう見ても貴族で。
 綺麗なドレスを着て、綺麗に髪を結って、綺麗にお化粧をして。
 ずぶ濡れの、平民のネロとは大違いだった。

 別に期待してるわけではない。

 アルジェントとどうにかなろうなど、ネロは考えていない。
 けれども婚約者が現れて、ネロに現実を突きつけて、なぜかが涙が止まらなくなる。

「バレッタ…ない…」

 夜でも少し暖かいこの季節でも、雨で濡れた体は徐々に冷えていく。

 手が冷たい。体が震える。
 それでもネロはバレッタを諦められない。


 怒られてもいい。クビになっても、

 アルジェントに会えなくなっても。


 どうせ気持ちを伝えることすらできない相手なのだ。
 それなら代わりに琥珀色のバレッタを手元に。
 



 それだけは欲しい。





 ネロは恋がこんなに辛いものだということを
 知らなかった。知りたくなかった。

 恋愛小説のヒロインはもっと楽しそうで、幸せそうだった。
 辛いことがあっても結局ハッピーエンドで、めでたしめでたし。

 あぁでもそうか、あれは恋愛小説のヒロインだから。
 ヒロインだから幸せになれる。



 ネロでは恋愛小説のヒロインにはなれない。
 アルジェントの運命の人には…なれない。




 現実は小説のように上手くはいかない。

 

 
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