ビビりな兎はクールな狼の溺愛に気づかない

柊 うたさ

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第一章:いざ、王都!

21. ウサギ、思いを馳せる

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 随分時間が経った頃、半ば諦めの気持ちで脇道の隅を探し始めた。

 脇道の隅は隅ということもあり色々な物がそこにはあって、中には動物や虫の死骸などもある。

 お世辞にも綺麗とは絶対に言えない所だがそれでもじっとしては居られず手当たり次第に探していく。

 そうしていると、偶々少し離れた所の排水溝に何かキラキラと光る物があることに気づく。

 しかし、この距離では探しているバレッタであるかは分からない。

 また違うかもしれない。けれども少しの希望を胸に慌ててそれに駆け寄る。
 怪我をして血が出ていることも、痛みがあることすら忘れて。

 排水溝に挟まるそれは、泥がついて汚れた髪飾りで。
 服で泥を拭き取って目を凝らす。
 少し離れた街灯の灯りでその石の色を確かめる。

 キラリと輝く髪飾り。

 琥珀色の、髪飾り。

 ずっと探していた、バレッタ。
 アルジェントにもらったバレッタ。

「あった…よかったっ…」

 すっかり冷え切った手でバレッタを包み込み、ネロは安心してポロポロと涙を流す。

 泥で汚れたバレッタは薄汚れて元の輝きを失っているはずなのに、
 それでもネロの目にはキラキラと輝いているように見える。

 バレッタが見つかったことで、今まで不安や焦りで閉ざされていたものが開かれる。
 視界も、聴覚も、全てがクリアになる。


 そしてふと、遠くの方からネロを呼ぶような声が聞こえる。
 いつも聞いている、大好きな声に似た…

 
「…ア、アルジェントさん…?」

 聞き間違いだろうか。それともネロの生み出した都合の良い幻聴か。
 アルジェントの仕事はもう終わっているはずで、
 こんなところでアルジェントの声が聞こえるはずはないのに。
 だが耳の良いネロが聞き間違うだろうか。本当に幻聴だろうか。



 痛みに耐え足を引き摺りながら脇道を抜け、声のする方へ進む。
 殆ど人のいない大通りで、その姿を見つけるのは簡単だった。


「…アルジェントさん、なんで…」


 傘を差し、息を切らしてネロを探すその格好は仕事着のままで。
 帰宅してすぐにネロがまだ帰っていないことを知り、探しに来たのだろうか。

 アルジェントの白銀の髪が雨夜の、街灯に照らされてキラキラと輝いている。
 その輝きが、今のネロにはとても眩しくて、眩しくて視界がぼやける。

「…なんでいるの…」

 怒られることも、仕事をクビになることも想像できていた。
 けれどもこうして探しに来てくれる想像はしていなかった。

 だってネロはただの使用人で。態々探しに来るような、そんな価値のある存在ではないから。


 しかし目の前に確かにアルジェントがいる。
 ネロは思いがけないそのアルジェントの行動に、胸がいっぱいになり涙が溢れる。

 不釣り合いなのに。期待してはいけないのに。
 アルジェントの行動が嬉しくて、嬉しくて、嬉し過ぎて胸が苦しい。

「…ネロ?」

 ネロの啜り泣く声が聞こえたのだろう。アルジェントは勢いよく振り向きネロのいる方を見る。
 振り向いたアルジェントの顔には、心配と見つけたことによる安堵の表情が浮かんでいる。

「ネロっ、よかった…、無事でよかった…」
「アル…ジェントさん…」

 駆け寄ったアルジェントは、濡れることを全く気にせずネロを優しく抱きしめる。
 存在を確かめるように。大切なものをつつむように。
 かけられる声に怒りは全く感じられず、ただひたすらネロを心配しているようで。

「ネロ、心配したっ。…こんなずぶ濡れでどうしたんだ?もうこんな時間だし…」
「ご、ごめんなさい…」

 慌てて謝るネロに対してアルジェントはゆっくり背中を撫で、落ち着かせながら優しく言葉を続ける。

「怒っているわけじゃないんだ。…ただ、ネロに何かあったんじゃないかって、心配だったんだ…」
「す、すみません…私、」
「ネロ泣かないでくれ、怒ってないから。…な?」
 
 心配してくれるなんて思っていなかった。
 心配で探しに来てくれるなんて、そんなこと、想像していなかった。
 それがただ、嬉しくて。嬉しいはずなのに心配をかけてしまったことが申し訳なくて。
 泣きたくないのに、なぜか涙が溢れる。

 アルジェントは涙を優しく指で掬い、安心させるように頭を撫でネロの顔を覗き込む。
 ネロを心底心配しているような、少し揺れたアルジェントの瞳。

「本当に良かった…」

 安堵の溜息を吐くアルジェントは再びネロを優しく抱きしめたのだったが、
 おそらく血のニオイを感じたのだろう。

「ネロ足を怪我してるじゃないか…!血が出てる…痛かったろ、?」
「え…、」

 突然体を離されたと思ったら怪我がバレ、ネロは動揺する。
 オオカミ獣人が嗅覚に優れていることをネロはすっかり忘れていた。
 
「すぐ家に帰ろう…!」
「…っ!?」

 先ほどの雰囲気とは一変し、アルジェントは問答無用でネロを抱え馬車のある方に歩き出す。
 突然アルジェントに抱えられたネロは所謂お姫様抱っこを初めてされ、急な至近距離に戸惑ってしまう。
 
(お、重くないだろうか…アルジェントさんが濡れてしまう…)

 アルジェントの体温を感じながらネロは心臓の音が聞こえないだろうかと焦ってしまう。

 好きな人と至近距離になるのは嬉しいようで嬉しくないかもしれない。
 ドキドキして苦しい、好きすぎて泣きたくなる。


 今日ネロは好きという気持ちは幸せなことばかりではないと知った。
 きっとこれからもこの好きな気持ちを持つ限り辛いことも悲しいこともあるのだと思う。


 辛すぎて泣いてしまうかもしれない。


 それでもネロは、アルジェントを好きになったことを悔いることはないだろうし、
 いつか好きでいて良かったと、笑える日が来るかもしれない。


 そのいつかに思いを馳せながら、ネロはゆっくり瞼を閉じるのであった。

 




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