ビビりな兎はクールな狼の溺愛に気づかない

柊 うたさ

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第二章:両想いのそのあとに

27. ウサギはやっぱり下戸

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 そう、収穫祭に浮かれたネロはイレギュラーは良いことだ思ったのだ。
 
 そう思ったネロは収穫祭で売られていた”梨の酒”に興味が湧き、自身が下戸なことも忘れて購入することにしたのである。アルジェントも止めればいいものの、ネロに激甘なこのオオカミは二つ返事で酒を買うことを許してしまった。

 そして祭りから帰宅したネロは以前酒癖で悩んだというのに、少しなら大丈夫だろうと自室で酒の瓶を開けてみることにした。

 透明なグラスに入った氷と淡い黄色がかった液体が混じり合い、ほのかに梨の香りがしてくる。

 口に含んでみると梨の甘さとアルコールの香りが鼻を抜ける。
 甘めにできているその酒はとても呑みやすく、アルコールの独特な風味が苦手なネロも酒ということを忘れ、はやいペースで呑みすすめる。




「ふへへ~」

 そして案の定グラス一杯酒を呑んだ頃には、ヘロヘロに酔っ払っていた。

 頬を紅潮させ、潤んだ黒目は既に据わっているように見える。
 そんなネロはジュースのように飲めるその酒を余程気に入ったのだろう、酔っていることにも気づかず更に飲もうと酒の瓶を手にする。

 手元が覚束無い中、溢さないよう気をつけながらグラスにゆっくり注いでいく。酒を半分ほど注ぎグラスに口を付けようとしたその時、トントンと目の前の扉を叩く音がする。

 一体何だろうと不思議に思ったネロは、一旦グラスを机に置き扉に目線をやる。

「はぁ~い?」

 ネロが声を発した瞬間、開けられた扉からアルジェントの顔が覗く。

「ネロ、入るぞ」

 部屋に入って来たアルジェントはデートの時とは違う白シャツと黒のスラックスというラフな格好をしており、その手には水の入ったグラスを持っている。

 ネロが1人で酒を飲み酔っ払うことが分かっていたのだろう。酒を買うことを許した手前、心配で様子を見に来たのだろう。既に酔っているネロを困ったような表情で見つめ、水の入ったグラスを手渡す。
 
「ほら、一旦水を飲もう?」
「んえ~?」

 隣に座ったアルジェントに促され酔って何が何だか分からない状態のネロは、とりあえずアルジェントに渡された水を口にする。火照った体に冷たい水が染み渡りほんの少しだけ酔いがマシになったような気がする。

 そして未だ少しふわふわとした頭でなぜアルジェントが突然部屋に来たのかを考える。
 
 何か約束していただろうか。
 夕食は祭りでたくさん食べたので要らないという話になったし、酒を一緒に呑む約束もしていないはず。
 
 回らない頭で思考を巡らせてみるも、全く思いつかない。心当たりもない。そのためただ酒で蕩けた目をアルジェントに向けることしかできない。
 
「……結構酔ってるな」

 そう言うアルジェントは心配そうな表情を浮かべ、さらりと指で火照った頬を撫でる。
 少しカサついた硬い指に擽ったさを感じたネロは少しだけ身動ぐ。

「まだ、よってないれす…まだ、のめましゅ…」

 そして酔っていると言われたことが不満だったのかネロは唇を尖らせ、まだ呑めると言うかのように酒の入ったグラスを再び手にする。しかし口元に持っていく前にネロの手にあるそれはアルジェントによってサッと奪われる。

 グラスを奪ったアルジェントは反対の手で優しくネロの頭を撫で、言い聞かせるように言葉を繋ぐ。

「ネロの願いは全て叶えてやりたいが……今日はおしまいにしような?」

 優しく、諭すような低く落ち着いた声がネロの耳に届く。
 
 先ほどまでネロの手元にあった酒が、コクっ、コクっ、と音を立ててアルジェントの体内に入っていく。
 
 ゆっくりと上下するアルジェントの喉仏。
 ネロはそれをただ見惚れるようにボーッと眺める。

 ただ嚥下しているだけだというのに少し濡れた唇が、妙に蠱惑的で。

「んっ、結構甘いな」

 その唇から紡がれる言葉さえ、色っぽく聞こえる。

 グラスに入った酒を全て呑み干したアルジェントは特に酔った様子もなく。
 今も尚アルジェントに見惚れた状態のネロを見つめ返す。

 琥珀色の瞳が、ネロを捉える。

 ただ見られただけだというのに。
 その一瞬で、火照ったネロの体が更に熱くなる。

 湧き出るようなその熱に頭が浮かされ。
 加えて全身が汗ばむような、そんな気さえする。



 
 


 
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