朝チュン転生 ～地味に異世界を楽しみたいのに女神サマが邪魔をします～

49話 片鱗 1

…チュン、チ、チチチ、チュンチュン…

　ベッドの中で少しずつ意識が覚醒していく。
　そういえば、いつの間にか横向きで寝ていた。
　腕枕のクセが抜けて、ちょっと寂しいような…

「ふぁ、あぁ～」

　ひとつアクビが出て、寝たまま軽く伸びをすると一気に覚醒が進む。
　ベッドから起き上がって、縁に腰掛けると【洗浄】を自分にかける。
　髪の寝癖がほどけ、目ヤニが無くなり、口の中の気持ち悪さが消え、うっすら寝汗でベタついた身体全体がサラッとする。

　爽快さに完全に目が覚めた。

　さて、今日はどうしようか？




　…う～ん、唐突に思い出したけど、この、"朝から自分で自分の１日を決める感覚"、やっぱり最高だな。

　転生前は、サラリーマンしてた時期に、
　仕事の為に決まった時間に起き。
　仕事の為に満員電車に揺られ。
　仕事をして疲れて帰って寝る。

　１日の半分以上を、そんな事に費やしてるうちに、
「あれ？養わなきゃいけない家族もいない、欲しい高い物もない、それなのに、何でこんなに自分の人生の時間消費して、一生懸命お金稼いでるんだろう？」
って思って、収入は低くてもストレスフリーな生活始めたんだよな。

　ヒマな時間でコツコツ資格とか取ってるうちに、サラリーマンとそんな遜色無い月収になったけど。

(まぁ、ボーナスや退職金が無いから、総額で見ればボロ負けか？)

　冒険者もフリーターに近い感覚だなぁ。
　ストレスフリーだけど、楽な方に流され過ぎれば、全然儲からない。
　稼ぎたければ訓練に時間を取られる。
　さらに稼ぎたければ、命をベットして賭けに出れば、一攫千金もあり得る。
(まぁ、フリーターに命を賭ける要素はないけど…FXに手を出すようなものか？)
　

　…夢があるような、無いような…
　


　ちょっと苦笑して思考を引き戻す。

　実戦訓練を始めて一週間くらい。
　ゴブリンくらいまでの、ランクの敵しか相手にしてないけど、レベルも3上がった。
　訓練効果でステータスもかなり上がったし、死体にも動じなくなった。

　短剣は相変わらず素人。
　なので、いまだに魔法で手傷を負わせた後の相手にしか使っていない。
　魔法戦の実力は少し進展した。

　【空間魔法】の"空間弾"は他の属性ではまだ出来ない"効果の調整"が出来るようになった。
　魔力を強く込めることで、形状を鋭くし、硬度、速度を上げることにが可能に。


　そして訓練の合間に受けたギルド講習「ギルド施設の利用方法」で衝撃の事実が。

　1階に設置されている、冒険者達が見ていたタブレットは、そこから依頼が受けられる事に、教えられる前から何となく気付いていたが。
　資料室の奥の個室にも、タブレットが設置されていて、なんとそこでタブレットから鑑定を受けて、自分が習得可能な魔法の名前・効果・詠唱を知る事が出来た。

　【時間魔法】もそこに情報が登録されていて、"下級魔法"の【遅延罠スネア】という魔法が使えるようになった。

　これは魔法抵抗レジストに失敗すると、身体の反応速度が低下する、という魔法で、食事中のゴブリンにこれをかけ、短剣を振りかぶって出ていくと、5秒くらいボーッとこちらをみていた。

　なので、3匹までなら、
　1匹を不意打ち瞬殺、1匹を【遅延罠スネア】で足止め、もう1匹を倒した後、最後に遅延していた1匹を倒す、という方法で対処可能になった。



　まさに【無動作魔法】ならではの戦闘方法だ。