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48話 幕間 希望に満ちた日々 6
しおりを挟む深い回想に、思考の一部を絡め取られながらも、マルティアルの仕事をする手は淀みなく動き続ける。
あの後、奴隷としてティナ様にご挨拶する為、自宅にお伺いした。
謝罪と感謝を述べると、逆に恐縮されてしまったけど。
リルトさんが、
「おー、これぞ"正統派女神様"って感じだね」
と言うと、ティナ様につねられていた。
集中する為と、大量にこなす為に、仕事場の近くに一人部屋を借りた事を話すと、ティナ様に夫婦仲を心配され、離婚しようと思っている事を話すと、リルトさんに反対された。
「なんか事情があって、たくさん仕事しなきゃいけないのは分かったけど、だからこそ、いい仕事をする為にも、モチベーションを高める要素は必要だよ」
と言われた。
結局ティナ様の鶴の一声で、いい仕事をすれば夫に会いに行ける事になった。
隷属効果で決定に逆らえないが、これから別れなければならない二人の前で申し訳ないのに、どうしようもなく喜んでいる自分の心に気付き、涙が止まらなかった。
「…見つけた」
とりとめのない思考を振り切り、画面に集中する。
"龍脈・霊脈管理部"の勤怠情報と、作業進捗を見ると、なんとも言えない違和感がある事に気付いた。
ティナ様がいた頃と、いなくなってからを見比べると、あまりにも勤怠情報が似通っていて、作業進捗もおかしい。
ティナ様と、ティナ様の後に入った子は、毎日残業をしている。
例の三人は、1日交代で順番に1人だけが残業していて、週2回の残業だ。
それなのに作業進捗を見ると、例の三人の方が仕事が出来ている。
残業数が3日も少なく、あんな風に長時間休憩しているにも関わらず。
…何となく分かった気がする。
セイルマリルを画面に映し、作業が行われた龍脈・霊脈を見る。
ティナ様と、ティナ様の後に入った子の作業した箇所を見ると、淀みなくキレイに整えられていて、滞りなどが再発している箇所は無い。
例の三人が作業した箇所を見ると、全体の6割くらいは杜撰な作業で、各所に滞りが再発している。
しかし、残りの4割は突然キレイに整えられていて、滞りなどが再発している箇所は無い。
私は素早くシステムを構築し、
「作業分担に不明確な所があるので是正したい」
とティナ様に進言し、承認を貰った変更を、管理部長にすぐ実行するよう指示を出す。
今までは、
一月分の全員の作業を、例の三人の誰かが取りまとめ、管理部長に報告を出していた。
これからは、一人一人の作業が、直接部外のデータ管理部門に送られ、そこで取りまとめられ、管理部長に報告される。
そして一週間が経った今、執務室のティナ様のデスク前には、
土下座をする"龍脈・霊脈管理部"管理部長の姿が。
私の読み通り、例の三人は"取りまとめ"と言う立場を利用して、人の成果を切り取り、自分達の仕事に上乗せして、虚偽報告をしていたのだ。
三人のしていた事は悪質だが、部長の管理の杜撰さも原因の一つではある。
例の三人は当然解雇。
おそらく神格剥奪され、天使に落ちて魔界との最前線に、盾として送られるだろう。
「何も無しで良かったんですか? ディメンティーナ様も、あの三人にはかなりの被害を受けたでしょう?」
「え? あぁ、いいんです別に。
あの三人のイヤミや陰口があったからこそ、リルトと仲良くなれた、みたいな所もありますから」
「お熱いですね」
「1000年も待ってられないですから。
手出しする権利も正式に出ましたし、ガンガン行きますよ!」
ティナ様なら、私のように周りが見えなくなる事も無いだろう。
そうなったとしても、私がサポートすればいいだけだ。
未来への希望に、目を輝かせるティナ様。
彼女の熱が、私の果てしない償いの道の先にも何か小さな光りを灯した気がする。
「私も、微力ながら協力しますよ」
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