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68話 路線修正 8

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「お、おおお!こ、これは素晴らしいですね!」

(やべっ、反応が良すぎる、やらかしたか?)



 オレは今、懇意にしているマーカス商会の会長室で、自作のアクセサリーを見せている。

 この間、森の中で一人錬金術をしてからハマってしまい、宿に籠ってアクセサリー作りをしていた。

 あの時、夜営の狩りでそこそこの金額を手に入れて余裕もあったし、"先にデッサンをしてイメージを固める"というやり方でコツを掴むと、自分の想像した物が形になるのが面白くて、つい素材を買い込んで作りまくってしまった。


 この魔法で行う彫金の面白いところは、地球では彫ったり、一時的に溶かしてくっつける事しか出来なかった金属が、別々の金属でも混ぜるように組み合わせる事が出来る事だ。
 なので、今回は"金とプラチナのマーブリング"という技法をコンセプトにして、その地金で指輪、イヤリング、ネックレスを作ってみたんだけど…



「…これは金とプラチナですか?」
「は、はい、こういうデザインは珍しいですか?」

「…ウチは王都にも支店がありまして、当然他店の視察にも行くのですが、…記憶が確かなら、有名な王都の最高級宝飾店でも見たことがありません」
「…ウケないからですか?」
「いえ、私には充分美しく、売れる可能性のある商品に見えます。
 というか、こんな技法が可能なんですね」

(うーん、判断がつかないなぁ、ただ作らないだけなのか、"誰も出来ない"のか…)





…コンコンコン


「失礼します、お茶をお持ちしました」
「どうぞ」

 お茶のセットを持って入ってきたのは、20代後半くらいの落ち着いた感じの女性。

「エリー、君もちょっと見てくれないか?
 あ、リルトさん、こちら私の家内です」

「やっとお会い出来ました。
 夫がお世話になっております、妻のエリザベットと申します」

「あ、どうもはじめまして、リルトと申します」

「リルトさんと懇意にさせて頂いてから、夫は家でもよくお会いした時の話をするんですよ、だから私も一度お会いしてくて」




 奥さんはお茶の用意をすると、ジョンさんの横に座る…が既に目はオレのアクセサリーに釘付けになっている。
 目が怖い。

「リルトさん、妻は元々王都の大店の娘なんです。
 私よりも宝飾品は見る目があると思います」

「そ、それは心強いですね」


 奥さんはいつの間にかジョンさんの着けていた手袋を取り上げ、ルーペのようなモノで指輪を見ている。
「リルトさん…」
「は、はい」
「これは…何ですか?」
「え…? えーと何ですかと言われても」


「夫が言ったように、私は元々実家の手伝いで、宝飾品を扱っていた事があります。
 直接アクセサリーを作る工房へ赴いて、その職人さんがどれくらいの技法を持っているのか、見せてもらった事も何度もあります」

「はい…」

「確かにこのように別々の金属を"繋ぐ"ような技法はあります。
 ですが、このように継ぎ目無く、溶け合うような複雑な模様は見た事がありません」



 うーん、やっぱりそうか。
 何でオレにだけ出来るんだ?って原因は"アレ"しかないと思うけど。



「あの…一応今回は"お試し"なので、シンプルな"金属だけ"でまとめたんですけど…」

 奥さんは目を見開いている。
「ひ、ひょっとして…」

「はい、宝石でも似たような加工が出来ます」
 オレはアイテムストレージから、プラチナの下地にエメラルドの蔦が絡まっているデザインの指輪を取り出して、テーブルに置く。

 そう、さすがに宝石は小さくてもそれなりの値段がするし、そもそも売れるか分からないし。
 それに、さすがにオレの技量だと、宝石を加工すると、メチャクチャ時間と魔力が必要で頭痛がしてくるレベルだ。
 なので、試しで1つしか作っていない。




「リルトさん…マーカス商会に、いえ、私にこの作品の取り扱いを任せて頂けませんか?」



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