70 / 244
70話 幕間 未来への贈り物 1
しおりを挟む「…本当に、どれだけ見ても飽きない、素晴らしい作品だね」
「ええ、そうね…」
リルトさんが帰った後も、私達夫婦はソファーから動かず、作品を見続けている。
いや、主に目が釘付けになっているのは私で、ジョンはその私を見て微笑んでいる。
この人は…出会ってもう15年は経つというのに。
そんなジョンの顔が突然曇る。
「だけど…本当に王都へ行く気かい?」
「もちろんよ。
"あの契約"よ?父にしっかりと説明して、トラブルを防がないといけないわ。
特に今回の作品は、宝石は使っていなくてもプラチナと金、それなりの価格設定になるし、おそらく販売対象は貴族の方々になるわ、事前の打ち合わせは綿密にしておく必要があるのはわかるでしょ?」
「…言いたい事は分かってるんだけどね」
「なに心配してるの。
私だって、護衛の冒険者が魔物に噛み殺される所や、盗賊が首をはねられる所だって見てるのよ」
と、強がって言っているけど、本当はけっこうなトラウマではある。
…トットトト
「…はぁ」
ふと、気がつくと廊下から聞こえてくる軽い足音に、ため息が出てしまう。
…コンコンコンガチャッ!
「お父さん、お母さん、ただいま!」
飛び込むように部屋に入って来たのは、言わずもがな私達の愛娘、ジャネットだ。
「ジャニー、この部屋には、ノックして「どうぞ」と言われなきゃ入ってはいけない、とお父さんとお約束したはずだよ?」
ジョンは優しく咎める。
「だって店長さんに聞いたら、お客様は帰ったって言ってたから。
お父さんとお母さんしかいないなら、失礼にはならないでしょ?」
ジャネットは勝ち誇ったかのように、満面の笑みで私の隣に座る、と、すぐに机の上の物に気付いた。
「わぁあ!スゴいキレイなアクセサリー!」
テーブルの上にある、ビロード生地を引いた箱に丁寧に並べられたリルトさんの作品。
「…ジャネット」
不用意に近づくのを、流石に看過出来ない私の声は冷たく低い。
ビクッとしたジャネットは、差し出そうとした手を引っ込め、近づくのを止める。
「わ、わかってるよ。
"お店の商品は私達のものじゃなく、いずれ買いに来るお客さんのものだから、必要なく触っちゃいけない"でしょ?」
ジャネットは手を引っ込めたまま、そっと近づき、うっとりとリルトさんの作品を見ている。
「ふわあぁ…、ホントにスゴくキレイだね。
こんなアクセサリー見たことない」
「そうね。
この作品は全て王都に持って行ってしまうから、この町の人が目にする機会は、たぶんまだ無いわね」
「そうなんだ、王都かぁ~…」
ジャネットはアクセサリーを観ながら、何か考え込んでいたが、ふと顔を上げる。
「王妃様とかが付けるのかな?」
その一言に、私とジョンはビクッとした。
まずい…その事が頭から抜けていた。
貴族様方の間で評判になれば、当然王や王妃様にも話が伝わる。
その時になって呼び出されでもして、
「アクセサリーは完売です。
オーダーされても、作者の気が向くまでは作られません」
とは流石に言えない…
ジャネットは一通りアクセサリーを見て、満足して遊びに出掛けた。
私達はまだソファーから動けない。
「…エリー、どうしようか?」
「…どうしようも何も、リルトさんに正直に話して、協力してもらうしかないわよ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
537
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる