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70話 幕間 未来への贈り物 1

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「…本当に、どれだけ見ても飽きない、素晴らしい作品だね」
「ええ、そうね…」

 リルトさんが帰った後も、私達夫婦はソファーから動かず、作品を見続けている。
 いや、主に目が釘付けになっているのは私で、ジョンはその私を見て微笑んでいる。

 この人は…出会ってもう15年は経つというのに。




 そんなジョンの顔が突然曇る。

「だけど…本当に王都へ行く気かい?」

「もちろんよ。
 "あの契約"よ?父にしっかりと説明して、トラブルを防がないといけないわ。
 特に今回の作品は、宝石は使っていなくてもプラチナと金、それなりの価格設定になるし、おそらく販売対象は貴族の方々になるわ、事前の打ち合わせは綿密にしておく必要があるのはわかるでしょ?」

「…言いたい事は分かってるんだけどね」

「なに心配してるの。
 私だって、護衛の冒険者が魔物に噛み殺される所や、盗賊が首をはねられる所だって見てるのよ」

 と、強がって言っているけど、本当はけっこうなトラウマではある。





…トットトト

「…はぁ」
 ふと、気がつくと廊下から聞こえてくる軽い足音に、ため息が出てしまう。



…コンコンコンガチャッ!
「お父さん、お母さん、ただいま!」

 飛び込むように部屋に入って来たのは、言わずもがな私達の愛娘、ジャネットだ。


「ジャニー、この部屋には、ノックして「どうぞ」と言われなきゃ入ってはいけない、とお父さんとお約束したはずだよ?」
 ジョンは優しく咎める。

「だって店長さんに聞いたら、お客様は帰ったって言ってたから。
 お父さんとお母さんしかいないなら、失礼にはならないでしょ?」




 ジャネットは勝ち誇ったかのように、満面の笑みで私の隣に座る、と、すぐに机の上の物に気付いた。


「わぁあ!スゴいキレイなアクセサリー!」

 テーブルの上にある、ビロード生地を引いた箱に丁寧に並べられたリルトさんの作品。


「…ジャネット」
 不用意に近づくのを、流石に看過出来ない私の声は冷たく低い。

 ビクッとしたジャネットは、差し出そうとした手を引っ込め、近づくのを止める。

「わ、わかってるよ。
"お店の商品は私達のものじゃなく、いずれ買いに来るお客さんのものだから、必要なく触っちゃいけない"でしょ?」

 ジャネットは手を引っ込めたまま、そっと近づき、うっとりとリルトさんの作品を見ている。

「ふわあぁ…、ホントにスゴくキレイだね。
 こんなアクセサリー見たことない」

「そうね。
 この作品は全て王都に持って行ってしまうから、この町の人が目にする機会は、たぶんまだ無いわね」

「そうなんだ、王都かぁ~…」

 ジャネットはアクセサリーを観ながら、何か考え込んでいたが、ふと顔を上げる。





「王妃様とかが付けるのかな?」





 その一言に、私とジョンはビクッとした。

 まずい…その事が頭から抜けていた。

 貴族様方の間で評判になれば、当然王や王妃様にも話が伝わる。
 その時になって呼び出されでもして、
「アクセサリーは完売です。
 オーダーされても、作者の気が向くまでは作られません」
 とは流石に言えない…




 ジャネットは一通りアクセサリーを見て、満足して遊びに出掛けた。
 私達はまだソファーから動けない。


「…エリー、どうしようか?」

「…どうしようも何も、リルトさんに正直に話して、協力してもらうしかないわよ」




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