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92話 出会いの旅路 18
しおりを挟む黒髪の犬獣人の男は肩をつかんだまま離さない。
(誰なのかはだいたい分かるが、…なんだこの態度?)
「あなたは?」
「俺はガルフの親父で、このギルドの戦闘訓練教官をしてるガリオスだ。
ちょっと訓練つけてやるから訓練場まで来い」
「なぜですか? 特に受け忘れてる戦闘講習は無いはずですけど?」
「あ? つべこべ言ってねぇでいいから来いよ。
王都ギルドの訓練教官として"戦闘から逃げるフヌケ野郎だ"って評価付けてやってもいいんだぜ?」
(……)
オレは、犬ジジイが絡んできた時、ちょうどギルド入り口に現れたガルフが今の会話を聞いて顔をしかめているのを確認した。
「…分かりました、訓練場に行きましょうか」
訓練場に向かっていると、後ろからガルフが小さな声で尋ねてくる。
「なかなか来ねぇと思って来てみたら何なんだ、この状況?
それに親父のあの言い分は…」
「ガルフさん…とりあえずはオレがなんとかするんで、黙って見ててもらえますか?
あ、"見られてる"のはちょっと困るんですけど」
「分かってる。
音と気配でだいたい把握出来るからな、戦闘開始する時には目を閉じててやるよ」
「ありがとうございます」
訓練場には誰もおらず、中央で犬ジジイが腕を組んで仁王立ちしている。
「おうガルフ、久しぶりだな。
お前も観ていくか?」
「…あぁ、俺の後輩だからな」
「そうか、じゃあお前が治療室へ運んでやれよ」
犬ジジイはニヤニヤしながら指をポキポキと鳴らしている。
オレは聞いていないフリで訓練場に備え付けられた木製の短剣と盾を取る。
「ラテル、戦闘前に少し離れてて」
「キュキュギュ!」
何となく嫌がっている雰囲気だ。
「まだ二人で戦闘訓練もしてないからね、訓練したら一緒に戦おうね」
「…ギュー」
しぶしぶ了承したような鳴き声だが、犬ジジイの前に立つと、自分から降りて少し離れた場所に距離を取る。
「なんだ? 精霊獣も一緒に戦えよ」
オレは構える。
「必要があれば呼びますよ」
「そうか、それならすぐ呼ぶ事になるな」
「…この模擬戦の条件は?」
「普通と同じ条件だ」
「合図は?」
「いらねぇよ、初手はやるからそれで開始だ」
「分かりました」
チラっと確認すると、ガルフは訓練場の端で目をつぶって立っている。
「では行きます」
(…都合良く観客はいない、速攻だな)
「***** ***** 【空間壁】!」
自分の前、犬ジジイの左右に計3枚の壁を出し、"位相転移"で姿を消す。
パリィン!
一瞬でオレの前に来た犬ジジイの拳一撃で壁は破壊されたが、オレはすでに"空間蹴り"で右の壁裏へ移動済みだ。
「いない!?」
(やっぱりスピードもパワーも今のオレが届くレベルじゃない…もう一手挟むか)
「…【遅延罠】!」
空間壁の陰から"スネア"を撃ち込み、すぐに再度姿を消す。
今度は左の壁には隠れない。
「チョコマカしてんじゃねぇよ!」
パリィン!
スネアの影響を感じさせない速度で右の壁を蹴り壊し、間髪いれず左壁の前へ移動して拳を振りかぶる犬ジジイ。
(…ここだ!)
パリィン!
犬ジジイの拳が壁を破壊し伸びきる瞬間に背後から姿を現して、首筋に模擬剣をソッと当てる。
「これで終了です」
ドゴォ!
「ぐぅ!」
一瞬息が止まる腹部への衝撃、ゴロゴロと地面を転がり土まみれで止まる。
立ち上がろうと膝立ちになるが、力が入らない。
痛みで歪む視界では、犬ジジイが伸ばした右腕を引き戻し後ろへ肘を突き立てていた。
(……)
犬ジジイは振り向きニヤニヤとしている。
「教官が"それまで"って言ってねぇんだから、模擬戦は終了じゃねぇんだぜ、油断したな」
「……あ?」
(自分の強さにうぬぼれて…それが正義かのように振る舞い…理屈も通じない…老害だな)
…オレの意識が薄れる。
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