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169話 ラスカリア 9

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 今まで絶賛していた干し肉がコボルドの肉だと聞いて三人は固まっている。

 コボルドの肉は独特のイヤな臭みがあり、また肉質も筋が多く食べやすい箇所が無いため食肉としては扱われない。


「これが?コボルドなのですか?」

「コボルドってこんな美味しかったのか?なんで冒険者は捕ってこないんだ?」

「…これは、"リルトだから"か?」
 ファル爺はすぐにカラクリに気づいたようだ。


「そう、普通にはコボルドの肉は臭くて固くて食べれたもんじゃないよ。
 ボクの錬金術で味や肉質を整えてるんだ」


 見た目には普通の肉に見えるが、実はいわゆる"成型肉"というヤツで、毛皮以外の浄化したコボルドの"全ての部位"が使われている。
 そう、骨や筋、内臓、頭も全てだ…
 最初に出来上がった時はさすがに食べるのに躊躇して、自分で作ったのに鑑定までしてしまった。
 …なのでその事は伏せておく。


「これは…ラスカリアの新たな名物になるのではないですか?」
 店長が真剣な目でオレを見ている。

「そこまで言ってもらえるなら成功かな」

「なんだ?リルト、商売でも始めるのか?金なら余っているだろう?」

「まぁそうだけど"資産運用"ってヤツだよ」

「「「??」」」


 その後三人を置き去りにしてオレは冒険者ギルドや商業ギルドを回り、ファル爺に見つからないようそっと自分の部屋へ帰った。



ーーーーーーーーーー

「おい、見ろよ…」

「あいつらも潜りに来たのか」


 ダンジョンの1階層目入口付近。
 今日は朝から来ている為他の冒険者達の姿が多い。
 周りの冒険者達は朝食を食べたり装備の点検を行っている。


 空間察知に黄色から赤色に点滅するマークを初めて見つけ、そちらを見るとあのニルと呼ばれた青年とパーティーメンバーがいた。

(敵意のレベルでこんな事になるのか…)

 今はおそらくムカつくくらいの感情で後一押しで手が出る、くらいなのだろう。
 関わりあいにならないようにしないとな…

「ポラリス、混んでるし行った事のある場所までは一気に行っちゃおう」

「分かった」


 ポラリスがオレに近づき即座に二人で姿を消す。
 二人の範囲で"空間壁"からの"位相転移"をかけるのにも慣れてほぼ一瞬で出来るようになった。


「うぉ!消えた?」

「なんだ今の?見たことない魔法だ」

「…察知に一切かかんねぇぞ、アイツ顔がいいだけの只の坊主じゃねぇな」


 周りがキョロキョロしながら騒ぐ中、オレとポラリスはランニング程度の速度で走り出す。

「キュキュキャ!」

 フードの中で後頭部に掴まっているラテルが何か訴えている感じだ。

「今日はラテルも瑠璃も手を出していいからね」

「キュン!」

「どこまで行けるかな?」

「ひとまずの問題は4階層だね。
 オレの魔法とポラリスに渡した"アレ"がどこまで効くか…」


 オレ達は遮るものもなくすぐに露天掘りの穴まで辿り着いた。
 オレは30mほど下にある穴の底を覗き込みながら1つの大きな横穴を指差す。

「たぶんあの周りより一回り大きな穴が先に続いてる穴だね」

「分かった、行こう」


 ちらほらとコボルドが歩き、あちこちの横穴からも現れるのでオレ達は手を繋ぎ"空間蹴り"で穴の中央を降りて行く。
 手を繋ぐ時ポラリスが少し恥ずかしそうにしていたが、状況が状況なのですぐに踏ん切りをつけてオレの手を取った。


 空中をゆっくりと降り、土砂の山や手作りの不恰好な道具が乱雑に置かれている穴の底へ到着する。

「…この辺のコボルドもまだレベル10前後だね」
 鑑定結果をポラリスに伝える。

「やっぱり階層進まないとダメだね、どんどん進もう」


 ということで"灯りライト"の魔法を使い大穴を進むとやはり漆黒の境界が現れそこをくぐる。


 潜った先には大穴が続いていて、大穴の一本道に小さな穴が無数に開けられている。


「これは…隅から隅まで見るのは骨が折れそうだね」

「今日は先に進もう」

「そうだね…たぶん一本道の先だね」


 道には定期的に横穴からコボルドが現れ、ここで戦えばかなりの乱戦が予想出来る。
 コボルドのレベルもさほど変わらないのでオレ達は姿を消したまま道を進み、先の方に漆黒の境界が見えて来た。


「このまま抜けちゃうのも何だし、横穴を一つくらい探索して見ようか?」

「そうだね」


 オレ達は手近な横穴を選びその中へ入っていく。
 中は大穴よりもボコボコした雑な作りでちょっと崩落が怖い。
 どうやら他の横穴とも繋がっているらしく、途中に道の分かれている箇所がいくつかある。
 そしてなるべく横へ逸れないように進んで行くと、少し開けた場所に出た。

「…道具とかも落ちてるし、ここで採掘してるのかな?」

「みたいだね」


 偶然なのかコボルドの姿は無く、掘り途中らしき奥が見える小さな穴からも気配は無い。

「キューン」

 と、ラテルが呼び声を上げ振り向くと掘り途中の穴の一つを手を振り差している。

「…何かあるの?」

「キュキュ」

 ラテルに導かれて穴の奥へ行く。


「キューン」

 掘り途中の穴の一番奥へ入るとラテルが魔力を発し、ボロボロと穴の壁が崩れていく。

…ゴトッ

 鈍い音を立ててソフトボール大の石の塊が地面に落ちる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コボル鉱石

純度:低

コボルドの魔力により変異した鉱石。
元になった鉱石により硬度、魔力含有量が
変化する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 拾って"鑑定"する。

「これがコボル鉱石か」

 オレは錬金盤をイメージしながら魔力で鉱石を包む。
 ボロボロと周りの土や石が崩れ、手の上に残ったのはピンポン玉くらいの青みを帯びた金属。

「けっこうキレイな金属だね」
 横からポラリスが覗き込む。

「純度は"低"って出たし、使えるのかは怪しいところだけどね、採掘するならもっと奥地で、だね」

「キュー…」

 ラテルが悲しそうに鳴くので後ろへ手を回し優しく撫でる。

「奥地で採掘したいから、その時はまた探してね?」

「キュン!」



 ラテルの位相転移が解けたので再度かけ直し、オレ達は大穴へ戻り3階層への境界を跨ぐ。




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