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220話 ラスカリア 31
しおりを挟むザワザワと楽しげな気配が周囲から溢れ出し、まるでお祭りの会場のようだ。
ラスカリアから王都方面へ出た草原が沢山の人で溢れかえっている。
一般の人も冒険者も、子供から大人まで、普段街から出ないような人まで足を運んでいる。
街道には警備の衛兵と手伝いの依頼を受けた冒険者が駆り出され、人々がラスカリアへ向かう馬車等の通行を妨げないように走り回っている。
だがその馬車の方が何事かと止まってしまい、その度に説明に走る事になってわちゃわちゃになってる…
街道には屋台を持ち出した商魂逞しい者も多く、そこだけ見ると本当にお祭りみたいになってるなぁ…
今日は東の隣国から飛空艇がこのラスカリアに来る日だ。
仕事として事前に情報を得た衛兵や警備の補助依頼を受けた冒険者達から話が流れて、あっという間に知れ渡った事でこの状況になっている。
まぁ、オルガスティアに飛空艇が降りるのは初めて…なのかは分からないけど普段は無い事だ。
近くで見たい人々が集まってしまうのも仕方のない事だろう。
そんな中オレ達の一団は混雑に見舞われる事も無く…というかオレ達も見物対象の一つになっている。
大司教が権限を使って神殿騎士達を招集し周囲の警護に当たらせ、オレ達はその輪の中心で天幕を張り椅子を並べて雑談しながら飛空艇を待っている。
「リルト、これ美味しいよ?」
オレはポラリスが屋台で買ってきた肉串を一本もらい噛じる。
(…やっぱイマイチだな)
異世界物語なんかだと良く主人公が食べたりするけど、オレは一度も惹かれた事が無い。
まぁ大抵の物語の主人公は若者だから、肉を食べれればそれで美味しいと思うのかも知れないけど。
ハッキリ言って串焼きを舐めてるな、と読んでいて良く思ってた。
日本の料理に対するこだわりは並大抵じゃない。
串焼き一つ取っても、素材にこだわり、調味料にこだわり、焼きムラを防ぐ為の切り方、下処理、ありとあらゆる事にこだわって作る。
そんな料理を食べてきたのにただ適当に切って焼いたような物で美味しいと思える訳が無い…
特にオレの場合は元大人で、ちゃんとしたお店の美味しい物を食べちゃってるから余計にだな。
「まあまあだね」
「そ?美味しいよ?」
…ワァ
?何か歓声が…
その方向を見ると、神殿騎士が道を開けて馬車が1台こちらへ向かって来ていた。
白く塗られ装飾も施された高級そうな馬車だ。
「来たみたいだね」
アリルメリカの王様、ウルリッヒ陛下が馬車を見ている。
「どなたの馬車かご存知なんですか?」
「ああ、着陸許可を取ったら見に来るって言ってたからね」
馬車の扉が開き、中からはオルガスティアのランドルフ王、リナ王妃、そしてマリウス宰相が現れた。
周囲の人々は大盛りあがりだ。
オレ達も立ち上がり迎える。
「リルトくーん!」
「わっ!?」
小走りで駆けてきたリナ王妃にいきなり抱きしめられてしまった。
「お、お久しぶりですねリナ王妃」
「リルトくん! …ボソボソ」
突然耳打ちされた内容は"ご懐妊"。
そうか、もう錬金薬を処方してから一ヶ月は経つのか。
でも良かった、ちゃんと薬が効いて。
「ご懐妊おめでとうございます。 でも走ったりしちゃダメですよ?」
まだ一ヶ月だしナイショだろう、周囲が騒がしいから大丈夫だとは思うがオレも重要な部分は小声で話す。
「あはは…」
「ホントだよリナ。いい加減大人しくしてくれ…」
追いかけて来たランドルフ王が困った表情で現れる。
「ランドルフ陛下。お久しぶりです」
「おうリルト、元気そうだな。 …ありがとう、お前のお陰でやっとリナとの子に会えるよ」
「私からもお礼を、これで我が国も安泰です」
ランドルフ王もマリウス宰相もいい笑顔だ。
「お役に立てたみたいで安心しました」
「飛空艇の見学が終わったらメシ行こうぜ? 高級なの奢るからよ。 もちろんお仲間も一緒にな?」
「ありがとうございます。 みんなに聞いておきますね」
(…ランドルフ王も来るとは、これはさらに都合がいいな)
と、マリウス宰相がソッと近づいてくる。
「今日は何か驚かす趣向はないんですか?」
「お、マリウス宰相。鋭いですね」
「カンですよ。リルト殿を見ていたら何となく」
「まぁ、楽しみにしてて下さい」
マリウス宰相は頷くとランドルフ王達と合流してアリルメリカの人達と挨拶に行った。
(さて、どうなるかな?)
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