1 / 5
1.伯爵様との対面
しおりを挟む
(はあ、どうして私がこんなことを……)
エイラは目の前の席に座る、婚約者候補の男のことを見た。
相手は新興ではあるが、伯爵家の当主だ。
本来なら、男爵令嬢に過ぎないエイラが婚約者として選ばれることはないだろう。
精々、側室が関の山だ。
だが現状、エイラがこの伯爵の婚約者候補として最有力であるということは、間違いないのだ。
正確には、他の候補者たちが脱落していって、残っているのがエイラしかいないだけなのだが。
女嫌いのローランド。
末端貴族の令嬢にすぎないエイラですら、その噂は耳にしていた。
エイラとて、好きでそんな男と婚約をしたいわけではない。
全ては貧しい男爵家に少しでも援助をしてもらうため。
大切な家族のためにも、数多の貴族令嬢たちを袖にしてきたこの男を、どうにか攻略して嫁がなければならないのだ。
己に課された試練の難易度の高さに、エイラはため息をついた。
◇
ローランド・クロイツ伯爵。
彼の武勇をこの国で知らぬ者はいないだろう。
五年前に王国を襲った魔物の大群。
魔境と呼ばれる、大森林の中から溢れ出してきた魔物たちは、王国にその猛威を振るった。
主要都市の一つが落とされ、滅びた村は数知れない。
そんな王国の滅亡の危機を、己の剣一つで救ってみせたのが、当時冒険者だったローランドである。
身一つで魔物の大群に突撃し、そのまま無数の魔物を斬り伏せた。
噂では竜種すら単独で葬ったという。
個でありながら、圧倒的な強さをみせたローランドの姿に激励され、絶望のなかでも民は戦意を失うことはなかった。
そして一年の激戦の末、とうとう魔物を魔境へと追いやることができたのである。
未曾有の危機を乗り越えた立役者として、ローランドは称賛され、平民の出でありながら、特例として伯爵の位を叙されたのだ。
王国を救った英雄。
そんな者を、貴族たちが放っておくはずもなかった。
男性貴族を引き込む手段。
それは金、地位、そして女だ。
伯爵に叙された際に、多額の褒賞金が国庫から支出されたため、金と地位には困っていないだろう。
そんな考察から、貴族たちはこぞって自身の娘をローランドへあてがおうとした。
その中には、王女も含まれていたという。
だがしかし、誰一人としてローランドに嫁ぐことはできなかった。
なぜ誰も嫁ぐことができなかったのか。
それにはいくつか理由があった。
一つは、ローランドの見た目だ。
冒険者として圧倒的な強さを誇っていたローランドは、肉体も非常に恵まれていた。
筋肉の鎧に覆われ、巌のような肉体は、華奢な貴族令嬢の何倍もの体格を誇る。
顔には何かに切り裂かれたような、大きな古傷があり、無愛想な表情も相まって、まるで山賊のようだった。
蝶よ、花よと育てられた大抵の令嬢たちは、ローランドの姿を見ただけで、その迫力に飲まれ、失神、あるいは逃げ出してしまった。
中には肝の据わった令嬢もいた。
自身の内に湧き上がる恐怖心を抑えつけ、懸命にローランドへ話しかけ、微笑みを向けた。
そんなことをするのは、己の美貌に自信のある者ばかりだ。
自分が男からどう見られているかわかっているからこそ、できる手段でもある。
実際、同世代の貴族の異性に対しては、有効な手段であったのだろう。
だがローランドは、令嬢たちと目を合わせることすらなかった。
その態度は、まるでお前になど興味ないといわれているようで、令嬢たちのプライドを砕いていった。
どんなに美しいと評判の令嬢にも、全くなびかないローランド。
そんな彼に貴族たちも、自陣へ引き込むのを諦め始めた。
どうせ誰も嫁ぐことはできないのだから、無理に自分の娘を嫁がせる必要もない、と。
そして圧倒的な武勇を誇ったローランドは、「女嫌いのローランド」として貴族社会で語られることになった。
エイラは目の前の席に座る、婚約者候補の男のことを見た。
相手は新興ではあるが、伯爵家の当主だ。
本来なら、男爵令嬢に過ぎないエイラが婚約者として選ばれることはないだろう。
精々、側室が関の山だ。
だが現状、エイラがこの伯爵の婚約者候補として最有力であるということは、間違いないのだ。
正確には、他の候補者たちが脱落していって、残っているのがエイラしかいないだけなのだが。
女嫌いのローランド。
末端貴族の令嬢にすぎないエイラですら、その噂は耳にしていた。
エイラとて、好きでそんな男と婚約をしたいわけではない。
全ては貧しい男爵家に少しでも援助をしてもらうため。
大切な家族のためにも、数多の貴族令嬢たちを袖にしてきたこの男を、どうにか攻略して嫁がなければならないのだ。
己に課された試練の難易度の高さに、エイラはため息をついた。
◇
ローランド・クロイツ伯爵。
彼の武勇をこの国で知らぬ者はいないだろう。
五年前に王国を襲った魔物の大群。
魔境と呼ばれる、大森林の中から溢れ出してきた魔物たちは、王国にその猛威を振るった。
主要都市の一つが落とされ、滅びた村は数知れない。
そんな王国の滅亡の危機を、己の剣一つで救ってみせたのが、当時冒険者だったローランドである。
身一つで魔物の大群に突撃し、そのまま無数の魔物を斬り伏せた。
噂では竜種すら単独で葬ったという。
個でありながら、圧倒的な強さをみせたローランドの姿に激励され、絶望のなかでも民は戦意を失うことはなかった。
そして一年の激戦の末、とうとう魔物を魔境へと追いやることができたのである。
未曾有の危機を乗り越えた立役者として、ローランドは称賛され、平民の出でありながら、特例として伯爵の位を叙されたのだ。
王国を救った英雄。
そんな者を、貴族たちが放っておくはずもなかった。
男性貴族を引き込む手段。
それは金、地位、そして女だ。
伯爵に叙された際に、多額の褒賞金が国庫から支出されたため、金と地位には困っていないだろう。
そんな考察から、貴族たちはこぞって自身の娘をローランドへあてがおうとした。
その中には、王女も含まれていたという。
だがしかし、誰一人としてローランドに嫁ぐことはできなかった。
なぜ誰も嫁ぐことができなかったのか。
それにはいくつか理由があった。
一つは、ローランドの見た目だ。
冒険者として圧倒的な強さを誇っていたローランドは、肉体も非常に恵まれていた。
筋肉の鎧に覆われ、巌のような肉体は、華奢な貴族令嬢の何倍もの体格を誇る。
顔には何かに切り裂かれたような、大きな古傷があり、無愛想な表情も相まって、まるで山賊のようだった。
蝶よ、花よと育てられた大抵の令嬢たちは、ローランドの姿を見ただけで、その迫力に飲まれ、失神、あるいは逃げ出してしまった。
中には肝の据わった令嬢もいた。
自身の内に湧き上がる恐怖心を抑えつけ、懸命にローランドへ話しかけ、微笑みを向けた。
そんなことをするのは、己の美貌に自信のある者ばかりだ。
自分が男からどう見られているかわかっているからこそ、できる手段でもある。
実際、同世代の貴族の異性に対しては、有効な手段であったのだろう。
だがローランドは、令嬢たちと目を合わせることすらなかった。
その態度は、まるでお前になど興味ないといわれているようで、令嬢たちのプライドを砕いていった。
どんなに美しいと評判の令嬢にも、全くなびかないローランド。
そんな彼に貴族たちも、自陣へ引き込むのを諦め始めた。
どうせ誰も嫁ぐことはできないのだから、無理に自分の娘を嫁がせる必要もない、と。
そして圧倒的な武勇を誇ったローランドは、「女嫌いのローランド」として貴族社会で語られることになった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
80
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる