4 / 5
4.伯爵家の新たな日常
しおりを挟む
ローランドの朝は早い。
まだ薄暗い時間に目を覚ますと、ベッドの脇に立て掛けてある愛剣を手に取った。
そして、部屋を出ようとすると……。
「おはようございます、ローランド様」
目を逸らした。
「ローランド様、挨拶をするときは相手の目をしっかり見てください。
さあ!」
「……おはよう」
チラッとエイラの方を見て、早口でそれだけいうと、逃げるように庭へと出た。
朝の鍛練は、冒険者として活動していた頃からの日課だ。
いや、鍛練というより、もはや癖といったほうがいいだろうか。
これをしないと、どうにも一日が始まった気がしないのだ。
ほどよく汗をかき、鍛練を終了したところで、横からタオルが差し出された。
「お疲れ様でした。
どうぞお使いください」
受け取ったタオルで汗を拭いていると、強い視線を感じる。
「……ありがとう」
言葉を発する瞬間だけ、エイラのほうへと視線を向けた。
◇
食事は、屋敷の広い食堂で行う。
これまでは一人でとっていた食事だが、最近は対面の席にエイラが座っている。
広い食堂で独り食べるのは落ち着かなかったが、目の前にエイラがいるのも落ち着かない。
「冒険者にも女性の方はいらっしゃいますよね?
女性と目を合わせられない状態で、どうやって生活なさっていたんですか?」
美味しそうに、料理を食べていたエイラが尋ねてきた。
フェルト男爵の領地は貧しい、という話をエイラから聞いた。
貴族であるにも関わらず、時には平民よりも安上がりな食事をとる日もあるという。
そのせいもあってか、エイラは伯爵家での食事を、とても美味しそうに食べるのだ。
「……基本、独りで活動していたから」
「なるほど」
独りでも、とくに困ることはなかった。
魔物相手に後れを取ることはなかったし、数日程度であれば、休息も必要なかったため、野宿をするときに見張りを交替する人員も要らなかったのだ。
「そういえば、どうして目を合わせようとしなくなったんですか?
なにか、きっかけがあったんですよね?」
「……昔は普通に話せていた。
でもある日、睨んだだけで魔物が倒れたんだ。
剣で斬ってもいないのに、魔物を倒してしまった。
魔物ですら殺してしまうのなら、それより弱い人々と目を合わせるなんて、怖くてできなかった」
「でも、もうそんな心配する必要ないってことは、わかりましたよね」
「……それは、まあ」
エイラは不思議な人だ。
貴族の令嬢らしくないというか、お節介というか。
長年、人の目を見ずに過ごしてきたというのに、ここ数日でいったい何度、エイラの瞳を覗いたことだろう。
そしてその度に、妙に緊張してしまう。
こんなこと、竜種と闘ったときですらなかったのに。
きっと今も目の前で微笑んでいるだろうエイラを思うと、胸の辺りが苦しくなった。
まだ薄暗い時間に目を覚ますと、ベッドの脇に立て掛けてある愛剣を手に取った。
そして、部屋を出ようとすると……。
「おはようございます、ローランド様」
目を逸らした。
「ローランド様、挨拶をするときは相手の目をしっかり見てください。
さあ!」
「……おはよう」
チラッとエイラの方を見て、早口でそれだけいうと、逃げるように庭へと出た。
朝の鍛練は、冒険者として活動していた頃からの日課だ。
いや、鍛練というより、もはや癖といったほうがいいだろうか。
これをしないと、どうにも一日が始まった気がしないのだ。
ほどよく汗をかき、鍛練を終了したところで、横からタオルが差し出された。
「お疲れ様でした。
どうぞお使いください」
受け取ったタオルで汗を拭いていると、強い視線を感じる。
「……ありがとう」
言葉を発する瞬間だけ、エイラのほうへと視線を向けた。
◇
食事は、屋敷の広い食堂で行う。
これまでは一人でとっていた食事だが、最近は対面の席にエイラが座っている。
広い食堂で独り食べるのは落ち着かなかったが、目の前にエイラがいるのも落ち着かない。
「冒険者にも女性の方はいらっしゃいますよね?
女性と目を合わせられない状態で、どうやって生活なさっていたんですか?」
美味しそうに、料理を食べていたエイラが尋ねてきた。
フェルト男爵の領地は貧しい、という話をエイラから聞いた。
貴族であるにも関わらず、時には平民よりも安上がりな食事をとる日もあるという。
そのせいもあってか、エイラは伯爵家での食事を、とても美味しそうに食べるのだ。
「……基本、独りで活動していたから」
「なるほど」
独りでも、とくに困ることはなかった。
魔物相手に後れを取ることはなかったし、数日程度であれば、休息も必要なかったため、野宿をするときに見張りを交替する人員も要らなかったのだ。
「そういえば、どうして目を合わせようとしなくなったんですか?
なにか、きっかけがあったんですよね?」
「……昔は普通に話せていた。
でもある日、睨んだだけで魔物が倒れたんだ。
剣で斬ってもいないのに、魔物を倒してしまった。
魔物ですら殺してしまうのなら、それより弱い人々と目を合わせるなんて、怖くてできなかった」
「でも、もうそんな心配する必要ないってことは、わかりましたよね」
「……それは、まあ」
エイラは不思議な人だ。
貴族の令嬢らしくないというか、お節介というか。
長年、人の目を見ずに過ごしてきたというのに、ここ数日でいったい何度、エイラの瞳を覗いたことだろう。
そしてその度に、妙に緊張してしまう。
こんなこと、竜種と闘ったときですらなかったのに。
きっと今も目の前で微笑んでいるだろうエイラを思うと、胸の辺りが苦しくなった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
80
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる