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3.女嫌いの理由

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「怖い、ですか?」

「……貴族の令嬢はみんな華奢で、触るのはもちろん、目を合わせただけでも壊れちゃいそうで」

(……ああ、怖いってそういう)

 強者故の悩みというやつだろうか。
 
 目を合わせただけで壊れてしまうなど、そんな馬鹿げた話があるわけない。
 だが、もしかしたらとも思ってしまう。

 人間誰しも、畏怖の念を抱いている相手に睨まれれば、冷や汗の一つもかくだろう。
 竜種に睨まれれば、気を失ってしまう者だっているはずだ。

 仮に、この国の誰よりも、生きる災害とまで呼ばれる竜種よりも強い存在と目を合わせたとしたら。
 果たして、繊細な貴族の令嬢が耐えられるだろうか。

(……とか考えているのかしら?)

 馬鹿らしい。
 エイラはため息をついた。

 救国の英雄だか、なんだか知らないが、こうして対面してみれば、そこにいるのはただの男だ。
 もちろん、体格はいいし、傷の入った顔は山賊のようにも見えるが、それだけである。

 ろくな戦力もいないフェルト男爵家。
 そのため、領内に出没した山賊を捕えるため、領民とともに山狩りをした経験もあるエイラとしては、馴染みのある風貌といってもいいだろう。

「ローランド様」

 エイラの声に、ビクッと体を震わせるローランド。
 本当にこの男が、数多の魔物を葬った者なのかと、不安になってしまう。

「こちらを見てください」

「いや、だからそれは……」

「こちらを見なさい!!」

 エイラはピシャリと言い放った。
 時には、しっかりと怒ることも、弟の教育には必要なのである。

 迫力に圧されたのか、ローランドは怯えたようにエイラの方を向いた。

「ほら、壊れないでしょう」

 柔らかな笑みを向けるエイラ。
 その表情に、思わずローランドは目を逸らした。

「ああっ!
 どうしてまた目を逸らすのですか!
 私は壊れたりなんかしなかったでしょう!」

「いや、今のは……」

「もうわかりました。
 最低限貴族として、相手の目を見て話すことができるようになるまで、私が朝から晩までみっちり特訓します!
 いいですね?」

「えっ、そんな……」

「いいですね!?」

「……はい」

 こうして、なし崩し的にローランドとの同棲に漕ぎ着けた、という事実をエイラが認識したのは、しばらくたってからだった。

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