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3.公爵令嬢は婚約破棄される

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 侯爵家でのパーティー。
 普通パーティーでは、会場までパートナーにエスコートされて向かう。
 だが、レイシアたちの場合は、まさかの現地集合である。
 これだけでも、二人の仲が良好ではないということがわかるだろう。

 だが、今日はそれだけではすまなかった。
 レイシアが侯爵家の屋敷の前で待っていると、ロイスがメリーを連れて現れたのだ。

「ロイス殿下、これはどういうことです?
 メリーさんは今日のパーティーに招待されていないはずですが」

「私が連れてきたのだ。
 問題あるまい」

「今日のパーティーの主催は、殿下ではなく、侯爵閣下ですよ。
 閣下の顔に泥を塗るおつもりですか」

「うるさい!
 メリー、こんなやつは放っておいて、中へいこう」

「はい、ロイス様!」

 腕を組み、レイシアの隣を抜けていく二人。
 すれ違う瞬間、ニタッとメリーがレイシアを笑った。

「っ!」

 思わず罵声が出そうになるのを、グッとこらえる。
 今は他の貴族の目もある。
 レイシアの醜態は、公爵家の醜態になりかねない。
 婚約者の手綱を取れずに、他の女に隣を奪われている時点で、もう遅いのかもしれないが。

 会場に入ると、周囲がざわついた。
 それはそうだろう。
 ロイスの入場だと入り口を見てみれば、その隣に立っているのは公爵令嬢であるレイシアではなく、男爵令嬢であるメリーなのだから。

 いや、メリーのことを知っている者など、この場にはほとんどいないだろう。
 社交界における知名度は、公爵令嬢であるレイシアと、男爵令嬢にすぎないメリーとでは天と地ほどの差がある。
 そもそも、レイシアがロイスの婚約者であるということは周知の事実なのだ。

 そのレイシアはというと、前を歩く二人の後を追うように、一人で会場へと入ってきた。

 あまりにも惨めだった。

 レイシアはロイスのことを全く慕っていなかったとはいえ、それでも己の存在意義を考え、ロイスが立派な王になれるよう、全力で支えてきたのだ。
 その結果がこの仕打ちである。

 多くの貴族に見られてしまった以上、今日のことは公爵家当主である父や、国王陛下の耳にも入ることだろう。
 問い詰められるだろう未来を思うと、頭が痛くなる。

 だが、ロイスの仕打ちはそれでは終わらなかった。

 パーティーの来賓として、ロイスが挨拶をする場面があった。
 国の第一王子だ。
 こういった場での挨拶も慣れたものであり、その姿は堂々としたものだった。

 しかし、ただの挨拶では終わらなかった。

「さて、折角皆の前で話す機会を得たのだから、一つ発表したいことがある」

 無性に嫌な予感がする。
 今すぐ、ロイスを止めなければ。

 けれど、レイシアの手がロイスに届くことはなかった。

「私は今日この日をもって、ここにいるメリーと婚約を結ぶ。
 それにあたりレイシア、貴様との婚約を破棄する!」

 ロイスがレイシアを指差しながら、高らかに宣言した。
 周囲の視線が痛いほどに刺さる。

 ロイスにどう思われているのかは、なんとなくわかっていた。
 だから、婚約破棄自体に思うところはない。

 だが、男爵令嬢にしか過ぎないメリーと婚約を結ぶことなどできるはずがない。
 レイシアと婚約を結んでいるのだって、公爵家との関係を思ってのことだ。
 国王陛下は公爵家の影響力を正しく理解している。
 こんな馬鹿げたこと、陛下が認めるわけがない。

 いったいこの場をどう静めるつもりなのだろうか。
 婚約破棄を突きつけられた後まで、レイシアが尻拭いをしなければならないのだろうか。

「殿下、本気ですか」

 レイシアは一縷の望みにかけて問いかける。
 今なら冗談で済ますことができるかもしれない。

「ああ、本気だとも。
 お前の顔を見なくてすむと思うと、清々する」

 ……終わった。
 もう取り返しはつかないだろう。

 父にお叱りを受けることを思うと憂鬱だが、この場にとどまるのも居心地が悪い。
 レイシアは一礼すると、会場を後にした。

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