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ロストソードの使い手編
九十五話 コノハとお散歩
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朝の光が差す窓を眺め続けて数十分。その間にアオが二階へと上がった音を聞き届けてからは、思考の海の中に入り込んでいた。けれど、その中から答えという沈んだ宝はなくて、いつしか溺れそうになっていて。
少しは話せたけど大きく前進は出来なかった。これからどうすれば良いのだろう。一つ突破した壁の向こうには、深海のような暗闇が広がっていた。
「……ワさん……ユウワさん」
「うわあっ!」
肩をトントンと叩かれ名前を呼びかけられ、その海から引き上げられる。いつの間にかコノが隣に座っていて。
「ご、ごめんなさい。驚かせてしまいました」
「ううん。僕がボーっとしてただけだから……というか早起きだね」
「あはは……何故か起きちゃったんです。それに、外からユウワさんの声も聞こえて」
コノの目はまだ眠そうにトロンとしている。声は潜めてはいたのだけど聞こえてしまったらしい。
「ごめんね。うるさくしちゃって」
「い、いえ。それよりもお話していたのはミズアさんですか?」
「うん、そうなんだ――」
それから僕はさっきの出来事をコノに聞いてもらった。今は誰かに話さないといられない気持ちでいて。
「……それで悩んでたんだ」
「そう、だったんですね。お話してくれてありがとうございます。難しい状態ですね」
最近は誰かに頼る事が増えた気がする。少なくとも向こうの世界にいた時よりもずっと。
コノは話を聞き終えると、僕の両手を包んでくれる。その温もりは心に寄り添ってくれていた。
「何とかして対話を重ねてアオの自責の念を解消してあげられたらいいんだけど」
「お話するのも大変そうですよね」
「そうなんだ。それ以外は思いつかないのだけど、現実的に難しそうだし、時間もかかる」
「ハヤシバラさんの事もちゃんと考えなきゃですからね」
八方塞がりだ。どうすれば良いのか、考える先は真っ暗で。でも思考停止は出来ない。考えろ、考えろ、考えろ。
「あの、ユウワさん」
「……」
「少しお散歩しませんか?」
「へ?」
※
早朝の外はとても冷え込んでいて、肌に突き刺さるとさらに意識が覚醒してくる。街中の人通りも少なくて、心を落ち着けるには適していた。
「気持ち良いですね」
「……うん」
家から出てしばらくふらふらと歩き回った。宛もなくただ風のままに。隣を歩くコノは僕にぴったりと付いてきてくれている。それと話しかけてもくれた、悩みの中に引き込まれないように。
まず訪れたのはセントラルパークだ。円を描くように広がっている芝生の上にも、外周の舗装された白い道にもまばらに人がいるだけでいつも以上に開放感があった。中にある噴水と時計の付いた女神像は寂しそうにポツンと立っている。
この光景を眺めるとあの瞬間を思い出す。
「ここで初めてロストソードで霊を解放するのを見たんだ。その時はアオの仕事の手伝いでさ。そこでロストソードの使い手の責任の重さを感じたな」
「勇者ユウワさんのスタート地点みたいなものですね」
「かもね。少なくともロストソードの使い手としてはそうかな」
その場所を指し示す。すると自然とその時の光景が蘇ってきて。少しの間見つめてから、記憶に閉まってまた進む。
次に訪れたのは商店街だった。ここは最近にも来たけれど、懐かしさも感じさせてくれる。
「モモ先輩と初めて会ったのがここなんだ。最初は、アオと一緒にいたからか、泥棒猫だなんて言われた」
「あはは……何だか容易に想像つきますね」
「今みたいに仲良く出来るなんて思わなかったよ。何が起こるかわからないよ、本当」
「ふふっ、そうですね」
それだけじゃない。レイアちゃんと思い出巡りのため一緒に歩いたり、モモ先輩と遊んだりもした。食べ物の味と一緒に記憶は鮮明に形作る。
「はぁ、せっかくなら歩きながら食べたかったですね」
「今度、しよっか」
「はい!」
朝の商店街の店はほとんど開いていなくて、閑散としている。僕は記憶を辿るように知っている店を見ていった。どれも閉まっていて、少し寂しさを感じる。もちろん、数時間後には開くのだけど。
ただただ歩いてからまたセントラルパークに戻った。そこから、次に来たのは東エリアにあるイシリスタワーの足元だった。変わらず綺麗なレンボーな体をしていて、コノはそれを見て圧倒されている。
「うわぁ……近くで見ると凄い迫力です」
「255メートルくらいあるんだよ」
「そ、そんなに……! びっくりです!」
まだ工事中で、前見た時よりも修復が進んでいるようだった。それに早朝というのにもう何人か働いている。カイトさんもいるのだろうか。眺めていると、彼と対話した記憶が呼び覚まされる。
「森の大きな木が、コノにとって一番の高さだったんですけど……本当に全然違います」
子供みたくはしゃいでいて、コノは目を輝かせながら天辺を顔を上げて見つめ続けていた。いつか一緒に登れたらいいな。コノとモモ先輩とアオと。
続いて遊園地やサーカスハウスを抜けて東エリアの一番奥にある学校の前に着く。
「ここは……?」
コノは物々しい校門と広い敷地、そして三階建ての大きな校舎に気圧されているようだった。
「学校だよ。あの村の学び舎みたいな所だよ」
「学び舎なんですか!? その、お、大きいですね」
「沢山の人が通うからね」
「……何だか楽しそうです。色んな方達と一緒にお話したり学んだり遊んだりして。ふふっ」
楽しい想像しているらしく、それが表情に出ている。けど、僕はその姿を冷ややかにしか見る事しか出来なくて。やっぱり僕は学校は好きじゃない。
「ユウワさん、どうかしましたか? 暗い顔してますけど」
「い、いや……何でもないよ。それよりもそろそろ戻ろうか」
「は、はい」
僕達は踵を返して来た道を戻る。さっきよりも人の数が増えていて、徐々に暖かくなってきた。
「あの、ユウワさん。学校、お嫌いなんですか?」
「……まぁ。あそこじゃないけど、学校で嫌な事が沢山あったから……」
適当に誤魔化そうかな、そういう思考がよぎったけれど、コノの顔を見ていると寄りかかりたくなってつい言葉を出してしまった。
「そう、だったんですね。……良かったらお話してください、ユウワさん」
「ありがとうコノ。……そうだ、この話をする上であの話もするのに丁度いいかもしれない」
「ええと、どのお話ですか?」
僕は、イシリスタワー近くにあるベンチを指し示してそこで会話しようと伝え、二人で座った。
「僕達、ロストソードの使い手がこの世界でイレギュラーな存在で一度死んで生まれ変わったって事だよ」
「ハヤシバラさんが言っていた……」
「うん。まずはその事についてから話すね。結構信じがたい話だけど、最後まで聞いてくれると嬉しい」
「はい、聞かせてください。ユウワさんのお話、ちゃんと受け止めます!」
その頼もしさに背中を押されて、僕はコノに話す。僕達の過去や異世界から来たこと、その全てを。
少しは話せたけど大きく前進は出来なかった。これからどうすれば良いのだろう。一つ突破した壁の向こうには、深海のような暗闇が広がっていた。
「……ワさん……ユウワさん」
「うわあっ!」
肩をトントンと叩かれ名前を呼びかけられ、その海から引き上げられる。いつの間にかコノが隣に座っていて。
「ご、ごめんなさい。驚かせてしまいました」
「ううん。僕がボーっとしてただけだから……というか早起きだね」
「あはは……何故か起きちゃったんです。それに、外からユウワさんの声も聞こえて」
コノの目はまだ眠そうにトロンとしている。声は潜めてはいたのだけど聞こえてしまったらしい。
「ごめんね。うるさくしちゃって」
「い、いえ。それよりもお話していたのはミズアさんですか?」
「うん、そうなんだ――」
それから僕はさっきの出来事をコノに聞いてもらった。今は誰かに話さないといられない気持ちでいて。
「……それで悩んでたんだ」
「そう、だったんですね。お話してくれてありがとうございます。難しい状態ですね」
最近は誰かに頼る事が増えた気がする。少なくとも向こうの世界にいた時よりもずっと。
コノは話を聞き終えると、僕の両手を包んでくれる。その温もりは心に寄り添ってくれていた。
「何とかして対話を重ねてアオの自責の念を解消してあげられたらいいんだけど」
「お話するのも大変そうですよね」
「そうなんだ。それ以外は思いつかないのだけど、現実的に難しそうだし、時間もかかる」
「ハヤシバラさんの事もちゃんと考えなきゃですからね」
八方塞がりだ。どうすれば良いのか、考える先は真っ暗で。でも思考停止は出来ない。考えろ、考えろ、考えろ。
「あの、ユウワさん」
「……」
「少しお散歩しませんか?」
「へ?」
※
早朝の外はとても冷え込んでいて、肌に突き刺さるとさらに意識が覚醒してくる。街中の人通りも少なくて、心を落ち着けるには適していた。
「気持ち良いですね」
「……うん」
家から出てしばらくふらふらと歩き回った。宛もなくただ風のままに。隣を歩くコノは僕にぴったりと付いてきてくれている。それと話しかけてもくれた、悩みの中に引き込まれないように。
まず訪れたのはセントラルパークだ。円を描くように広がっている芝生の上にも、外周の舗装された白い道にもまばらに人がいるだけでいつも以上に開放感があった。中にある噴水と時計の付いた女神像は寂しそうにポツンと立っている。
この光景を眺めるとあの瞬間を思い出す。
「ここで初めてロストソードで霊を解放するのを見たんだ。その時はアオの仕事の手伝いでさ。そこでロストソードの使い手の責任の重さを感じたな」
「勇者ユウワさんのスタート地点みたいなものですね」
「かもね。少なくともロストソードの使い手としてはそうかな」
その場所を指し示す。すると自然とその時の光景が蘇ってきて。少しの間見つめてから、記憶に閉まってまた進む。
次に訪れたのは商店街だった。ここは最近にも来たけれど、懐かしさも感じさせてくれる。
「モモ先輩と初めて会ったのがここなんだ。最初は、アオと一緒にいたからか、泥棒猫だなんて言われた」
「あはは……何だか容易に想像つきますね」
「今みたいに仲良く出来るなんて思わなかったよ。何が起こるかわからないよ、本当」
「ふふっ、そうですね」
それだけじゃない。レイアちゃんと思い出巡りのため一緒に歩いたり、モモ先輩と遊んだりもした。食べ物の味と一緒に記憶は鮮明に形作る。
「はぁ、せっかくなら歩きながら食べたかったですね」
「今度、しよっか」
「はい!」
朝の商店街の店はほとんど開いていなくて、閑散としている。僕は記憶を辿るように知っている店を見ていった。どれも閉まっていて、少し寂しさを感じる。もちろん、数時間後には開くのだけど。
ただただ歩いてからまたセントラルパークに戻った。そこから、次に来たのは東エリアにあるイシリスタワーの足元だった。変わらず綺麗なレンボーな体をしていて、コノはそれを見て圧倒されている。
「うわぁ……近くで見ると凄い迫力です」
「255メートルくらいあるんだよ」
「そ、そんなに……! びっくりです!」
まだ工事中で、前見た時よりも修復が進んでいるようだった。それに早朝というのにもう何人か働いている。カイトさんもいるのだろうか。眺めていると、彼と対話した記憶が呼び覚まされる。
「森の大きな木が、コノにとって一番の高さだったんですけど……本当に全然違います」
子供みたくはしゃいでいて、コノは目を輝かせながら天辺を顔を上げて見つめ続けていた。いつか一緒に登れたらいいな。コノとモモ先輩とアオと。
続いて遊園地やサーカスハウスを抜けて東エリアの一番奥にある学校の前に着く。
「ここは……?」
コノは物々しい校門と広い敷地、そして三階建ての大きな校舎に気圧されているようだった。
「学校だよ。あの村の学び舎みたいな所だよ」
「学び舎なんですか!? その、お、大きいですね」
「沢山の人が通うからね」
「……何だか楽しそうです。色んな方達と一緒にお話したり学んだり遊んだりして。ふふっ」
楽しい想像しているらしく、それが表情に出ている。けど、僕はその姿を冷ややかにしか見る事しか出来なくて。やっぱり僕は学校は好きじゃない。
「ユウワさん、どうかしましたか? 暗い顔してますけど」
「い、いや……何でもないよ。それよりもそろそろ戻ろうか」
「は、はい」
僕達は踵を返して来た道を戻る。さっきよりも人の数が増えていて、徐々に暖かくなってきた。
「あの、ユウワさん。学校、お嫌いなんですか?」
「……まぁ。あそこじゃないけど、学校で嫌な事が沢山あったから……」
適当に誤魔化そうかな、そういう思考がよぎったけれど、コノの顔を見ていると寄りかかりたくなってつい言葉を出してしまった。
「そう、だったんですね。……良かったらお話してください、ユウワさん」
「ありがとうコノ。……そうだ、この話をする上であの話もするのに丁度いいかもしれない」
「ええと、どのお話ですか?」
僕は、イシリスタワー近くにあるベンチを指し示してそこで会話しようと伝え、二人で座った。
「僕達、ロストソードの使い手がこの世界でイレギュラーな存在で一度死んで生まれ変わったって事だよ」
「ハヤシバラさんが言っていた……」
「うん。まずはその事についてから話すね。結構信じがたい話だけど、最後まで聞いてくれると嬉しい」
「はい、聞かせてください。ユウワさんのお話、ちゃんと受け止めます!」
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