上 下
4 / 5
第1章 少年

03 追手の末路

しおりを挟む
「隊長!!向こうで煙が上がっています!あのガキに違いありません!!」

部下の一人が大声で俺に話しかける。
当然だ、それほど大切な事だ。

「よく気づいた!お前たち!すぐに向かうぞ、決して逃すな!!」



穢らわしいニルヴィアの王家を根絶やしにする為に足をすすめた我々の耳が、いや、魂が、とんでもないものを感じとった。

ゴォォォとまるで雷雨のような轟音でほんの数百メートル上空を大きな物体が通り過ぎた、と思っていた。

「バ、バハ、、、ムート」

誰かが、喉の奥で死にかけのネズミのような声で呟いた、いや、きっとこれは俺の声だ。

バハムート、上位Sクラスモンスター。

この部隊は精鋭だ、帝国軍の中でも上位の部隊だ、それでも部隊としてのレベルはおよそ中位Bクラス、全員が命をかけて下位Aクラスモンスターが限界だ、絶対に勝てない。そもそも戦いにすらならない、一度冒険者から聞いた事がある、限界討伐レベルの話だ。

上位Cクラスのパーティなら死ぬ気で戦えば下位B~中位Bクラスのモンスターまでなら倒せると。つまり、2段階ならば、後先考えず、死ぬ覚悟のもと、犠牲を顧みなければ勝てる可能性があるということだ。

しかし、その冒険者は、3段階の差と言うのは絶望の壁だと言っていた。

3つクラスが違うだけで、勝負にすらならないと。相手は3段階どころでは無い、決して戦ってはダメだ。

しかし、あろう事か、奴は俺達の上空で旋回を始めた。狩の途中なのか?それともまさか俺達を狙っているのか、そんな事は関係ない。決して見つかってはいけない。

その時、俺の脳は冒険者達と話した時の事を必死に思い出していた。




『良いか軍人さん、竜種ってのは最下位のレッサーワイヴァーンですら下位Aクラスだ、飛べない個体は上位Bに分類されるがな、しかしな、大事なのはSの壁だ、ワイヴァーンに関しては未だに竜種か否かで意見が分かれているんだ、何故だと思う?』

『弱いのだろう?しかし何故だ?どちらも強力なブレスを使えるし空を飛んでいるだろう?』

『ああ、やってる事は一見同じだ、聞いただけならな、しかしな、ワイヴァーンのブレスとドラゴンのブレスってのは全然違うもんなんだぜ、それだけじゃねえ、最近の研究で分かったんだが、ドラゴンてのは何も翼で飛んでるわけじゃ無いらしい』

『なに?だが羽ばたいているでは無いか』

『ああ、だがな、中位Sクラスモンスターのファルコドラゴンの綺麗な遺体を王家の魔術団が購入して研究したらしいんだがな、どうも翼がおかしいらしいんだ』

『おかしい?』

『ああ、なんでも、魔力路が張り巡らさせてるらしい、その上、魔力路をまるで魔法陣を描くみたいに連ねてるって話だ、そんなもんだからもっと詳しく研究したらよ、上位飛翔の魔術魔法陣だったんだよ』

『なんだって?!』

『それだけじゃねえ、ブレスに関してもな、Uクラス冒険者のリリアン・グレイライト様が言うには、魔導の力を感じるって話だ、つまりよ、ドラゴンの吐くブレスてのは、連中が魔導術を駆使している可能性が高いみてえだ、だからこそドラゴンにAクラスはいねえ、去年まではレッサードラゴンが上位Aクラスだったが、リリアン様の発表でギルド本部は改定を行った、ドラゴンは一律で下位Sクラス以上になったんだ、それがSの壁だよ』




これを教えてくれたのは、中位Aクラス冒険者だ、しかもそいつは上位Sクラス冒険者がモンスターの注意点なんかを聞きに行くくらい詳しいらしい、要は、間違いでは無い。

その上で奴はこう言っていた。


「ドラゴンの探知能力は並はずれている」


もしかしたら奴はもう俺たちに気づいているんじゃ無いだろうか。

その上で、俺たちを狙っているんじゃ無いだろうか。

そんな事を考えた時だった。
しおりを挟む

処理中です...