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第一章
8.先輩って、なんかおっとり系お嬢様って感じじゃないですか?
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ある日の昼休み、僕が鞄に教科書をしまっていると努がやってきた。
「おーい蕾、一緒に弁当食わね?」
「あーごめん努。今日は委員会なんだ」
「あー、環境委員か」
「そう……誰かさんのおかげで」
「悪かったって! でもほら俺だって保体委員入っただろう?」
三年になり、委員会を決めるホームルームがあった。
その日僕は風邪で学校を休んでいて、その時努が僕を推薦したらしい。
いやいやいや、本人が休んでる時に推薦すんなよ。
一応被告人に事情聴取をすると「その日は委員会が決まりしだいロングホームルームを終えて帰れるって言われたんだ。皆早く帰りたがるくせに、全然立候補しなくてさ」だそうで。
ちなみに努自身、早く終わらせるのと僕を推薦するにあたって、保健体育委員会に名乗り出たらしい。
……そこは評価してやっても良いかもしれない。
なんて、上から目線で謎の評価をしつつ、僕は席を立った。
「じゃあ行ってくるよ」
「おう、いってらー」
そう挨拶を交わすと、僕はのんびりと教室を出た。
日差しは優しく、気温もぽかぽかとして気持ちいい。
初夏の風が窓から吹き込んできて、髪を揺らした。
「ん~、この天気だったら、もう一回水やりしても良いかも」
太陽が照りつける昼とか昼過ぎに花に水やりをすると、土の中で水が温まり、根が腐ってしまう。
園芸の基本だけど、このくらいの天気だったら大丈夫だろう。朝にあげたっきりで、土ももう乾いてきているだろうし。
……なにより、花の世話をするのは僕の心の安定剤だ。
努によって無理矢理やらされる羽目になった環境委員……つまり裏庭の花壇の整備だけど、やってみると意外と僕の性に合っていた。
今では週に一回の水やり当番を楽しみにしているほどだ。
暖かい陽気にあくびを漏らしながら、じゃっかん散歩気分でやってきた裏庭には、すでに二人の先客がいた。
「……あれ? こんにちは」
「あ、百合園先輩、こんにちは」
「こんちはー」
確か二人は、環境委員に所属する二年の……藤堂茜さんと、飯島蒼衣さんだったはずだ。
藤堂さんは茶髪の明るい体育会系の子で、飯島さんは逆に図書委員とかにいそうな感じの、まじめ&大人しそうな子だ。
「どうしたの?」
それにしても、なんでいるんだろう? 当番を間違えたのかな?
僕が首を傾げると、飯島さんが説明してくれた。
「今日は天気がよかったので、ここでお弁当を食べようと思ってきたんです」
「あー、なるほど~」
基本的に人が寄りつかない場所ではあるけど、環境委員ともなれば、多少はここに愛着が沸いてくる。
ふとした時に頭に思い浮かんで、ぶらぶらとやってくる……僕も身に覚えがある話だった。
「あ、邪魔はしないんで……」
「ん? なんも、気にしなくて良いよー。人に来てもらって、花を眺めて行ってもらう……僕ら環境委員はそのために花壇の手入れをするんだから」
あくまで花を見てもらう方が目的であって、手入れをするのが目的ではない。
僕がそう言うと、飯島さんは少し驚いた顔をして「なるほど」と呟いた。
それからお弁当を食べながら談笑する二人を背に、僕は花壇のレンガの位置を直したり、雑草を抜いたりして行った。
そして水やりをしていると、風に乗って二人の話し声が聞こえてきた。
「はぁ……やっぱり似合うね」
「ん……?」
何の話だろう? 少し気になって振り返ると、二人は僕を見ながら話していた。
そして僕に気付かれたことに少し慌て気味に内容を述べてきた。
「あ、いや……やっぱり先輩が水やりしてる姿、似合うなーって話してたんですよ」
「そ、そう……?」
園芸おじさんみたいな後ろ姿だったのだろうか。そんなに寂れた雰囲気が出ていたとしたら、少し悲しい。
「はい! 先輩って、なんかおっとり系お嬢様って感じじゃないですか? だから水やりしてると、すごく映えるな~って」
「そ、そう……」
お、おっとり系お嬢様……。
「ワタシなんて、水やりとかかしてたら『似合わな!』って笑われるんですよ~」
「あー……」
確かに。藤堂さんはどちらかと言うと、飛んで行ったサッカーボールを探しに来て、花壇を踏み荒らしてるようなイメージの方が似合っている気がする。
「あ! 納得された!」
「あはは、ごめんごめん。でも元気なのは良いことだよ」
努もそうだけど、元気で明るい感じの人が近くにいると、こっちまで少し元気になるような……そんな感じがする。
僕が堂島さんと話していると、飯島さんが何かを考え込んでいる様子だった。
「どうかしたの?」
「あ、いえ……知り合いの子が、百合園先輩に少し雰囲気似てるなーと思いまして」
「へ、へぇ……どんな子なの?」
子……つまり女の子なのだろう。いや、あくまで雰囲気がって話だし、そんなナイーブにならなくてもいいだろう。
飯島さんは少しぼんやりと宙を見上げながら、その子の話をしてくれた。飯島さんが何かを思い出す時の癖なのかもしれない。
「その子は……私と茜がピンチの時になるとふらりとやって来て、助けてくれたと思ったら名前も言わずにいつの間にかいなくなってるんです」
ピンチの時……テスト勉強とか? いやでも、藤堂さんならまだしも飯島さんは勉強できそうだし。
……まさか本当のピンチなのかな。トラックに轢かれそうになるとか、不良に絡まれるとか。
……んな訳ないか。
「その子は本当にお嬢様な感じで、たぶんこの学校の子だとは思うんですけど、探しても見つからなくて……」
「仲良くなりたいんだ?」
「はい……そうですね。良い子そうですし、ぜひゆっくりとお話ししてみたいです」
「……見つかると良いね」
その子にも事情があるのだろうけど、邪険な雰囲気でもないようだし見つかるといいな……。
それからしばらく二人と話しながら花の世話をして、そろそろお昼を食べようと教室に戻ることにした。
「じゃあ、藤堂さん、飯島さん、またね」
「あ、はい。お話につきあってもらってありがとうございました」
「なんもだよー。こっちこそありがとね」
飯島さんとお礼を言い合っていると、堂島さんがねえねえと話しかけてきた。
「先輩のこと、蕾先輩って呼んで良いですか?」
「え? うん。好きに呼んでくれて大丈夫だよ?」
「じゃあワタシ達のことも名前で呼んでくださいよ!」
えぇ……。
じゃあって、文脈に前後のつながりがないよ……。
いやまあ良いんだけど。
「えと、飯島さんも下の名前で呼んで良いの?」
「もちろんです」
もちろんなんだ……。
「じゃあ……茜さんに蒼衣さん。またね」
「さん付けかい! まあ蕾先輩らしいっちゃらしいけど」
「じゃ、じゃあ……茜ちゃんに、蒼衣ちゃん……」
「よしっ」
「うふふ……」
ううん、さん付けはお気に召さなかったらしい。
飯島……蒼衣ちゃんはそんな僕たちをみて微笑んでいるし……。
本当、女子高生の距離感というか、ノリは難しい……。
そうして僕は裏庭を後にするのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔界からやって来た、魔人や魔獣に対抗するために設立された政府直属の機関、魔獣対策課。内訳は総合司令部、諜報部、魔力研究部、対魔獣用兵器開発部の四つだ。
その中でも総合司令部は特に仕事が多い。各部への指示はもちろん、どの部にどれだけ活動費を分配するかを決めたり、上部とのやり取りをしたり。
その総合司令部の部長を務めているのが私、百合園綺咲。
本来こんな職に就けるような能力はないと自負しているんだけど、過去のある経験がきっかけでこんな重職に就くことに。
仕事内容は諸外国や、テロ組織に漏れれば大事になるので、愛する息子にさえ話せない。
そんな息が詰まるような職務に追われ、薄暗い私専用の職務室でパソコンとにらめっこしていると、コンコンコンと荒いノックが響いた。
「どうぞ」
「失礼します!」
そう言って慌てた様子で入室して来たのは、まだ若いというのにすっかりくたびれた雰囲気を漂わす男。部下の日比谷くんだった。
「そんなに急いでどうしたの?」
「あ、あの魔法少女、ブルーミングリリィの正体が分かったって!」
「本当!?」
『重要機密。開封注意』と判を押された茶封筒を突き出してきた日比谷くん。私も思わず声を上げて、それを受け取った。
……魔法少女ブルーミングリリィ。一ヶ月前にとつぜん現れた第三の魔法少女。
それからもう六回ほど姿を見せているというのに、ずいぶんと用心深いのか依然としてその正体は分かっていなかった。
それがついに分かったという。
実は以前から正体が割れていたシャイニングサンとポーリングレインにはコンタクトをとっていて、バックアップの契約も結んである。
それはこちらが開発した対魔獣用兵器の試運転や、魔獣討伐時に多額の報酬を支払うこと。またヘルスケアなどだ。
実はサンとレインにもブルーミングリリィの身元調査を依頼していたのだけど、諜報部が先にその正体にたどり着いたようだ。
私はドキドキしながら、封筒を開ける。
そして以前より分厚くなった調査報告書を取り出し……思わず固まった。
「う、そ……」
「……百合園さん? どうしたんですか?」
日比谷くんの声は、もう届いていなかった。
視界がぐるぐると回るような錯覚に陥る。
まさか、そんな……。とても信じられない。
私は震える声で、調査書を読み上げる。
「魔法少女ブルーミングリリィの正体が判明。本名、百合園蕾。十七歳。常夏高校三年A組に所属。
住所は……」
そんなの、読まなくても分かる。百合園家を出て、ずっとそこで暮らしてきたのだから。
「え、百合園蕾って……もしかして」
「えぇ……。私の息子よ」
調査書には、近所のスーパーの裏手で魔法少女の姿と、その2秒後に全く同じ体勢の蕾と、二枚の防犯カメラのスクリーンショットが貼り付けられていられた。
「おーい蕾、一緒に弁当食わね?」
「あーごめん努。今日は委員会なんだ」
「あー、環境委員か」
「そう……誰かさんのおかげで」
「悪かったって! でもほら俺だって保体委員入っただろう?」
三年になり、委員会を決めるホームルームがあった。
その日僕は風邪で学校を休んでいて、その時努が僕を推薦したらしい。
いやいやいや、本人が休んでる時に推薦すんなよ。
一応被告人に事情聴取をすると「その日は委員会が決まりしだいロングホームルームを終えて帰れるって言われたんだ。皆早く帰りたがるくせに、全然立候補しなくてさ」だそうで。
ちなみに努自身、早く終わらせるのと僕を推薦するにあたって、保健体育委員会に名乗り出たらしい。
……そこは評価してやっても良いかもしれない。
なんて、上から目線で謎の評価をしつつ、僕は席を立った。
「じゃあ行ってくるよ」
「おう、いってらー」
そう挨拶を交わすと、僕はのんびりと教室を出た。
日差しは優しく、気温もぽかぽかとして気持ちいい。
初夏の風が窓から吹き込んできて、髪を揺らした。
「ん~、この天気だったら、もう一回水やりしても良いかも」
太陽が照りつける昼とか昼過ぎに花に水やりをすると、土の中で水が温まり、根が腐ってしまう。
園芸の基本だけど、このくらいの天気だったら大丈夫だろう。朝にあげたっきりで、土ももう乾いてきているだろうし。
……なにより、花の世話をするのは僕の心の安定剤だ。
努によって無理矢理やらされる羽目になった環境委員……つまり裏庭の花壇の整備だけど、やってみると意外と僕の性に合っていた。
今では週に一回の水やり当番を楽しみにしているほどだ。
暖かい陽気にあくびを漏らしながら、じゃっかん散歩気分でやってきた裏庭には、すでに二人の先客がいた。
「……あれ? こんにちは」
「あ、百合園先輩、こんにちは」
「こんちはー」
確か二人は、環境委員に所属する二年の……藤堂茜さんと、飯島蒼衣さんだったはずだ。
藤堂さんは茶髪の明るい体育会系の子で、飯島さんは逆に図書委員とかにいそうな感じの、まじめ&大人しそうな子だ。
「どうしたの?」
それにしても、なんでいるんだろう? 当番を間違えたのかな?
僕が首を傾げると、飯島さんが説明してくれた。
「今日は天気がよかったので、ここでお弁当を食べようと思ってきたんです」
「あー、なるほど~」
基本的に人が寄りつかない場所ではあるけど、環境委員ともなれば、多少はここに愛着が沸いてくる。
ふとした時に頭に思い浮かんで、ぶらぶらとやってくる……僕も身に覚えがある話だった。
「あ、邪魔はしないんで……」
「ん? なんも、気にしなくて良いよー。人に来てもらって、花を眺めて行ってもらう……僕ら環境委員はそのために花壇の手入れをするんだから」
あくまで花を見てもらう方が目的であって、手入れをするのが目的ではない。
僕がそう言うと、飯島さんは少し驚いた顔をして「なるほど」と呟いた。
それからお弁当を食べながら談笑する二人を背に、僕は花壇のレンガの位置を直したり、雑草を抜いたりして行った。
そして水やりをしていると、風に乗って二人の話し声が聞こえてきた。
「はぁ……やっぱり似合うね」
「ん……?」
何の話だろう? 少し気になって振り返ると、二人は僕を見ながら話していた。
そして僕に気付かれたことに少し慌て気味に内容を述べてきた。
「あ、いや……やっぱり先輩が水やりしてる姿、似合うなーって話してたんですよ」
「そ、そう……?」
園芸おじさんみたいな後ろ姿だったのだろうか。そんなに寂れた雰囲気が出ていたとしたら、少し悲しい。
「はい! 先輩って、なんかおっとり系お嬢様って感じじゃないですか? だから水やりしてると、すごく映えるな~って」
「そ、そう……」
お、おっとり系お嬢様……。
「ワタシなんて、水やりとかかしてたら『似合わな!』って笑われるんですよ~」
「あー……」
確かに。藤堂さんはどちらかと言うと、飛んで行ったサッカーボールを探しに来て、花壇を踏み荒らしてるようなイメージの方が似合っている気がする。
「あ! 納得された!」
「あはは、ごめんごめん。でも元気なのは良いことだよ」
努もそうだけど、元気で明るい感じの人が近くにいると、こっちまで少し元気になるような……そんな感じがする。
僕が堂島さんと話していると、飯島さんが何かを考え込んでいる様子だった。
「どうかしたの?」
「あ、いえ……知り合いの子が、百合園先輩に少し雰囲気似てるなーと思いまして」
「へ、へぇ……どんな子なの?」
子……つまり女の子なのだろう。いや、あくまで雰囲気がって話だし、そんなナイーブにならなくてもいいだろう。
飯島さんは少しぼんやりと宙を見上げながら、その子の話をしてくれた。飯島さんが何かを思い出す時の癖なのかもしれない。
「その子は……私と茜がピンチの時になるとふらりとやって来て、助けてくれたと思ったら名前も言わずにいつの間にかいなくなってるんです」
ピンチの時……テスト勉強とか? いやでも、藤堂さんならまだしも飯島さんは勉強できそうだし。
……まさか本当のピンチなのかな。トラックに轢かれそうになるとか、不良に絡まれるとか。
……んな訳ないか。
「その子は本当にお嬢様な感じで、たぶんこの学校の子だとは思うんですけど、探しても見つからなくて……」
「仲良くなりたいんだ?」
「はい……そうですね。良い子そうですし、ぜひゆっくりとお話ししてみたいです」
「……見つかると良いね」
その子にも事情があるのだろうけど、邪険な雰囲気でもないようだし見つかるといいな……。
それからしばらく二人と話しながら花の世話をして、そろそろお昼を食べようと教室に戻ることにした。
「じゃあ、藤堂さん、飯島さん、またね」
「あ、はい。お話につきあってもらってありがとうございました」
「なんもだよー。こっちこそありがとね」
飯島さんとお礼を言い合っていると、堂島さんがねえねえと話しかけてきた。
「先輩のこと、蕾先輩って呼んで良いですか?」
「え? うん。好きに呼んでくれて大丈夫だよ?」
「じゃあワタシ達のことも名前で呼んでくださいよ!」
えぇ……。
じゃあって、文脈に前後のつながりがないよ……。
いやまあ良いんだけど。
「えと、飯島さんも下の名前で呼んで良いの?」
「もちろんです」
もちろんなんだ……。
「じゃあ……茜さんに蒼衣さん。またね」
「さん付けかい! まあ蕾先輩らしいっちゃらしいけど」
「じゃ、じゃあ……茜ちゃんに、蒼衣ちゃん……」
「よしっ」
「うふふ……」
ううん、さん付けはお気に召さなかったらしい。
飯島……蒼衣ちゃんはそんな僕たちをみて微笑んでいるし……。
本当、女子高生の距離感というか、ノリは難しい……。
そうして僕は裏庭を後にするのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔界からやって来た、魔人や魔獣に対抗するために設立された政府直属の機関、魔獣対策課。内訳は総合司令部、諜報部、魔力研究部、対魔獣用兵器開発部の四つだ。
その中でも総合司令部は特に仕事が多い。各部への指示はもちろん、どの部にどれだけ活動費を分配するかを決めたり、上部とのやり取りをしたり。
その総合司令部の部長を務めているのが私、百合園綺咲。
本来こんな職に就けるような能力はないと自負しているんだけど、過去のある経験がきっかけでこんな重職に就くことに。
仕事内容は諸外国や、テロ組織に漏れれば大事になるので、愛する息子にさえ話せない。
そんな息が詰まるような職務に追われ、薄暗い私専用の職務室でパソコンとにらめっこしていると、コンコンコンと荒いノックが響いた。
「どうぞ」
「失礼します!」
そう言って慌てた様子で入室して来たのは、まだ若いというのにすっかりくたびれた雰囲気を漂わす男。部下の日比谷くんだった。
「そんなに急いでどうしたの?」
「あ、あの魔法少女、ブルーミングリリィの正体が分かったって!」
「本当!?」
『重要機密。開封注意』と判を押された茶封筒を突き出してきた日比谷くん。私も思わず声を上げて、それを受け取った。
……魔法少女ブルーミングリリィ。一ヶ月前にとつぜん現れた第三の魔法少女。
それからもう六回ほど姿を見せているというのに、ずいぶんと用心深いのか依然としてその正体は分かっていなかった。
それがついに分かったという。
実は以前から正体が割れていたシャイニングサンとポーリングレインにはコンタクトをとっていて、バックアップの契約も結んである。
それはこちらが開発した対魔獣用兵器の試運転や、魔獣討伐時に多額の報酬を支払うこと。またヘルスケアなどだ。
実はサンとレインにもブルーミングリリィの身元調査を依頼していたのだけど、諜報部が先にその正体にたどり着いたようだ。
私はドキドキしながら、封筒を開ける。
そして以前より分厚くなった調査報告書を取り出し……思わず固まった。
「う、そ……」
「……百合園さん? どうしたんですか?」
日比谷くんの声は、もう届いていなかった。
視界がぐるぐると回るような錯覚に陥る。
まさか、そんな……。とても信じられない。
私は震える声で、調査書を読み上げる。
「魔法少女ブルーミングリリィの正体が判明。本名、百合園蕾。十七歳。常夏高校三年A組に所属。
住所は……」
そんなの、読まなくても分かる。百合園家を出て、ずっとそこで暮らしてきたのだから。
「え、百合園蕾って……もしかして」
「えぇ……。私の息子よ」
調査書には、近所のスーパーの裏手で魔法少女の姿と、その2秒後に全く同じ体勢の蕾と、二枚の防犯カメラのスクリーンショットが貼り付けられていられた。
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