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番外編・竜騎士の目指すもの
幕章、竜騎士よ大志を抱け
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アルフレッドは才能こそがこの世の理不尽そのものだと思っていた。
職業適性、人の才能が数値化したもの。
才能という不確かだったものが数値化し視認できるようになった事によって、人は才能という呪いに掛けられた。
最初から成れそうなものを目指し、無駄なものには手を触れようともしない、それは当然の事だと言えるが、それと同時にアルフレッドにはそれが理不尽としか感じられなかったのだ。
確かに表面的には何の問題もないように見えるが、簡単な話し、才能が無ければ自分が成りたいと思う職業であっても人はそれを目指そうとはしない、わざわざ自分から難行苦行の道を歩もうとする人がどこにいるというのか、という話だ。
そもそも、そういった刻苦勉励の心構えというのは世間という環境が作るものであって、本来なら人が最初から持ち合わせているようなものではない。
楽ができるなら、人は楽な方にしか歩を進めないものだ。
そんなどうしようもない世の中で、アルフレッドは見つけた。
曲がらぬ意志を持ち、不変の夢を見続け、困難に立ち向かう少女を。
その少女こそ、リリィ・マクスウェルという少女だった。
「美味い、超美味いっす」
旧校舎、今はリリィしか使わない古びれた校舎の一画、旧食堂でアルフレッドは遅めの昼食をリリィにご馳走になっていた。
「ありがとう、料理を褒めてくれるのは嬉しいんだけどね? その、本当に保健室行かなくても大丈夫?」
リリィは料理を作りながら、心配そうにそう尋ねるが怪我をした張本人はリリィの手料理を頬張りながら幸せそうに答える。
「そんなに気にしないで欲しいっす、俺は大体の怪我なら飯を食べると治るんすよ」
ほらっ、とアルフレッドは治りかけの怪我をリリィに見せると、それを見たリリィは急に申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「アルフ、ごめんね」
調理をする手を止めてリリィがそう言うと、アルフレッドは一つため息を吐いて何度目か分からない弁解をする。
「何回も言ったっすよ、リリィ。これは俺のワガママでも合った事っす、戦ったのも怪我をしたのも俺がワガママを貫いた所為なんすよ、だからリリィが気にする必要なんか無いんすよ」
「でも……」
リリィはアルフレッドに何度そう言われても、自分の為に怪我を負ったという罪悪感が払拭できなかった。
リリィはアルフレッドの傷を見るたびにワタシの所為だ、と気落ちした表情を浮かべるのだ。
そんなリリィを見て、どうしたものか、とアルフレッドは思案する。
俺ならどうだろうか? と考えるが基本的に誰とも関わらないように生きて来たアルフレッドにそんな罪悪感を抱く場面があるはずもなく敢え無く思考を断念、なら周りの人間なら? と考えると、即座に頼みごとの度に対価を求めるベルベットの姿が脳裏をよぎる。
ーーなるほど、リリィに必要なのはベルベットのような図太さっすね。
自分のベルベットへの印象が予想以上に酷い物だった事が愉快だったのかアルフレッドは面白そうにクスクスと笑いながらリリィに提案する。
「それならリリィ、こう考えたらどうっすか? アルフはワタシの為じゃなくて体が目的だったのね、的な感じでいいんじゃ無いっすかね?」
酷く勘違いを産みそうな発言をした事に気づかずに、アルフレッドはニコニコと笑みを浮かべていた。
対するリリィはアルフレッドの発言に固まったかと思うと頬を染めて聞き返す。
「えーと、その、アルフはワタシの体が目的の?」
アルフレッドは自分の発言の危うさにまだ気づいてないのか、そんな顔を赤くしながら真面目に答えられると困るんすけど、とやや苦笑いをしていた。
体、体か、とリリィは膨らみかけの自分の胸に手を当てて少しの間考える、そして、
「…………ワタシ、えっちなのはいけないとおもいます」
視線をそらし、顔を上気させたリリィが消え入りそうな声でそう言うと、アルフレッドは言葉の選び方を間違えたと気づき、ここでようやく頭を抱えた。
ーーこれじゃあ俺が遠回しにリリィの体目的(性的)で手助けしたみたいじゃないっすか。
そう思い至ったアルフレッドはすぐに弁明を始める。
「ごめんなさいっす、俺が悪かったっす、流石にあの言い方だと曲解だとも言えないっす、だからちゃんと言うっす、リリィが居なくなったら魔法を教えて貰えないとか、そんな感じの意味っす」
ああ、体って対価的な意味か、とリリィは少しホッとしたような残念なような微妙な気持ちになる。
「でもアルフはそんな人じゃないよね?」
「いや、そんな全く疑ってないような顔で言われるとちょっと困るっす」
確かにそういった気持ちは全く無かったが、現状アルフレッドがそういう人間なのかどうか? というのは話の本質とは大きくかけ離れた問題だった。
そういう話では無いと、アルフレッドはリリィに説明をする。
「もちろん、俺は打算でリリィと友達になったわけじゃないっすよ? でもこの話はあくまでも気持ちの問題って話だから俺がどうって言うよりはリリィが納得できるかって事っすよ」
ああ、なるほど、これもまたアルフの気遣いか、とリリィは得心した。
リリィの罪悪感はさっぱりと晴れる兆しがなかったが、少なくともアルフレッドの気遣いに応えようと思うくらいの余裕は生まれていた。
ーー恩があるなら返していけば良いんだもんね。
そんな風に納得し感謝する。
「うん、わかったよ。アルフはやっぱり優しいよね」
それはリリィの心から出た言葉だったのだが、その言葉にアルフレッドは顔を曇らせて酷く小さな声で呟く。
「俺は、リリィが思ってるほど良い人じゃないっすよ」
それはリリィに聞かせるためではなく、胸の内からポロリとこぼれ落ちた言葉だった。
そんなアルフレッドの胸中から出た言葉を耳聡く聞き取ったリリィは調理を再開しながら不思議そうにアルフレッドに告げた。
「ワタシは別にアルフに良い人でいて欲しいなんて思ってないよ?」
その言葉に、アルフレッドはえっ? と、驚いた表情をする。
それは自分の言葉を拾われた事についてではなく、リリィが放った言葉に驚いたのだ。
「だってアルフはワタシにとっては英雄みたいでとってもカッコイイ男の人だけど、アルフはアルフでしょ? ワタシの知ってるアルフは優しくて良い人だけどワタシの知らないアルフはそうじゃないかも知れないなんて知ってるもん」
そう言った後、リリィは、あれ? ワタシの言ってる事ってあってる? と、一人でゲシュタルト崩壊を起こしていたが、そんなリリィの言葉にアルフレッドは胸を熱くさせせていた。
アルフレッドを褒める言葉にではなく、アルフはアルフでしょ、という言葉に胸を熱くさせていたのだ。
照れを隠すように、そんな熱を悟られないように、アルフレッドはいつものように軽口を叩く。
「カッコイイって、女の子が男にそんなことを気軽に言ったらダメっすよ」
と、茶化す。
しかし、リリィも顔を赤くさせて反論する
「簡単にじゃないよ、ワタシだって、恥ずかしいもん」
アルフレッドは先ほどとはまた違った熱が顔に登るのを感じると絞り出すような声で確認するように聞き返す。
「そう、なんすか?」
そう聞き返されて、ついに恥ずかしさがピークに達したのか、リリィは会話自体をなかった事にしようと惚け始めるが誰が見ても明らかに顔が赤く染まっているのに今更取り繕ったところで説得力が皆無だった。
「えっ? なんですか? 良く聞こえないし、何も言ってないですよ?」
流石にこれ以上は藪蛇か、とアルフレッドも話題を水に流すようになんでもないと言った。
ぎこちないセリフが旧食堂に沈黙をもたらす。
聞こえてくるのはリリィが調理をする音だけ、そんな気まずい沈黙はリリィの方から破った。
「そ、そろそろ次のできるよ、まだ食べる?」
気まずい雰囲気を変えようと変えようとしているのが分かり、アルフレッドはぎこちないながらもいつもの笑みを浮かべて答える。
「いや、そろそろお腹一杯っす、作ってくれてありがとうっす」
それなら良かったよ、とリリィがそう言うとアルフレッドはなんとなく思った疑問を口にする。
「リリィには料理人の才能でもあるんすか? 普通にお店で食べるのと変わらないくらい美味しいんすけど」
というアルフレッドの言葉が面白かったのかリリィはコロコロと笑うと、そんな訳ないよ、と答える。
「ワタシが持ってる才能は錬金術士と踊り子、あとは歌姫と吟遊詩人、あとは魔法使いと、」
と、思い出すようにリリィは自分の職業適性を列挙していく、確かにその中に料理人は入っていなかった。
それに感心したようにアルフレッドは驚嘆の声を上げる。
「すごいんすね、才能がなくても料理ってできるんすね」
そんな感想にリリィは照れながらも、別にすごい事じゃない、と説明をした。
「だってね、料理って才能じゃないだもん」
「才能じゃ、ない?」
「うん、料理は知識なんだよ、例えばお塩、これをどれくらい入れたらどれだけしょっぱくなるか、お砂糖ならどれだけ甘くなるか、そういう経験とか知識があるなら誰にでも出来るの」
そう言われてアルフレッド確かにと納得する。
「確かに、料理人じゃなくても料理は出来るっすもんね」
「そうなの、料理はワタシの数少ない人の役に立つ方法なんだよ」
そんなに自虐的にならなくても良いんじゃ、とアルフレッドは苦笑いするが、それと同時に閃く。
ーー才能が、必要ない?
料理を口に運ぶ手がピタリと止まりアルフレッドは固まったように動かなくなる。
「アルフ? 大丈夫?」
心配したリリィが呼びかけるとアルフレッドは、その手があったか! と料理を掻き込んだ。
「ごひふひょうはま!」
勢いに任せてアルフレッドは旧食堂から風のように立ち去る。
「えーと、大丈夫なのかな?」
心配が尽きないが、とりあえず走れるならば大丈夫かな? と、リリィは椅子に座った。
そしてアルフレッドの去った方に向け、感謝の念を込めてお礼を口にする。
「ワタシの夢の為に戦ってくれて、本当にありがとう」
当然、返事はないがリリィの胸中は喜びと感謝でいっぱいになっていた。
ーーーーーーーーーー
駆ける足が止まらない、躍動する気持ちが止められない。
目指す先を見つけた、過去の自分が持っていない物を得られるチャンスを見つけた。
何者に成れない自分が何者かに成れるかもしれない可能性を見つけられた。
「そうっすよ、才能なんか関係ないんす、俺は竜騎士以外にだってなれる、だってそれはリリィが俺に証明してくれたから」
旧校舎の周りの森を駆けながらアルフレッドは意思を声に出して自分に誓う。
「俺は今日から料理人を目指すっすよ」
明日が見えた気がした、真っ暗だった筈のの未来に希望という光が道を照らす。
世の中という理不尽に抗い、才能を超える、その手段はリリィが示してくれた、後は、
「後は俺の努力次第、そうっすよね、リリィ!」
この日、竜騎士は大志を抱いた。
職業適性、人の才能が数値化したもの。
才能という不確かだったものが数値化し視認できるようになった事によって、人は才能という呪いに掛けられた。
最初から成れそうなものを目指し、無駄なものには手を触れようともしない、それは当然の事だと言えるが、それと同時にアルフレッドにはそれが理不尽としか感じられなかったのだ。
確かに表面的には何の問題もないように見えるが、簡単な話し、才能が無ければ自分が成りたいと思う職業であっても人はそれを目指そうとはしない、わざわざ自分から難行苦行の道を歩もうとする人がどこにいるというのか、という話だ。
そもそも、そういった刻苦勉励の心構えというのは世間という環境が作るものであって、本来なら人が最初から持ち合わせているようなものではない。
楽ができるなら、人は楽な方にしか歩を進めないものだ。
そんなどうしようもない世の中で、アルフレッドは見つけた。
曲がらぬ意志を持ち、不変の夢を見続け、困難に立ち向かう少女を。
その少女こそ、リリィ・マクスウェルという少女だった。
「美味い、超美味いっす」
旧校舎、今はリリィしか使わない古びれた校舎の一画、旧食堂でアルフレッドは遅めの昼食をリリィにご馳走になっていた。
「ありがとう、料理を褒めてくれるのは嬉しいんだけどね? その、本当に保健室行かなくても大丈夫?」
リリィは料理を作りながら、心配そうにそう尋ねるが怪我をした張本人はリリィの手料理を頬張りながら幸せそうに答える。
「そんなに気にしないで欲しいっす、俺は大体の怪我なら飯を食べると治るんすよ」
ほらっ、とアルフレッドは治りかけの怪我をリリィに見せると、それを見たリリィは急に申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「アルフ、ごめんね」
調理をする手を止めてリリィがそう言うと、アルフレッドは一つため息を吐いて何度目か分からない弁解をする。
「何回も言ったっすよ、リリィ。これは俺のワガママでも合った事っす、戦ったのも怪我をしたのも俺がワガママを貫いた所為なんすよ、だからリリィが気にする必要なんか無いんすよ」
「でも……」
リリィはアルフレッドに何度そう言われても、自分の為に怪我を負ったという罪悪感が払拭できなかった。
リリィはアルフレッドの傷を見るたびにワタシの所為だ、と気落ちした表情を浮かべるのだ。
そんなリリィを見て、どうしたものか、とアルフレッドは思案する。
俺ならどうだろうか? と考えるが基本的に誰とも関わらないように生きて来たアルフレッドにそんな罪悪感を抱く場面があるはずもなく敢え無く思考を断念、なら周りの人間なら? と考えると、即座に頼みごとの度に対価を求めるベルベットの姿が脳裏をよぎる。
ーーなるほど、リリィに必要なのはベルベットのような図太さっすね。
自分のベルベットへの印象が予想以上に酷い物だった事が愉快だったのかアルフレッドは面白そうにクスクスと笑いながらリリィに提案する。
「それならリリィ、こう考えたらどうっすか? アルフはワタシの為じゃなくて体が目的だったのね、的な感じでいいんじゃ無いっすかね?」
酷く勘違いを産みそうな発言をした事に気づかずに、アルフレッドはニコニコと笑みを浮かべていた。
対するリリィはアルフレッドの発言に固まったかと思うと頬を染めて聞き返す。
「えーと、その、アルフはワタシの体が目的の?」
アルフレッドは自分の発言の危うさにまだ気づいてないのか、そんな顔を赤くしながら真面目に答えられると困るんすけど、とやや苦笑いをしていた。
体、体か、とリリィは膨らみかけの自分の胸に手を当てて少しの間考える、そして、
「…………ワタシ、えっちなのはいけないとおもいます」
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ーーこれじゃあ俺が遠回しにリリィの体目的(性的)で手助けしたみたいじゃないっすか。
そう思い至ったアルフレッドはすぐに弁明を始める。
「ごめんなさいっす、俺が悪かったっす、流石にあの言い方だと曲解だとも言えないっす、だからちゃんと言うっす、リリィが居なくなったら魔法を教えて貰えないとか、そんな感じの意味っす」
ああ、体って対価的な意味か、とリリィは少しホッとしたような残念なような微妙な気持ちになる。
「でもアルフはそんな人じゃないよね?」
「いや、そんな全く疑ってないような顔で言われるとちょっと困るっす」
確かにそういった気持ちは全く無かったが、現状アルフレッドがそういう人間なのかどうか? というのは話の本質とは大きくかけ離れた問題だった。
そういう話では無いと、アルフレッドはリリィに説明をする。
「もちろん、俺は打算でリリィと友達になったわけじゃないっすよ? でもこの話はあくまでも気持ちの問題って話だから俺がどうって言うよりはリリィが納得できるかって事っすよ」
ああ、なるほど、これもまたアルフの気遣いか、とリリィは得心した。
リリィの罪悪感はさっぱりと晴れる兆しがなかったが、少なくともアルフレッドの気遣いに応えようと思うくらいの余裕は生まれていた。
ーー恩があるなら返していけば良いんだもんね。
そんな風に納得し感謝する。
「うん、わかったよ。アルフはやっぱり優しいよね」
それはリリィの心から出た言葉だったのだが、その言葉にアルフレッドは顔を曇らせて酷く小さな声で呟く。
「俺は、リリィが思ってるほど良い人じゃないっすよ」
それはリリィに聞かせるためではなく、胸の内からポロリとこぼれ落ちた言葉だった。
そんなアルフレッドの胸中から出た言葉を耳聡く聞き取ったリリィは調理を再開しながら不思議そうにアルフレッドに告げた。
「ワタシは別にアルフに良い人でいて欲しいなんて思ってないよ?」
その言葉に、アルフレッドはえっ? と、驚いた表情をする。
それは自分の言葉を拾われた事についてではなく、リリィが放った言葉に驚いたのだ。
「だってアルフはワタシにとっては英雄みたいでとってもカッコイイ男の人だけど、アルフはアルフでしょ? ワタシの知ってるアルフは優しくて良い人だけどワタシの知らないアルフはそうじゃないかも知れないなんて知ってるもん」
そう言った後、リリィは、あれ? ワタシの言ってる事ってあってる? と、一人でゲシュタルト崩壊を起こしていたが、そんなリリィの言葉にアルフレッドは胸を熱くさせせていた。
アルフレッドを褒める言葉にではなく、アルフはアルフでしょ、という言葉に胸を熱くさせていたのだ。
照れを隠すように、そんな熱を悟られないように、アルフレッドはいつものように軽口を叩く。
「カッコイイって、女の子が男にそんなことを気軽に言ったらダメっすよ」
と、茶化す。
しかし、リリィも顔を赤くさせて反論する
「簡単にじゃないよ、ワタシだって、恥ずかしいもん」
アルフレッドは先ほどとはまた違った熱が顔に登るのを感じると絞り出すような声で確認するように聞き返す。
「そう、なんすか?」
そう聞き返されて、ついに恥ずかしさがピークに達したのか、リリィは会話自体をなかった事にしようと惚け始めるが誰が見ても明らかに顔が赤く染まっているのに今更取り繕ったところで説得力が皆無だった。
「えっ? なんですか? 良く聞こえないし、何も言ってないですよ?」
流石にこれ以上は藪蛇か、とアルフレッドも話題を水に流すようになんでもないと言った。
ぎこちないセリフが旧食堂に沈黙をもたらす。
聞こえてくるのはリリィが調理をする音だけ、そんな気まずい沈黙はリリィの方から破った。
「そ、そろそろ次のできるよ、まだ食べる?」
気まずい雰囲気を変えようと変えようとしているのが分かり、アルフレッドはぎこちないながらもいつもの笑みを浮かべて答える。
「いや、そろそろお腹一杯っす、作ってくれてありがとうっす」
それなら良かったよ、とリリィがそう言うとアルフレッドはなんとなく思った疑問を口にする。
「リリィには料理人の才能でもあるんすか? 普通にお店で食べるのと変わらないくらい美味しいんすけど」
というアルフレッドの言葉が面白かったのかリリィはコロコロと笑うと、そんな訳ないよ、と答える。
「ワタシが持ってる才能は錬金術士と踊り子、あとは歌姫と吟遊詩人、あとは魔法使いと、」
と、思い出すようにリリィは自分の職業適性を列挙していく、確かにその中に料理人は入っていなかった。
それに感心したようにアルフレッドは驚嘆の声を上げる。
「すごいんすね、才能がなくても料理ってできるんすね」
そんな感想にリリィは照れながらも、別にすごい事じゃない、と説明をした。
「だってね、料理って才能じゃないだもん」
「才能じゃ、ない?」
「うん、料理は知識なんだよ、例えばお塩、これをどれくらい入れたらどれだけしょっぱくなるか、お砂糖ならどれだけ甘くなるか、そういう経験とか知識があるなら誰にでも出来るの」
そう言われてアルフレッド確かにと納得する。
「確かに、料理人じゃなくても料理は出来るっすもんね」
「そうなの、料理はワタシの数少ない人の役に立つ方法なんだよ」
そんなに自虐的にならなくても良いんじゃ、とアルフレッドは苦笑いするが、それと同時に閃く。
ーー才能が、必要ない?
料理を口に運ぶ手がピタリと止まりアルフレッドは固まったように動かなくなる。
「アルフ? 大丈夫?」
心配したリリィが呼びかけるとアルフレッドは、その手があったか! と料理を掻き込んだ。
「ごひふひょうはま!」
勢いに任せてアルフレッドは旧食堂から風のように立ち去る。
「えーと、大丈夫なのかな?」
心配が尽きないが、とりあえず走れるならば大丈夫かな? と、リリィは椅子に座った。
そしてアルフレッドの去った方に向け、感謝の念を込めてお礼を口にする。
「ワタシの夢の為に戦ってくれて、本当にありがとう」
当然、返事はないがリリィの胸中は喜びと感謝でいっぱいになっていた。
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駆ける足が止まらない、躍動する気持ちが止められない。
目指す先を見つけた、過去の自分が持っていない物を得られるチャンスを見つけた。
何者に成れない自分が何者かに成れるかもしれない可能性を見つけられた。
「そうっすよ、才能なんか関係ないんす、俺は竜騎士以外にだってなれる、だってそれはリリィが俺に証明してくれたから」
旧校舎の周りの森を駆けながらアルフレッドは意思を声に出して自分に誓う。
「俺は今日から料理人を目指すっすよ」
明日が見えた気がした、真っ暗だった筈のの未来に希望という光が道を照らす。
世の中という理不尽に抗い、才能を超える、その手段はリリィが示してくれた、後は、
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