28 / 48
第ニ章・お兄様をさがせ!
第二十七話
しおりを挟む
「私はお慕いしているお方がいるのです」
と、エルフィア・ドラクレアはそう言った。
校門から本校舎までの長い道中、リリィとエルフィアは雑談に花を咲かせていた。
「それは異性として好きな人がいるってこと?」
そうリリィに尋ねられると、エルフィアは口元に手を当て少しだけ悩み、答える。
「恐らく異性としても、人としてもお慕いしています、愛して止まないという意味ではどちらでも変わらないと思うのですが、どうもその辺りが私の中でハッキリとしないのです」
自分の事なのに胸の内に湧き出る感情が愛なのか好きなのかが分からないですよ、とエルフィアは小さく溜息を吐く。
「リリィにはそういった方はいないのですか?」
同年代の友人がいなかったエルフィアはいい機会だと思い立ち、そう尋ねるとリリィは、ワタシ!? と驚く。
「そうです、リリィにはお慕いしている御仁はいないのですか?」
「ど、どうなのかな? いるのかな?」
良く良く考えてみると自分も色恋沙汰にはてんで無関心だった、という事に気付くとリリィは悩ましげな表情を浮かべて脳内で該当する人物を探す。
しかし好意的に思っている人物を列挙していくことは出来るがそれが異性の、ましてや恋愛感情なのかと問われるとそれは違うような気がする、とリリィは頭を悩ませる。
困ったように眉をひそめるリリィを見かねたのか、エルフィアは小さな助け船を出した。
「気になる方や尊敬してる方もいないのですか?」
気になる人や尊敬している人物、と置き換えると、何故かスラスラとそういった人物が浮かび上がってきた。
尊敬や敬愛する人物が気になる人と言うのであれば、友人含む周囲の人間ほぼ全員がそういう対象に含まれるような気がする、とリリィは思う。
「気になる人は、いる、のかな? 尊敬してる人は沢山いるから慕うって意味ならきっと友達全員になると思うんだよね」
フム、とエルフィアは口元に手を当て一拍の間を持ち考える。
「私たちはもう成人ですからね、色恋沙汰に無関心という訳にもいかないと思うのです」
「確かにそうかもしれないね。でも成人かぁ」
思えばあっという間だった、とリリィは染み染みと感じる。
この世界での成人は数え歳で十五とされている。
当然そうなったからといって誰もが出家したり婚約をする訳ではないが、力のある者は早々に独り立ちするのが世の一般的な習わしとなっていた。
「やっぱりエルフィアはその慕っている人と結婚したいの?」
「結婚は少し難しいですね、個人的には独占して私に依存させて私だけを見ていただきたいのですが」
これが難しいのです、と少しだけ愁いを帯びた顔をする。
「ど、独占に、依存?」
思いも寄らぬ返答にリリィは呆然としてしまう。
「変な事でしょうか? 好いている方やお慕いしてる方に自分だけを見て欲しいと思うのは?」
変ではない、とリリィは思う。友人が自分の既知外の人と親しげに話している所をみるとリリィは言いようのないモヤモヤとした感情に襲われる事があった。
振り返って考えてみればそれは嫉妬という独占欲だったような気がしてならなかったからだ。
「普通、かな?」
「そう、至って普通です。むしろそう言った感情が湧いてこないなら実はその方に関心がないのではないでしょうか?」
「うーん、確かにそうかも知れないけど……」
そう言った感情を友人に向けるのはどうなのだろうか? とリリィは考える。
親密になったからと言って自分だけを見て考えてくれというのはあまりにも自己中心的すぎると思うのだ。
そんなリリィの考えを見透かすようにエルフィアは微笑を浮かべて口を開いた。
「自分の感情に任せて行動すると相手に迷惑がかかる、ですか?」
言い表せない言葉を的確に表現するエルフィアにリリィは激しく同意する。
「そう! それ!」
「そうなのです、だから難しいのですよ」
ああ、なるほど、とリリィは得心する。
エルフィアもこうしたい、ああしたい、という感情はあるが、その感情のままに行動してしまうと良くない、それが分かっているからこその、難しい、だった。
「お兄様は何でも一人で出来る方でしたからね、私に依存させる事できなかったのです」
ーー? お兄様?
はて、おかしな単語を聞いたとリリィは首をかしげる。
リリィが悩ましく首をかしげる仕草を見て自分の発言に疑問を持ったのだと思ったエルフィアは発言の意図を解説する。
リリィの疑問はそこでは無かったのだが……。
「自分の感情に任せて行動するのは確かに愚策ですが、相手から私を求めるようになってしまえば全く問題ないですよね?」
酷く純真な笑顔を浮かべながら歪んだ感性を全開にするエルフィアだった。
「それはそうだけど……エルフィアさん?」
「はい?」
「お慕いしてる人ってお兄さん、なの?」
リリィの言葉に空気が固まったかのような錯覚を受けるエルフィア。
固まってしまった笑顔のまま、上ずった声でリリィに問い返す。
「………ナゼソンナコトヲキクノデスカ?」
突然片言で喋り出すエルフィアにリリィは確信を得る。
「やっぱりそうなの?」
「………チガイマスヨ」
目を逸らし、あからさまに動揺しているのが分かるとリリィは疑わしい視線をエルフィアを向ける。
リリィが凝視し続けると次第に冷や汗のような物が額に見て取れると、追い打ちを掛けるようにリリィは口を開く。
「エルフィア? さっきね、お兄様は何でも出来る方って言ってたよ? 流れを汲むとそういうことなのかなってワタシは思うんだ」
口を真一文字に結び、エルフィアは壊れたロボットのようにゆっくりとリリィに向き直る。
「わた、私は別にお兄様に特別な感情を抱いたりはしてないのです、これはあくまでも家族愛に属するものであって恋愛感情なるものではないと自負してます、ハイ」
「でもさっき異性として好きなのか人として好きなのか分からないって言って無かった?」
「あぅ、あれは……………そう、物の例えです、人の感情というものはよく分からないという例え話なのですよ」
「フーン」
とって付けたような言い訳にリリィは更に疑わしいという視線をエルフィアに向ける。
「例えば、例えばの話ね?」
「は、はい」
「もしもエルフィアのお兄さんが美少女を何人も周りに侍らせて鼻の下を伸ばしてたらどうする?」
エルフィアはそんな質問をされた瞬間にスイッチが入ったように眼光が鋭く光らせると威圧感を含む声音で答えた。
「即座に虫を排除してどうしてそんな事をしたのか問い詰めた後に答えによっては………」
しかし、リリィがニマニマと笑みを浮かべている事に気づくとエルフィアは目を逸らし口を閉じる。
からかうようにリリィなエルフィアに聞いた。
「答えによってはどうするの?」
「チガイマスナニモシマセン、オニイサマノエランダジョセイナラキットスバラシイカタガタデショウ」
またも片言でシラを切るエルフィアにリリィは一つため息を吐いて言った。
「もう、強情なんだから。それじゃあワタシがお兄さんの事を好きになったりしても良いの?」
エルフィアはバッと勢い良くリリィの方を向くが何を口にしたらいいのか分からずに口をパクパクとさせる。
「嫌でしょ?」
エルフィアはシュンと落ち込み、小さく頷く。
「私は自分が変だと自覚はしているのですよ、でもどうしようもないのです、お兄様へのこの想いは日に日に強くなるばかりで自分を偽るのが辛いのです」
沈痛な面持ちを浮かべながらエルフィアは言葉を続ける。
「最初は只の憧れでした、何でも簡単にこなしてしまうお兄様を見て私もお兄様のように慣れたらいいなとそう思う程度だったのですよ、でも……」
「でも?」
大事な思い出を噛みしめるようにエルフィアは柔らかな笑みを浮かべた。
「私が七つの時のことでした、私は金銭目的の誘拐犯に誘拐された事があるのです、幸い大事になる前にお兄様が救い出してくれたのですけれど、当時の私は誘拐犯がとても恐ろしいとお兄様にしがみついてずっと泣いていたのですよ、そんな私を宥めるようにお兄様はずっと手を握り声を掛けてくれました、『大丈夫だよ、エルは僕が必ず守るから』と優しい声で、心の底から安心した事を良く覚えています」
「じゃあ、お兄さんに特別な感情を抱くようになったのってその時から?」
「そう、なりますね。優しい言葉を掛けられただけで靡く単純な女だと笑っても良いのですよ?」
少しだけ自虐的な笑みを浮かべるエルフィアにリリィは首を横に振った。
「ワタシは笑ったりしないよ」
リリィの言葉に、エルフィアは顔を上げた。
「ワタシもね? 世間的にはきっと間違った選択をしてると思うの」
「間違った選択?」
「うん、ワタシの目標はね、偉大な魔法使いなの、職業適性が最低のクセに大それた職業を目指してる、でもそれって周りからみたらとても馬鹿で、どうしようもない愚か者って思われると思わない?」
そんなリリィの言葉にエルフィアは顔を顰める。
確かに、普通ならあり得ない選択をリリィはしているかもしれない、しかしそれを間違った選択かどうかを決めるのは周りの人間ではないとエルフィアは思うのだ。
「それは、そうかもしれません。しかし少なくとも私はリリィの夢が間違っているとは思えないです」
そんな飾り気のない言葉を受けたリリィは小さく微笑んだ。
やっぱりエルフィアはどこかアルフに似ている、そう思った。
「ありがとう、エルフィア。貴女がそう思ってくれたみたいに、ワタシもエルフィアのお兄さんへの想いが間違ってるとは思えないの」
「…………」
「ワタシはまだ誰かを好きになった事はないけど、そういう気持ちって自分じゃどうしようもないんでしょ?」
コクリとエルフィアは頷く。
「ならしょうがないよ、ワタシの偉大な魔法使いになりたいって気持ちも同じだから分かるの、周りになんて言われても、どう思われても、止められないし止まらない、でしょ?」
「……はい」
「それならワタシは応援するよ」
「応援、ですか?」
驚いたようにエルフィアはリリィに聞き返す。
「そう、応援」
「でも私の気持ちは間違っても褒められるような物ではないですよ?」
「それでも応援するよ」
「十人に聞いたら十人がそれは変だってきっといいますよ?」
「ワタシは言わないし思わない、だから応援するよ」
「……なんで、ですか?」
リリィは迷わずに答える。
「ワタシもそうやって励まされたから、応援したい気持ちも本当だけど、ワタシの大事な友達がくれた物をエルフィアにもあげたいと思ったの」
気恥ずかしそうにリリィは頬を染める。
そんなリリィを見てエルフィアは目を瞑り、言う。
「いい、友人をお持ちですね」
「そうでしょ?」
誇らしげなリリィの声音を耳に、エルフィアは感謝の気持ちを込めて、小さく呟いた。
「始めて打ち明けた相手が貴女で良かった」
と、エルフィア・ドラクレアはそう言った。
校門から本校舎までの長い道中、リリィとエルフィアは雑談に花を咲かせていた。
「それは異性として好きな人がいるってこと?」
そうリリィに尋ねられると、エルフィアは口元に手を当て少しだけ悩み、答える。
「恐らく異性としても、人としてもお慕いしています、愛して止まないという意味ではどちらでも変わらないと思うのですが、どうもその辺りが私の中でハッキリとしないのです」
自分の事なのに胸の内に湧き出る感情が愛なのか好きなのかが分からないですよ、とエルフィアは小さく溜息を吐く。
「リリィにはそういった方はいないのですか?」
同年代の友人がいなかったエルフィアはいい機会だと思い立ち、そう尋ねるとリリィは、ワタシ!? と驚く。
「そうです、リリィにはお慕いしている御仁はいないのですか?」
「ど、どうなのかな? いるのかな?」
良く良く考えてみると自分も色恋沙汰にはてんで無関心だった、という事に気付くとリリィは悩ましげな表情を浮かべて脳内で該当する人物を探す。
しかし好意的に思っている人物を列挙していくことは出来るがそれが異性の、ましてや恋愛感情なのかと問われるとそれは違うような気がする、とリリィは頭を悩ませる。
困ったように眉をひそめるリリィを見かねたのか、エルフィアは小さな助け船を出した。
「気になる方や尊敬してる方もいないのですか?」
気になる人や尊敬している人物、と置き換えると、何故かスラスラとそういった人物が浮かび上がってきた。
尊敬や敬愛する人物が気になる人と言うのであれば、友人含む周囲の人間ほぼ全員がそういう対象に含まれるような気がする、とリリィは思う。
「気になる人は、いる、のかな? 尊敬してる人は沢山いるから慕うって意味ならきっと友達全員になると思うんだよね」
フム、とエルフィアは口元に手を当て一拍の間を持ち考える。
「私たちはもう成人ですからね、色恋沙汰に無関心という訳にもいかないと思うのです」
「確かにそうかもしれないね。でも成人かぁ」
思えばあっという間だった、とリリィは染み染みと感じる。
この世界での成人は数え歳で十五とされている。
当然そうなったからといって誰もが出家したり婚約をする訳ではないが、力のある者は早々に独り立ちするのが世の一般的な習わしとなっていた。
「やっぱりエルフィアはその慕っている人と結婚したいの?」
「結婚は少し難しいですね、個人的には独占して私に依存させて私だけを見ていただきたいのですが」
これが難しいのです、と少しだけ愁いを帯びた顔をする。
「ど、独占に、依存?」
思いも寄らぬ返答にリリィは呆然としてしまう。
「変な事でしょうか? 好いている方やお慕いしてる方に自分だけを見て欲しいと思うのは?」
変ではない、とリリィは思う。友人が自分の既知外の人と親しげに話している所をみるとリリィは言いようのないモヤモヤとした感情に襲われる事があった。
振り返って考えてみればそれは嫉妬という独占欲だったような気がしてならなかったからだ。
「普通、かな?」
「そう、至って普通です。むしろそう言った感情が湧いてこないなら実はその方に関心がないのではないでしょうか?」
「うーん、確かにそうかも知れないけど……」
そう言った感情を友人に向けるのはどうなのだろうか? とリリィは考える。
親密になったからと言って自分だけを見て考えてくれというのはあまりにも自己中心的すぎると思うのだ。
そんなリリィの考えを見透かすようにエルフィアは微笑を浮かべて口を開いた。
「自分の感情に任せて行動すると相手に迷惑がかかる、ですか?」
言い表せない言葉を的確に表現するエルフィアにリリィは激しく同意する。
「そう! それ!」
「そうなのです、だから難しいのですよ」
ああ、なるほど、とリリィは得心する。
エルフィアもこうしたい、ああしたい、という感情はあるが、その感情のままに行動してしまうと良くない、それが分かっているからこその、難しい、だった。
「お兄様は何でも一人で出来る方でしたからね、私に依存させる事できなかったのです」
ーー? お兄様?
はて、おかしな単語を聞いたとリリィは首をかしげる。
リリィが悩ましく首をかしげる仕草を見て自分の発言に疑問を持ったのだと思ったエルフィアは発言の意図を解説する。
リリィの疑問はそこでは無かったのだが……。
「自分の感情に任せて行動するのは確かに愚策ですが、相手から私を求めるようになってしまえば全く問題ないですよね?」
酷く純真な笑顔を浮かべながら歪んだ感性を全開にするエルフィアだった。
「それはそうだけど……エルフィアさん?」
「はい?」
「お慕いしてる人ってお兄さん、なの?」
リリィの言葉に空気が固まったかのような錯覚を受けるエルフィア。
固まってしまった笑顔のまま、上ずった声でリリィに問い返す。
「………ナゼソンナコトヲキクノデスカ?」
突然片言で喋り出すエルフィアにリリィは確信を得る。
「やっぱりそうなの?」
「………チガイマスヨ」
目を逸らし、あからさまに動揺しているのが分かるとリリィは疑わしい視線をエルフィアを向ける。
リリィが凝視し続けると次第に冷や汗のような物が額に見て取れると、追い打ちを掛けるようにリリィは口を開く。
「エルフィア? さっきね、お兄様は何でも出来る方って言ってたよ? 流れを汲むとそういうことなのかなってワタシは思うんだ」
口を真一文字に結び、エルフィアは壊れたロボットのようにゆっくりとリリィに向き直る。
「わた、私は別にお兄様に特別な感情を抱いたりはしてないのです、これはあくまでも家族愛に属するものであって恋愛感情なるものではないと自負してます、ハイ」
「でもさっき異性として好きなのか人として好きなのか分からないって言って無かった?」
「あぅ、あれは……………そう、物の例えです、人の感情というものはよく分からないという例え話なのですよ」
「フーン」
とって付けたような言い訳にリリィは更に疑わしいという視線をエルフィアに向ける。
「例えば、例えばの話ね?」
「は、はい」
「もしもエルフィアのお兄さんが美少女を何人も周りに侍らせて鼻の下を伸ばしてたらどうする?」
エルフィアはそんな質問をされた瞬間にスイッチが入ったように眼光が鋭く光らせると威圧感を含む声音で答えた。
「即座に虫を排除してどうしてそんな事をしたのか問い詰めた後に答えによっては………」
しかし、リリィがニマニマと笑みを浮かべている事に気づくとエルフィアは目を逸らし口を閉じる。
からかうようにリリィなエルフィアに聞いた。
「答えによってはどうするの?」
「チガイマスナニモシマセン、オニイサマノエランダジョセイナラキットスバラシイカタガタデショウ」
またも片言でシラを切るエルフィアにリリィは一つため息を吐いて言った。
「もう、強情なんだから。それじゃあワタシがお兄さんの事を好きになったりしても良いの?」
エルフィアはバッと勢い良くリリィの方を向くが何を口にしたらいいのか分からずに口をパクパクとさせる。
「嫌でしょ?」
エルフィアはシュンと落ち込み、小さく頷く。
「私は自分が変だと自覚はしているのですよ、でもどうしようもないのです、お兄様へのこの想いは日に日に強くなるばかりで自分を偽るのが辛いのです」
沈痛な面持ちを浮かべながらエルフィアは言葉を続ける。
「最初は只の憧れでした、何でも簡単にこなしてしまうお兄様を見て私もお兄様のように慣れたらいいなとそう思う程度だったのですよ、でも……」
「でも?」
大事な思い出を噛みしめるようにエルフィアは柔らかな笑みを浮かべた。
「私が七つの時のことでした、私は金銭目的の誘拐犯に誘拐された事があるのです、幸い大事になる前にお兄様が救い出してくれたのですけれど、当時の私は誘拐犯がとても恐ろしいとお兄様にしがみついてずっと泣いていたのですよ、そんな私を宥めるようにお兄様はずっと手を握り声を掛けてくれました、『大丈夫だよ、エルは僕が必ず守るから』と優しい声で、心の底から安心した事を良く覚えています」
「じゃあ、お兄さんに特別な感情を抱くようになったのってその時から?」
「そう、なりますね。優しい言葉を掛けられただけで靡く単純な女だと笑っても良いのですよ?」
少しだけ自虐的な笑みを浮かべるエルフィアにリリィは首を横に振った。
「ワタシは笑ったりしないよ」
リリィの言葉に、エルフィアは顔を上げた。
「ワタシもね? 世間的にはきっと間違った選択をしてると思うの」
「間違った選択?」
「うん、ワタシの目標はね、偉大な魔法使いなの、職業適性が最低のクセに大それた職業を目指してる、でもそれって周りからみたらとても馬鹿で、どうしようもない愚か者って思われると思わない?」
そんなリリィの言葉にエルフィアは顔を顰める。
確かに、普通ならあり得ない選択をリリィはしているかもしれない、しかしそれを間違った選択かどうかを決めるのは周りの人間ではないとエルフィアは思うのだ。
「それは、そうかもしれません。しかし少なくとも私はリリィの夢が間違っているとは思えないです」
そんな飾り気のない言葉を受けたリリィは小さく微笑んだ。
やっぱりエルフィアはどこかアルフに似ている、そう思った。
「ありがとう、エルフィア。貴女がそう思ってくれたみたいに、ワタシもエルフィアのお兄さんへの想いが間違ってるとは思えないの」
「…………」
「ワタシはまだ誰かを好きになった事はないけど、そういう気持ちって自分じゃどうしようもないんでしょ?」
コクリとエルフィアは頷く。
「ならしょうがないよ、ワタシの偉大な魔法使いになりたいって気持ちも同じだから分かるの、周りになんて言われても、どう思われても、止められないし止まらない、でしょ?」
「……はい」
「それならワタシは応援するよ」
「応援、ですか?」
驚いたようにエルフィアはリリィに聞き返す。
「そう、応援」
「でも私の気持ちは間違っても褒められるような物ではないですよ?」
「それでも応援するよ」
「十人に聞いたら十人がそれは変だってきっといいますよ?」
「ワタシは言わないし思わない、だから応援するよ」
「……なんで、ですか?」
リリィは迷わずに答える。
「ワタシもそうやって励まされたから、応援したい気持ちも本当だけど、ワタシの大事な友達がくれた物をエルフィアにもあげたいと思ったの」
気恥ずかしそうにリリィは頬を染める。
そんなリリィを見てエルフィアは目を瞑り、言う。
「いい、友人をお持ちですね」
「そうでしょ?」
誇らしげなリリィの声音を耳に、エルフィアは感謝の気持ちを込めて、小さく呟いた。
「始めて打ち明けた相手が貴女で良かった」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる