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第ニ章・お兄様をさがせ!
第三十八話
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エルフィアが目を覚ますと、そこは薄暗い部屋の中だった。
身体を起こし、辺りを確認する。
魔術の形跡が至るところにある事から、ここが誰かの領域なのだという事が分かる。
右手には暖かな感触があり、目を向けると隣に私の手を握りながら眠るリリィの姿があった。
すいませんでした、そう心の中で謝ると、
「起きたのかしら?」
と、室内に声が響いた。
突然の声に驚き、私が振り向くと、そこには白髪の小さな体躯をした少女が椅子に腰を掛けていた。
「貴女は?」
私がそう問うと、少女は舌打ちをして答える。
「ベルベット・プライマー、リリィの親友よ」
ベルベットと名乗る少女の視線には明らかな敵意が込められていた。それに相当な実力者だという事が伝わって来る。
「起きたなら出て行きなさい、ここはあーしとリリィの工房よ、部外者に立ち入って欲しくないわ」
部外者という言葉に気落ちしてしまう。
分かっていた、私にはもうリリィを友人と呼ぶ資格はないのだ。私はリリィの言葉が正しいと分かっていながら彼女に剣を向けたのだから。
私はリリィの手をゆっくりと開かせて立ち上がる。
「失礼しました」
一礼して私は踵を返すと、何故かベルベットさんは私を引き止めた。
「待ちなさい」
振り返るとベルベットさんは露骨に面倒そうな表情を浮かべていた。
「アンタのその物分かりの良さが気にくわないわ」
「…………それはどういう意味でしょうか? 申し訳ないのですが、私には貴女の仰っている言葉の意味がわかりません」
私はそう本音を口にする。
言葉の意味は理解出来る、しかし彼女がそれを気にくわないと言う意味がわからないのだ。
本当に面倒だと言わんばかりにため息を吐くと、ベルベットは尋ねる。
「アンタはこれからどうするつもりなのよ」
「これ、から?」
「リリィを傷つけた分際で学園に身を置くのか、それともお兄様とやらを取り戻す為に奔走するのか、それとも、今ここであーしに殺されるのか」
酷く物騒な選択肢が含まれていたような気がする。
しかしこれからの事など考えた事もなかったという事に気付く。
当初の予定では私はお兄様と楽しくこの学園で学び、ゆくゆくは…………いや、止めましょう。今はこんな妄想もただ辛い。
私は小さく首を振り煩悩を払う。
「とりあえず本国に戻ろうかと思います、反対を押し切って留学をしたので快くとはいかないですがきっと受け入れはしてくれる筈なので」
そう答えると彼女は再び舌打ちをした。
「あーしはアンタの行く末を心配してるんじゃないわよ」
それはそうでしょうけど、私は尋ねられたから答えただけなのですが。と、少しだけ理不尽さを感じる。
「あーしが聞きたいのは、リリィにもアルフにも余計な心労を掛けているのにアンタは何もせずに去るのか、そう聞いているのよ」
「………………」
「リリィは眠るまでアンタの事を心配していた、アルフは今も頭を抱えてる、今日初めて会ったアンタの為にね」
元々あった罪悪感がさらに重く心にのしかかる。
「でもアンタが悪い訳じゃない、そしてアルフが悪い訳でもない、それはあーしにも分かる、でもだからと言ってアンタが逃げていい理由にはならないわ」
逃げるという単語に少しだけ頭に血が登った。
「私は逃げたりしていません、少し間を置きたいだけです」
そんな私の答えを見透かしていたのかベルベットさんは鼻で一笑した。
「それをあーしは逃げてるって言ってるのよ」
「違います! 私はお兄様の事を諦めたりなどしない!」
知らず知らずの内に私は大きな声で反論していた。
でもベルベットさんから返ってくる言葉は正論そのものだった。
「だから聞いているんじゃない、そんなお兄様の為にアンタはこれからどうするのよ」
「それは……」
何も答えられなかった。国に戻っても、おそらくお兄様の為にできる事などほとんどないだろう事は自分が一番よく分かっていたからだ。
それでも間を置きたいと言ったのは、単に私が弱いからだという事の証明でもある。
正直に言ってしまえば、お兄様のお顔で他人行儀にされると死にたくなるのでアルフレッドさんに近づきたいとは思わなかった。
「何の答えも出さずにその場から立ち去るならそれは逃げ出したと言われても仕方ないわよ?」
正しい、その通りだ。しかし、私は無神経にずかずかと正論を吐く少女に怒りを隠せなかった。
「そんなこと分かっています! しかしそれを貴女に言われる筋合いなどない」
そう強く言い放つと、少女は何度目かの舌打ちをする。
「ガキが、調子にのるんじゃないわよ」
怒気を孕んだ声音でそう言うとベルベットは一つ指を鳴らした。
音と共に景色が一瞬で移り変わる。
そこはまるで御伽噺に出てくる地獄のような風景だった。
「これは空間転移」
「アンタ、少しどころか大分鼻につくのよね」
ベルベットは空間の中心にある玉座に座り、冷たい視線をエルフィアに向ける。
「少しだけ、虐めてあげるわ」
「なるほど、貴女は私が気に入らないと、そういうことでよろしいですか?」
「もちろん、どこの馬の骨とも知らない女に、あーしの大事な友人が二人も傷つけられたのよ? あーしが怒らない理由ってあるのかしら?」
正論だ、最初から最後までこの人の言い分は正しい。間違っているのは私だ、悪いのも私だ、しかし、
「ごもっともです、ですが、どうやら私も貴女の事が気にくわないようです」
私は腰の剣に手を掛け、抜き払う。
「八つ当たりかしら?」
「否定はしませんよ、しかし私の神経を逆撫でしたのは貴女です」
「ふぅん、まあ威勢が良いのは嫌いじゃないわ、精々頑張って踊りなさいな」
パチンと鳴る指の音が戦いの始まりの合図になった。
身体を起こし、辺りを確認する。
魔術の形跡が至るところにある事から、ここが誰かの領域なのだという事が分かる。
右手には暖かな感触があり、目を向けると隣に私の手を握りながら眠るリリィの姿があった。
すいませんでした、そう心の中で謝ると、
「起きたのかしら?」
と、室内に声が響いた。
突然の声に驚き、私が振り向くと、そこには白髪の小さな体躯をした少女が椅子に腰を掛けていた。
「貴女は?」
私がそう問うと、少女は舌打ちをして答える。
「ベルベット・プライマー、リリィの親友よ」
ベルベットと名乗る少女の視線には明らかな敵意が込められていた。それに相当な実力者だという事が伝わって来る。
「起きたなら出て行きなさい、ここはあーしとリリィの工房よ、部外者に立ち入って欲しくないわ」
部外者という言葉に気落ちしてしまう。
分かっていた、私にはもうリリィを友人と呼ぶ資格はないのだ。私はリリィの言葉が正しいと分かっていながら彼女に剣を向けたのだから。
私はリリィの手をゆっくりと開かせて立ち上がる。
「失礼しました」
一礼して私は踵を返すと、何故かベルベットさんは私を引き止めた。
「待ちなさい」
振り返るとベルベットさんは露骨に面倒そうな表情を浮かべていた。
「アンタのその物分かりの良さが気にくわないわ」
「…………それはどういう意味でしょうか? 申し訳ないのですが、私には貴女の仰っている言葉の意味がわかりません」
私はそう本音を口にする。
言葉の意味は理解出来る、しかし彼女がそれを気にくわないと言う意味がわからないのだ。
本当に面倒だと言わんばかりにため息を吐くと、ベルベットは尋ねる。
「アンタはこれからどうするつもりなのよ」
「これ、から?」
「リリィを傷つけた分際で学園に身を置くのか、それともお兄様とやらを取り戻す為に奔走するのか、それとも、今ここであーしに殺されるのか」
酷く物騒な選択肢が含まれていたような気がする。
しかしこれからの事など考えた事もなかったという事に気付く。
当初の予定では私はお兄様と楽しくこの学園で学び、ゆくゆくは…………いや、止めましょう。今はこんな妄想もただ辛い。
私は小さく首を振り煩悩を払う。
「とりあえず本国に戻ろうかと思います、反対を押し切って留学をしたので快くとはいかないですがきっと受け入れはしてくれる筈なので」
そう答えると彼女は再び舌打ちをした。
「あーしはアンタの行く末を心配してるんじゃないわよ」
それはそうでしょうけど、私は尋ねられたから答えただけなのですが。と、少しだけ理不尽さを感じる。
「あーしが聞きたいのは、リリィにもアルフにも余計な心労を掛けているのにアンタは何もせずに去るのか、そう聞いているのよ」
「………………」
「リリィは眠るまでアンタの事を心配していた、アルフは今も頭を抱えてる、今日初めて会ったアンタの為にね」
元々あった罪悪感がさらに重く心にのしかかる。
「でもアンタが悪い訳じゃない、そしてアルフが悪い訳でもない、それはあーしにも分かる、でもだからと言ってアンタが逃げていい理由にはならないわ」
逃げるという単語に少しだけ頭に血が登った。
「私は逃げたりしていません、少し間を置きたいだけです」
そんな私の答えを見透かしていたのかベルベットさんは鼻で一笑した。
「それをあーしは逃げてるって言ってるのよ」
「違います! 私はお兄様の事を諦めたりなどしない!」
知らず知らずの内に私は大きな声で反論していた。
でもベルベットさんから返ってくる言葉は正論そのものだった。
「だから聞いているんじゃない、そんなお兄様の為にアンタはこれからどうするのよ」
「それは……」
何も答えられなかった。国に戻っても、おそらくお兄様の為にできる事などほとんどないだろう事は自分が一番よく分かっていたからだ。
それでも間を置きたいと言ったのは、単に私が弱いからだという事の証明でもある。
正直に言ってしまえば、お兄様のお顔で他人行儀にされると死にたくなるのでアルフレッドさんに近づきたいとは思わなかった。
「何の答えも出さずにその場から立ち去るならそれは逃げ出したと言われても仕方ないわよ?」
正しい、その通りだ。しかし、私は無神経にずかずかと正論を吐く少女に怒りを隠せなかった。
「そんなこと分かっています! しかしそれを貴女に言われる筋合いなどない」
そう強く言い放つと、少女は何度目かの舌打ちをする。
「ガキが、調子にのるんじゃないわよ」
怒気を孕んだ声音でそう言うとベルベットは一つ指を鳴らした。
音と共に景色が一瞬で移り変わる。
そこはまるで御伽噺に出てくる地獄のような風景だった。
「これは空間転移」
「アンタ、少しどころか大分鼻につくのよね」
ベルベットは空間の中心にある玉座に座り、冷たい視線をエルフィアに向ける。
「少しだけ、虐めてあげるわ」
「なるほど、貴女は私が気に入らないと、そういうことでよろしいですか?」
「もちろん、どこの馬の骨とも知らない女に、あーしの大事な友人が二人も傷つけられたのよ? あーしが怒らない理由ってあるのかしら?」
正論だ、最初から最後までこの人の言い分は正しい。間違っているのは私だ、悪いのも私だ、しかし、
「ごもっともです、ですが、どうやら私も貴女の事が気にくわないようです」
私は腰の剣に手を掛け、抜き払う。
「八つ当たりかしら?」
「否定はしませんよ、しかし私の神経を逆撫でしたのは貴女です」
「ふぅん、まあ威勢が良いのは嫌いじゃないわ、精々頑張って踊りなさいな」
パチンと鳴る指の音が戦いの始まりの合図になった。
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