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第ニ章・お兄様をさがせ!
第三十九話
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「くだらないわ、本当にくだらない」
うつ伏せに倒れているエルフィアの上で、ベルベットは呟くようにそう言った。
視線の先には紅く禍々しい空の色、呆れたような声音で少女は言葉を続ける。
「八つ当たり? 言い訳? 合わせる顔がない? 何を当たり前の事を言っているのかしらこの愚図は」
満身創痍なのかエルフィアはピクリとも動かない。
正確には動けないのではなく、『動けない』のだが……。
「アンタはただの弱虫よ、お兄様とやらに依存して、その相手の為だったら優しくしてくれた相手ですら傷つける、本当に反吐が出そうだわ。口を開けばお兄様の為、諦めない、貴女に何が分かる。力が足りなくてあーしに一矢報いる事も出来ずに倒れ込んだら「ごめんなさい」アンタは誰に謝って、何に許して欲しいのよ」
苛立たし気にベルベットがそうなじると、エルフィアは涙を流しながら、小さく「ごめんなさい、ごめんなさい」と呟いている。
それはベルベットの嫌いな弱者の姿そのものだった。
「諦めなかった結果がこれよ、アンタのお兄様なんてもう居なくて、かわりに必死に生きているアルフを傷つけた、リリィを泣かせて、ついでにクロエにも重症を負わせた。自分勝手に我儘に、自分の求めたものを諦めなかった結果がこれよ!」
ベルベットは立ち上がりエルフィアの髪を掴んで顔を上げる。
「誰にも救いなんてない、アンタにもアルフにもリリィにも、そのお兄様にだって、アンタがした事は全部無駄で、迷惑で、良いことなんて何一つないのよ! 何でそんな簡単な事もわからないのよ、この大馬鹿!」
ベルベットはエルフィアの事が許せなかった。
一つの事だけを見据え、それ以外は切り捨てる。
そんな行動がまるで昔の自分を見ているようで堪らなく苛立ってしまうのだ。
「本当に、昔の自分を見てるみたいでイライラするわ」
吐き捨てるようにそう口にして、ベルベットは子供のように泣きじゃくり、うずくまって何かに許しを請うエルフィアをただ見つめていた。
*
「もう諦めます」
泣き止んで落ち着くと、エルフィアは突然そんな事を口にした。
「私はお兄様の居場所を知る為に父と契約を交わしているのです、学園を卒業したら父の決めた相手と結婚をすると」
ドラクレア家は優秀な騎士の家系だった。
生まれる男の子は大体すばらしい才能を持ち、時には英雄と呼ばれる事もあったと言う。
その反面、娘が生まれる事は殆どなく、その扱いは酷いものだった。
エルフィアもその例に洩れず酷い扱いを受けていたのだが、兄であるアルクェイドがそれを絶対に許さないといってエルフィアの味方になっていた事もあり、エルフィアはアルクェイドに依存し始めてしまったのだ。
「でも、お兄様がいなくなってからは地獄のような日々が待っていました、お兄様の代わりになるように毎日の教育、罵声、体罰、私は本当に愛されていないのだと思い知らされました」
それからというもの、エルフィアは必死に努力を重ねた。
お兄様に少しでも近づく為に、次に再開した時に自分を誇れるように、成長したと褒められる為に。
そして、そんなある日の事。
『貴様には結婚してもらう、異論は認めない』
無慈悲な一言が父親の口から放たれる。
当然、エルフィアは反発した。誰とも知らない男と結婚などと冗談ではないと、そう思っていたのだ。
しかし、父の「結婚に応じるならアルクェイドの居場所を教えても良い」という一言でエルフィアは首を縦に振る事となったのだ。
「契約をしました、お兄様に関する情報に嘘偽りを含める事は出来ないように、お兄様と少しでも長く過ごせるようにと」
結果はご覧の有様ですけどね、とエルフィアは自嘲気味に笑う。
「結局のところベルベットさんの言う通りなのですよ、私はお兄様に依存していただけで、きっと私を認め愛してくれるならお兄様以外の人でも良かったのです、その証拠に私はリリィにも自分の我儘を押し付けてしまった、自分のエゴでリリィを傷つけてしまった、初めて出来た友人に酷い言葉をかけてしまった、そんな私には、もう何かを望む資格など……きっとない」
ベルベットは何も言わず、何の反応も示さなかった。
それからエルフィアを元の空間に戻し、少女は一人、玉座で空を見上げていた。
「そういう答えもあったのかもしれないわね」
呟く声は、誰に届く訳でもなく溶けて消えていった。
うつ伏せに倒れているエルフィアの上で、ベルベットは呟くようにそう言った。
視線の先には紅く禍々しい空の色、呆れたような声音で少女は言葉を続ける。
「八つ当たり? 言い訳? 合わせる顔がない? 何を当たり前の事を言っているのかしらこの愚図は」
満身創痍なのかエルフィアはピクリとも動かない。
正確には動けないのではなく、『動けない』のだが……。
「アンタはただの弱虫よ、お兄様とやらに依存して、その相手の為だったら優しくしてくれた相手ですら傷つける、本当に反吐が出そうだわ。口を開けばお兄様の為、諦めない、貴女に何が分かる。力が足りなくてあーしに一矢報いる事も出来ずに倒れ込んだら「ごめんなさい」アンタは誰に謝って、何に許して欲しいのよ」
苛立たし気にベルベットがそうなじると、エルフィアは涙を流しながら、小さく「ごめんなさい、ごめんなさい」と呟いている。
それはベルベットの嫌いな弱者の姿そのものだった。
「諦めなかった結果がこれよ、アンタのお兄様なんてもう居なくて、かわりに必死に生きているアルフを傷つけた、リリィを泣かせて、ついでにクロエにも重症を負わせた。自分勝手に我儘に、自分の求めたものを諦めなかった結果がこれよ!」
ベルベットは立ち上がりエルフィアの髪を掴んで顔を上げる。
「誰にも救いなんてない、アンタにもアルフにもリリィにも、そのお兄様にだって、アンタがした事は全部無駄で、迷惑で、良いことなんて何一つないのよ! 何でそんな簡単な事もわからないのよ、この大馬鹿!」
ベルベットはエルフィアの事が許せなかった。
一つの事だけを見据え、それ以外は切り捨てる。
そんな行動がまるで昔の自分を見ているようで堪らなく苛立ってしまうのだ。
「本当に、昔の自分を見てるみたいでイライラするわ」
吐き捨てるようにそう口にして、ベルベットは子供のように泣きじゃくり、うずくまって何かに許しを請うエルフィアをただ見つめていた。
*
「もう諦めます」
泣き止んで落ち着くと、エルフィアは突然そんな事を口にした。
「私はお兄様の居場所を知る為に父と契約を交わしているのです、学園を卒業したら父の決めた相手と結婚をすると」
ドラクレア家は優秀な騎士の家系だった。
生まれる男の子は大体すばらしい才能を持ち、時には英雄と呼ばれる事もあったと言う。
その反面、娘が生まれる事は殆どなく、その扱いは酷いものだった。
エルフィアもその例に洩れず酷い扱いを受けていたのだが、兄であるアルクェイドがそれを絶対に許さないといってエルフィアの味方になっていた事もあり、エルフィアはアルクェイドに依存し始めてしまったのだ。
「でも、お兄様がいなくなってからは地獄のような日々が待っていました、お兄様の代わりになるように毎日の教育、罵声、体罰、私は本当に愛されていないのだと思い知らされました」
それからというもの、エルフィアは必死に努力を重ねた。
お兄様に少しでも近づく為に、次に再開した時に自分を誇れるように、成長したと褒められる為に。
そして、そんなある日の事。
『貴様には結婚してもらう、異論は認めない』
無慈悲な一言が父親の口から放たれる。
当然、エルフィアは反発した。誰とも知らない男と結婚などと冗談ではないと、そう思っていたのだ。
しかし、父の「結婚に応じるならアルクェイドの居場所を教えても良い」という一言でエルフィアは首を縦に振る事となったのだ。
「契約をしました、お兄様に関する情報に嘘偽りを含める事は出来ないように、お兄様と少しでも長く過ごせるようにと」
結果はご覧の有様ですけどね、とエルフィアは自嘲気味に笑う。
「結局のところベルベットさんの言う通りなのですよ、私はお兄様に依存していただけで、きっと私を認め愛してくれるならお兄様以外の人でも良かったのです、その証拠に私はリリィにも自分の我儘を押し付けてしまった、自分のエゴでリリィを傷つけてしまった、初めて出来た友人に酷い言葉をかけてしまった、そんな私には、もう何かを望む資格など……きっとない」
ベルベットは何も言わず、何の反応も示さなかった。
それからエルフィアを元の空間に戻し、少女は一人、玉座で空を見上げていた。
「そういう答えもあったのかもしれないわね」
呟く声は、誰に届く訳でもなく溶けて消えていった。
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