通りすがりの竜騎士っすけど、何か?

ペケペケ

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第ニ章・お兄様をさがせ!

第四十四話

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 グラリと体を揺らしてアルフレッドは仰向けに倒れると呆然と口を開けていた。
 シーカーが拳を使った事もそうだが、少しも立ち上がる気にならなかった自分に驚きを隠せなかったのだ。

 アルフレッドがそうしていると、嬉しげに、そして誇らしそうな笑みを浮かべてシーカーは言う。

「私の勝ちだな、アルフ」

 そんなシーカーを見て、アルフレッドも小さく笑みを浮かべた。

「うん、そうっすね、俺の負けっすよ」

 そう口にするアルフレッドにシーカーは燻噛むような表情をする。

「やけに素直だな、槍でも降りそうなくらい珍しい」

 そんないつものような皮肉混じりの一言にアルフレッドは快活に笑った。

「確かにそうかもしれないっすね。でも……なんかシーカーなら良いかなって、そうおもったんすよ」

 シーカーは、そうか、と小さく応えると仰向けのアルフレッドの隣に腰を下ろして大きく息を吐いた。

 戦いの熱や緊張感、張り詰めていたものの全てを弛緩させる。
 そうして出来た少しの無言の後、アルフレッドは目を瞑りながら尋ねる。

「シーカー、もう一回だけ聞いてもいいっすか?」

 少しだけ不安の混じった声音にシーカーはその問いの内容を悟る。短くああ、とシーカーが応えるとアルフレッドは、いつかの質問をもう一度口にする。

「シーカーはもし俺が俺じゃなかったらどうするっすか?」

 シーカーは二度目の同じ問いに対し真剣に考える。
 それはアルフレッドの望む答えを出すためではなく、自分の出した答えに嘘をつかない為だ。

 数秒考え、シーカーは答えを出す。

「やはりどうしようもない、というのが私の答えだよ、アルフ」

 やっぱり答えは変わらないっすか、とアルフレッドは思う。しかしそれは落胆した訳ではない、言葉より多く交わした剣撃と拳がこの答えには理由があると告げるのだ。

 アルフレッドはその先を問い質す。

「理由、聞いていいっすか?」

 シーカーはそう聞かれた事に少しだけ安堵しながら答える。

「お前がお前でなかったら、この質問には意味がないからだ」
「意味が、ない?」
「仮にお前の体が別の誰かのものだったとしても、私が出会い、共に戦ったのはお前だからだ」
「でもそれならーー」

 ごちゃごちゃとアルフレッドが口を開ききる前に、シーカーは力強くその言葉を遮る。

「もっと簡単言うなら、私の友人はエルフィア嬢が指す剣聖ではなく、アルフレッド・ドラグニカという男だという事だ」

 臆面もなく、恥ずかしがる事もなく、シーカーがそう言い切るとアルフレッドは大爆笑した。

「なんすか、それ!」

 ドンドンと地面を叩きつけながら笑うアルフレッドにシーカーは不満気な表情を浮かべた。

「いや、笑うところではないと思うのだが」
「ごめんっす、悪かったっすよ、そんなに怒らないで欲しいっす」

 まったく、と呆れたようにシーカーがため息を吐くと、アルフレッドは上半身を起こして口を開く。

「そういえばリリィにも似たような事を言われたのを思い出したっすよ、自分の理想通りじゃないのは知ってるから俺に理想通りの人になって欲しいなんて思ってないって」
「それはまた、なんというかリリィらしいな」

 普通そう思っても口には出さないと思うのだが、とシーカーは思う。

「でもまあ、結局はそういう事なんすよね」

 よく考えてみれば自分の過去にこだわっていたのは妹を自称するエルフィアと自分自身だったと思う。
 リリィにもシーカーにもベルベットにも、誰からだって今の自分を否定された事などなかったのだから。

「はぁ、迷惑かけたっすね」

 自嘲するようにアルフレッドはそう言うとシーカーは全くだ、と肯定する。

「アルフ、不器用なお前が誰かの代わりなど土台無理な話だ、私は日頃からお前にしっかりとして欲しいだけで私の知りもしない英雄になって欲しいとは少しも思ってないよ」
「それは分かってるっすよ」

 当然それはアルフレッドも分かっていた、シーカーはアルフレッドに対して軽蔑も落胆もするがそれでも一度として敬意を忘れた事など無かったのだから。
 最初からシーカーがアルフレッドとして接していた事なんて、アルフレッドが一番よく分かっている事だった。

「なら良い、自分勝手でお人好しで馬鹿なお前じゃないなら私も張り合いがないだろう?」

 アルフレッドは、好敵手であり良き友人で在りたい、随分と前にシーカーにそう言われた事を思い出す。

「ああそういえば、聞いていなかったなアルフ」

 シーカーはアルフレッドの目を見て尋ねる。

「お前からの質問答えはこれでは不満か?」

 目元を隠し、少し震える声でアルフレッドは答える。

「ないっすよ。…………ありがとシーカー」

 例え血の繋がりが自分を否定しても、過去の名声と比べられようと、今を、自分を認めてくれる友がいる。
 そして、その友は決して一人ではない。

「アルフー! シーカー!」

 朝焼けを背に駆けてくる少女。その目には涙が浮かんでいた。

「二人の馬鹿! なんで本気で喧嘩するの!?」

 肩で息をしながらリリィはそんな事を言う。
 アルフレッドは訳が分からなくてポカンと口を開け、シーカーは何故か申し訳無さそうな表情を浮かべる。

「だがリリィ、私はちゃんと説明しただろう? アルフには一度キツく言わなくてはいけなかった、それは君も同意したじゃないか」

 言い訳をするように言葉を絞り出すシーカーにリリィの怒りが炸裂する。

「だからって急所に突きを入れたり、岩盤投げたりしないでしょ! 普通は!!」
「いや、リリィ、普通の攻撃ではアルフに傷一つつけられないのだが、それに岩盤をひっくり返したのはアルーー」
「言い訳はいいの!!」
「す、すまなかった」

 結局押し切られる形でシーカーは反省をし、その精霊剣士に反省を促すと、リリィはプンプンと怒りながらアルフレッドの眼前に迫る。
 そして、

「アルフ!! ありえないから!」
「えっ?」
「ワタシがアルフ以外の誰かを選ぶとかありえないから! ワタシの、ワタシの大事な人はアルフなの! エルフィアのお兄さんじゃなくてアルフなの!」

 リリィは両手でアルフレッドの頬を強く挟み込むと、泣きそうな顔で聞く。

「わかった?」

 ーーなんで、この子は俺の言って欲しいことが分かったんだろう?

 言葉にはしなかった、怖くて聞けなかった。
 大事な友達に唯一の居場所で自分の全てを否定されたら本当に生きていけない。アルフレッドはそう思っていた。
 シーカーとは拳を交わした、だから伝わるのは分かる。
 でも彼女は? リリィはなんで?

 そんな疑問が後から後から湧いてくる。

 そっと自分の頰に触れている手に握り小さく呟く。

「どうして、すか?」

 アルフレッドの曖昧な問いにリリィは笑みを浮かべて答えた。

「分かるよ、貴方がワタシにそうしてくれたんだから」

 そんな少女の言葉に、少年は小さく笑う。

「……ありがとう、リリィ」

 万感の思いをのせて、アルフレッドは応えた。

 すると、

「やっと自分が恵まれてる事に気付いたのかしら?」
「ベルベット?」

 何もない空間から褐色の少女が現れる。

「因みにアルフ、あーしはアンタを許すつもりはないわ、リリィの手を振り払ったり無視したり、正直何様のつもりだって言いたいわ」

 リリィはワタシは別にいいんだけどなあ、と少しリリィは苦笑いをする。

「それでも聖人のようなこの子……いや、天使?」
「ごめんベルそれはヤメて、本当にヤメて」

 恥ずかしいとかそういうレベルじゃない、友達からそんな風にみられているなんて勘弁して欲しかった。

「まあリリィが天使かどうかは置いておくとして、こんな良い子にこんな心配を掛けたのだからアンタが変わらなかったらあーしは本気で許さないわ」

 分かった? そう聞いてくるベルベットの眼は本気だった。
 アルフレッドもしっかりと視線を受け止め答える。

「大丈夫、分かってるっすよ」
「ま、それなら今回はいいわ、精々頑張りなさい今回の移動じゃあーし転移使わないから」
「移動? どっかに行くんすか?」

 その質問に対し、リリィは申し訳なさそうに口を開く。

「実は、アルフにお願いがあるの」

 申し訳なさそうにリリィはそう聞くと、ほぼノータイムでアルフレッドは答える。

「いいっすよ」

 しかし、リリィは首を横に振る。

「ダメ、ちゃんと話しを聞いてその上でアルフが決めて、お願い」
「でも答えは変わらないと思うっすよ?」
「それでも、お願い」

 答えが変わらないから、そう言って済ませてしまえる事ではないと悟るとアルフレッドはしっかりと頷いた。

「分かったっす、ちゃんと話しを聞くっすよ」

 リリィはありがとうと言って話しを始める。

「アルフはエルフィアの事をどう思った?」

 アルフレッドはそう言うことか、と納得すると確かに気軽に決めていい事ではなかったのだと思う。
 少しだけ考え、偽る事なく答える。

「少なくともいい印象はないっすね」
「その印象はもう取り返しがつかない? 話し合う気にもならない?」
「あんまり話したくはないっす、あの子は前の俺に思い入れが強すぎて、正直辛いっす」

 比較されても構わない、否定されても今なら大丈夫だろう、それでも家族を返せと言われるのは辛いものがあった。

 そう苦い顔をしていると、リリィは朗らかに笑った。

「アルフはやっぱり優しいね」

 唐突な言葉にアルフレッドは疑問符を浮かべる。

「優しい?」
「うん、だってアルフはエルフィアがやっちゃった事に対してじゃなくて、エルフィアに何もしてあげられない事に対してそう思うんでしょ?」
「それは……でもリリィとクロエっちを傷つけたし」
「ワタシとクロエさんはエルフィアの事を許してるよ、だからアルフの本当の気持ちを聞かせて? 本当にエルフィアを放って置いていいと思うの?」
「俺は……」

 分からない、とアルフレッドは思う。
 エルフィアの泣きそうな顔を思い出すだけで心が騒つく。しかし、会って話しをしたところであの子は自分を否定するだけだろう。

 ーーこれじゃあどうしようもないじゃないっすか。

 少し俯き気味に悩んでいると、不意にリリィから声がかかる。

「多分だけど、アルフは今どうしようもないとか、会ってもしょうがないって思ってない?」

 アルフレッドは驚く。

「なんで分かったんすか?」

 するとリリィはまた小さく笑った。

「だって悩むって事は悩んででもそうなりたい結果があるって事でしょ? それって答えは出てると思わない?」

 少し考えて、アルフレッドは声を上げた。

「本当っす、答え出てたっす! 俺はあの子を放って置きたくないんすね!」

 ベルベットとシーカーは呆れたようにため息を吐く。

「アルフ、普通に考えたらわかりそうなものなのだが、お前が本当にどうでもいいと思ってる人間の為にそこまで悩む訳がないだろう?」
「アンタ興味ない事で悩んだ事ないじゃない」
「なんか馬鹿って言われてる気がするんすけど」
「「そう言っているんだ!」のよ!」
「そ、そこまで言わなくてもいいんじゃない?」

 あはは、とリリィは困ったように笑う。

 そうだったのか、とアルフレッドが頷いているとリリィが尋ねる。

「放って置きたくない、これは本心?」

 その言葉にアルフレッドは深く頷く。

「じゃあアルフ、ワタシ達と一緒に王都に行こう」
「王都に? なんでっすか?」
「エルフィアが学園を辞めて王都に行ったからだよ」
「……………マジっすか?」

 本当だよ、と頷くリリィ。
 アルフレッドは目にかかる前髪をかき上げて小さく呟く。

「まったく、あの子は何をやってんすか」


 手のかかる妹だな、と晴れ晴れとした気持ちで少しだけ兄らしい事を思ってみたりするアルフレッドだった。








ーーーーーーーーーー



二部しゅーりょー。


はい、はい、すいません、おそいですよね!?

書こう書こうとしてはいましたが中々筆が進まず、くっ!

本当なら去年には終わるはずだったんだけどなー(白目)

まあアルフレッドくんもスッキリしたみたいだしまあいっか。

確か六部構成の筈なので次の三部でやっと半分ですね。
次こそは駆け足で走りきりたいのですが……。

まあそこは神のみぞ知るということで。
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