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第三章・石化魔眼の災厄蛇
第四十六話
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少しだけ狭い室内、窓を見ると景色が流れるように移り行く。
青い緑と濃いめの茶色、代わり映えのしない道を馬は必死に部屋を引きながら駆け抜ける。
その部屋は馬車だった。しかし、本来大きく揺れ動く筈の室内は全くと言っていい程に静かなもので、狭いながらも小さなテーブルが設置されており、人二人が足を伸ばす程度には座椅子に距離がある。
テーブルにはフルーツの盛り合わせのような物があったが、その場の二人は一切手をつけていない。
その代わり、少年の手には一冊の本があった。
題名は『ゴブリンでも分かる魔法解説』と書いてある。
赤髪の少年、アルフレッド・ドラグニカは口元を引きつらせて口を開く。
「あの~リリィさん、これは?」
雲と空を足して二で割ったような薄い水色の髪を耳にかけながら、リリィ・マクスウェルは竜騎士の質問に答える。
「何って、約束通り魔法のお勉強だよ?」
「あの、それって今じゃなきゃダメなんすか?」
何言ってるの? とリリィは少し怪訝な顔をする。
「魔境地帯に着くまで半日もあるんだよ? 馬車の中だと何も出来ないし、せっかくだからお勉強しよ?」
二人は王都へ赴く為に馬車を使っていた。
職業学園エルニーニョ、広大な敷地の外はある一箇所を除き全てが魔境地帯となっている。
王都に最短で向かうには魔境を突っ切ってしまうのが最も効率が良いとされているが当然リスクが多々あった。
一つ、魔境に決まった道順は存在しない。
二つ、通常領域と比べてモンスターの力量が遥かに高い。
三つ、魔境の特殊な環境が出る者を逃さないからだ。
そんな理由から魔境の地に辿り着く前に疲労しては大変だからと言ってルーベンスが無理やり手配したのがこの馬車だった。
因みにパーティメンバーであるシーカーとベルベットはもう一台の馬車に乗っている。
リリィの隣を巡って行われた死闘は語る者に苦笑いをさせるようなものだったと後にシーカーは語る。
「う、うーん、確かにやる事は無いっすけど、なんかこう、いざ勉強! ってなるとちょっと気後れするというか」
さあ勉強しよう! と意気込むリリィにアルフレッドはたじろぎながらそう答える。
確かにリリィに魔法を教えてくれとお願いしたのは自分だったが、実際に初めてみるとあまり自分に向いていないのだと思うのだ。
端的に言ってしまえばアルフレッドは勉強が嫌いだった。
そんなアルフレッドの内情を知らないリリィは満面の笑みで竜騎士に笑いかける。
「大丈夫だよ、ワタシがちゃんと教えてあげるから」
実はそういう話ではではないのだとアルフレッドは困ったように頬を掻くと、やりたくないという気持ちを察したのか焚きつけるようにリリィは言った。
「アルフは負けっぱなしでもいいの?」
皆目検討もつかないアルフレッドは首を傾げて聞き返す。
「負けっぱなしって誰にっすか?」
「エルフィア」
一拍も待つ事なく即答するリリィにアルフレッドは少し不機嫌そうにソッポを向くと、拗ねたように呟く。
「べつに、俺は負けてないっす」
もしかして気にしてた? とリリィは少し困ったように笑う。
でも本人がやりたくないなら仕方ないか、とリリィが口を開きかけると、ブスッとしたままアルフレッドがぶっきらぼうに言う。
「でもそうっすね、確かにやる事もないし勉強してもいいかも知れないっすね」
そんな強がりが微笑ましいのか、リリィはクスッと笑った。
「何で笑うんすか」
「アルフは負けず嫌いだなって思って」
「だから負けてないっすよ!」
あはは、とひとしきり笑い終わると、リリィはどこからかメガネ取り出すと、それを装着した。
「リリィって目が悪かったんすか?」
「そんな事をないけど……もしかして似合わない?」
「いや、いつもより知的に見えてカッコいいっすよ」
「そ、そう? ありがと」
少し頬を染めてリリィは、では始めますと小さく咳払いをして小さな杖を振るう。すると長方形の光が窓際に現れた。
「まず最初に、アルフは前に教えた魔法における五大属性は覚えてる?」
「えっと、地、水、火、風、空、だったすか?」
正解、と言ってリリィがもう一度杖を振ると、長方形の光に基本属性の図が現れる。
「基本属性、まあ五大属性っていうのが通説かな? これは宗派とか流派によっては解釈と呼び方が違うから一概にはこれが正しいとは言えないんだけどね」
「確か地は水に強く水は火に強いって感じだったすよね?」
「簡単に言ってしまえばね、ただ魔法はそう単純な物じゃないから、基本属性なんて言われてはいるけどもっと細かく分別出来るの」
ふむ、分からんっとアルフレッドは首を傾げる。
「例えば空の属性の魔法にもいくつか種類があって、エルフィアの使った雷は細かな分別をすると天の属性になるの、魔法っていうのは自然の体現みたいなものだから基本属性を含む魔法であっても空の属性を持った魔法が必ずしも水の属性を持った魔法を打ち消せる訳じゃない、ここまでは大丈夫?」
「ようは区別が面倒だから大まかに五つの属性を基本属性ってよんでるって事っすか?」
「正解です、とりあえずはそういう認識で大丈夫、本当はここで魔法の性質によってどういう分別がされるのか勉強するけど正直時間の無駄だから省くね」
「それは無駄な勉強なんすか?」
「今のアルフの場合は、だね、アルフに言ってなかったけど竜騎士って普通の魔法が使えないから」
少しの無言の後、アルフレッドは、えっ!? と目を見開いて驚く。
「竜騎士は少し特殊なクラスだからね、いま発見されてるEX職業で普通の魔法が使えないのは竜騎士と武神、戦闘鬼だったかな?」
「じゃ、じゃあ魔法を勉強しても意味ないんじゃ?」
そう衝撃を受けた少年に少女は朗らかに笑いながら諭す。
「アルフが普通の魔法を使えなくても学ぶ意味はあるよ、魔法の構築理論、魔法への対策、これは直感だけじゃどうしようもないから、アルフがもっと強くなりたいって思うならこの勉強は絶対無駄にならないよ」
「それはまあ、リリィの言う通りっすよね」
「それにワタシも少し竜騎士について調べてみて分かった事があるの」
「どんな事っすか?」
「竜騎士には固有スキルが多いの、他のEX職業に比べると段違いに」
「へぇ、どんなスキルがあるんすか?」
「確か、竜鱗、竜血、竜魔法だったかな? 竜騎士の特性は人が竜の力を操る、だから固有スキルが多いんだと思うんだけど」
「俺がよく使う竜の咆哮もその一つっすか?」
「そうだね、竜騎士の基本スキル竜の咆哮は竜魔法の括りだったはずだよ、因みにさっき言ったスキルだけじゃないらしいよ? 公になってる固有スキルが三つってだけで」
「そうなんすか、自分の職業なのに全然知らなかったっす」
「あんまり興味なさそうだもんね、アルフは他の竜騎士の方に会った事ないんだっけ?」
そうっすね、とアルフレッドは答える。
別に会わなくてもいいと思っていたし、他の竜騎士に全く興味がなかった事も理由の一つだった。
「そうだ、興味ないといえばリリィはなんで竜騎士の固有スキルとか知ってるんすか?」
えっ!? とリリィは固まる。そんな質問をされるとは思ってもみなかった、といった感じだった。
「そ、それは……ほら、ワタシ本をいっぱい読むし偶々読んだ本に書いてあったんだ」
ぎこちない笑みを浮かべて答えるリリィ。
「そうだったんすか、リリィは博識っすね」
と、アルフレッドが笑いながら納得すると、そのすぐ隣から「そんなわけないでしょ」と声がする。
目をやるとそこには白髪の少女が足を組んで座っていた座っていた。
「あのねぇアルフ、EX職業の情報ってアンタが思ってるよりも機密が高いのよ?」
「え、そうなんすか?」
「EX職業の固有スキルと派生条件は禁忌的な物が多いのよ、もちろん世に伝わっているものは真っ当なやつは別としてね」
「竜騎士もその禁忌的なもんなんすか?」
「竜騎士の場合は少し特殊なのよ、成り立ちが成り立ちだし、何より絶対数が少ないから」
だから、とベルベットは続ける。
「リリィには感謝しなさい、本当なら閲覧できない筈の大図書館からわざわざあーしに本を借りに行かせる程度には苦労して調べたんだから」
ニマニマと笑みを浮かべながらベルベットがそう言うと、リリィは顔を真っ赤にさせて立ち上がった。
「ちょっ! ベル!!」
「あら~言ってなかったのリリィ? ダメじゃないあーしの助手をしながらあんなに頑張って調べたのに」
からかいに興が乗ったのかベルベットは更に追い討ちを掛ける。
「確か~スキルとは何かって研究もアルフの為にしたんじゃなかったかしら~?」
ポロポロと口を滑らせる友人に、リリィは流石に怒った。本気で。
「いい加減にしないと、怒るよ? ベル」
穏やかな笑顔だった、それ以上喋ったら絶対に許さないといった雰囲気がひしひしと伝わってくる程に。
ベルベットは「おお怖い怖い」と言って指を鳴らし、その場から姿を消した。
白髪の童女が居なくなった後、大きなため息と共にリリィは呟く。
「はぁ、ベルのばか」
別に隠す必要があった訳ではなかったのだが特別ひけらかすものでもない、とも思っていたのだ。
ーーこれじゃあ恩着せがましくなっちゃうよ。
助けてもらった分リリィもアルフレッドの力になりたい、しかし力になる為にした努力を相手に伝えるのはリリィの理念からするとずるいと感じるらしい。
善意で助けになりたいが偽善的にはなりたくなかったのだ。
頬を紅潮させながら俯き気味に視線を逸らし、組んだ手の親指をくるくると回していると不意にアルフレッドが口を開く。
「ありがとうっす、リリィ」
何となくリリィの心中を感じ取ったのか、アルフレッドはそれ以上は何も言わずにリリィの返答を待つ。
「……うん、どう致しまして」
後でベルベットに仕返しをしようと心に決めて、リリィは大幅に脱線した話を元に戻す。
「それでアルフに覚えて欲しいのは魔法の構築理論、竜魔法が固有スキルだとしてもスキルの発言条件は基本的に同じはずだからワタシたち魔法使いが魔法を覚えるようにアルフも竜魔法を覚えてみよっか」
「簡単に言うんすね」
単語を聞いただけでもう難しそうだと竜騎士は少し顔を顰める。すると、
「大丈夫だよ、ワタシだって出来るんだからアルフに出来ないはずないよ」
少しも疑っていないようなリリィの瞳にアルフレッドは、幻滅されないように頑張ろう、と苦笑いを浮かべるのだった。
ーーーーーーーーーーーー
スーパー説明回
しかし説明不足が否めないのであった。
青い緑と濃いめの茶色、代わり映えのしない道を馬は必死に部屋を引きながら駆け抜ける。
その部屋は馬車だった。しかし、本来大きく揺れ動く筈の室内は全くと言っていい程に静かなもので、狭いながらも小さなテーブルが設置されており、人二人が足を伸ばす程度には座椅子に距離がある。
テーブルにはフルーツの盛り合わせのような物があったが、その場の二人は一切手をつけていない。
その代わり、少年の手には一冊の本があった。
題名は『ゴブリンでも分かる魔法解説』と書いてある。
赤髪の少年、アルフレッド・ドラグニカは口元を引きつらせて口を開く。
「あの~リリィさん、これは?」
雲と空を足して二で割ったような薄い水色の髪を耳にかけながら、リリィ・マクスウェルは竜騎士の質問に答える。
「何って、約束通り魔法のお勉強だよ?」
「あの、それって今じゃなきゃダメなんすか?」
何言ってるの? とリリィは少し怪訝な顔をする。
「魔境地帯に着くまで半日もあるんだよ? 馬車の中だと何も出来ないし、せっかくだからお勉強しよ?」
二人は王都へ赴く為に馬車を使っていた。
職業学園エルニーニョ、広大な敷地の外はある一箇所を除き全てが魔境地帯となっている。
王都に最短で向かうには魔境を突っ切ってしまうのが最も効率が良いとされているが当然リスクが多々あった。
一つ、魔境に決まった道順は存在しない。
二つ、通常領域と比べてモンスターの力量が遥かに高い。
三つ、魔境の特殊な環境が出る者を逃さないからだ。
そんな理由から魔境の地に辿り着く前に疲労しては大変だからと言ってルーベンスが無理やり手配したのがこの馬車だった。
因みにパーティメンバーであるシーカーとベルベットはもう一台の馬車に乗っている。
リリィの隣を巡って行われた死闘は語る者に苦笑いをさせるようなものだったと後にシーカーは語る。
「う、うーん、確かにやる事は無いっすけど、なんかこう、いざ勉強! ってなるとちょっと気後れするというか」
さあ勉強しよう! と意気込むリリィにアルフレッドはたじろぎながらそう答える。
確かにリリィに魔法を教えてくれとお願いしたのは自分だったが、実際に初めてみるとあまり自分に向いていないのだと思うのだ。
端的に言ってしまえばアルフレッドは勉強が嫌いだった。
そんなアルフレッドの内情を知らないリリィは満面の笑みで竜騎士に笑いかける。
「大丈夫だよ、ワタシがちゃんと教えてあげるから」
実はそういう話ではではないのだとアルフレッドは困ったように頬を掻くと、やりたくないという気持ちを察したのか焚きつけるようにリリィは言った。
「アルフは負けっぱなしでもいいの?」
皆目検討もつかないアルフレッドは首を傾げて聞き返す。
「負けっぱなしって誰にっすか?」
「エルフィア」
一拍も待つ事なく即答するリリィにアルフレッドは少し不機嫌そうにソッポを向くと、拗ねたように呟く。
「べつに、俺は負けてないっす」
もしかして気にしてた? とリリィは少し困ったように笑う。
でも本人がやりたくないなら仕方ないか、とリリィが口を開きかけると、ブスッとしたままアルフレッドがぶっきらぼうに言う。
「でもそうっすね、確かにやる事もないし勉強してもいいかも知れないっすね」
そんな強がりが微笑ましいのか、リリィはクスッと笑った。
「何で笑うんすか」
「アルフは負けず嫌いだなって思って」
「だから負けてないっすよ!」
あはは、とひとしきり笑い終わると、リリィはどこからかメガネ取り出すと、それを装着した。
「リリィって目が悪かったんすか?」
「そんな事をないけど……もしかして似合わない?」
「いや、いつもより知的に見えてカッコいいっすよ」
「そ、そう? ありがと」
少し頬を染めてリリィは、では始めますと小さく咳払いをして小さな杖を振るう。すると長方形の光が窓際に現れた。
「まず最初に、アルフは前に教えた魔法における五大属性は覚えてる?」
「えっと、地、水、火、風、空、だったすか?」
正解、と言ってリリィがもう一度杖を振ると、長方形の光に基本属性の図が現れる。
「基本属性、まあ五大属性っていうのが通説かな? これは宗派とか流派によっては解釈と呼び方が違うから一概にはこれが正しいとは言えないんだけどね」
「確か地は水に強く水は火に強いって感じだったすよね?」
「簡単に言ってしまえばね、ただ魔法はそう単純な物じゃないから、基本属性なんて言われてはいるけどもっと細かく分別出来るの」
ふむ、分からんっとアルフレッドは首を傾げる。
「例えば空の属性の魔法にもいくつか種類があって、エルフィアの使った雷は細かな分別をすると天の属性になるの、魔法っていうのは自然の体現みたいなものだから基本属性を含む魔法であっても空の属性を持った魔法が必ずしも水の属性を持った魔法を打ち消せる訳じゃない、ここまでは大丈夫?」
「ようは区別が面倒だから大まかに五つの属性を基本属性ってよんでるって事っすか?」
「正解です、とりあえずはそういう認識で大丈夫、本当はここで魔法の性質によってどういう分別がされるのか勉強するけど正直時間の無駄だから省くね」
「それは無駄な勉強なんすか?」
「今のアルフの場合は、だね、アルフに言ってなかったけど竜騎士って普通の魔法が使えないから」
少しの無言の後、アルフレッドは、えっ!? と目を見開いて驚く。
「竜騎士は少し特殊なクラスだからね、いま発見されてるEX職業で普通の魔法が使えないのは竜騎士と武神、戦闘鬼だったかな?」
「じゃ、じゃあ魔法を勉強しても意味ないんじゃ?」
そう衝撃を受けた少年に少女は朗らかに笑いながら諭す。
「アルフが普通の魔法を使えなくても学ぶ意味はあるよ、魔法の構築理論、魔法への対策、これは直感だけじゃどうしようもないから、アルフがもっと強くなりたいって思うならこの勉強は絶対無駄にならないよ」
「それはまあ、リリィの言う通りっすよね」
「それにワタシも少し竜騎士について調べてみて分かった事があるの」
「どんな事っすか?」
「竜騎士には固有スキルが多いの、他のEX職業に比べると段違いに」
「へぇ、どんなスキルがあるんすか?」
「確か、竜鱗、竜血、竜魔法だったかな? 竜騎士の特性は人が竜の力を操る、だから固有スキルが多いんだと思うんだけど」
「俺がよく使う竜の咆哮もその一つっすか?」
「そうだね、竜騎士の基本スキル竜の咆哮は竜魔法の括りだったはずだよ、因みにさっき言ったスキルだけじゃないらしいよ? 公になってる固有スキルが三つってだけで」
「そうなんすか、自分の職業なのに全然知らなかったっす」
「あんまり興味なさそうだもんね、アルフは他の竜騎士の方に会った事ないんだっけ?」
そうっすね、とアルフレッドは答える。
別に会わなくてもいいと思っていたし、他の竜騎士に全く興味がなかった事も理由の一つだった。
「そうだ、興味ないといえばリリィはなんで竜騎士の固有スキルとか知ってるんすか?」
えっ!? とリリィは固まる。そんな質問をされるとは思ってもみなかった、といった感じだった。
「そ、それは……ほら、ワタシ本をいっぱい読むし偶々読んだ本に書いてあったんだ」
ぎこちない笑みを浮かべて答えるリリィ。
「そうだったんすか、リリィは博識っすね」
と、アルフレッドが笑いながら納得すると、そのすぐ隣から「そんなわけないでしょ」と声がする。
目をやるとそこには白髪の少女が足を組んで座っていた座っていた。
「あのねぇアルフ、EX職業の情報ってアンタが思ってるよりも機密が高いのよ?」
「え、そうなんすか?」
「EX職業の固有スキルと派生条件は禁忌的な物が多いのよ、もちろん世に伝わっているものは真っ当なやつは別としてね」
「竜騎士もその禁忌的なもんなんすか?」
「竜騎士の場合は少し特殊なのよ、成り立ちが成り立ちだし、何より絶対数が少ないから」
だから、とベルベットは続ける。
「リリィには感謝しなさい、本当なら閲覧できない筈の大図書館からわざわざあーしに本を借りに行かせる程度には苦労して調べたんだから」
ニマニマと笑みを浮かべながらベルベットがそう言うと、リリィは顔を真っ赤にさせて立ち上がった。
「ちょっ! ベル!!」
「あら~言ってなかったのリリィ? ダメじゃないあーしの助手をしながらあんなに頑張って調べたのに」
からかいに興が乗ったのかベルベットは更に追い討ちを掛ける。
「確か~スキルとは何かって研究もアルフの為にしたんじゃなかったかしら~?」
ポロポロと口を滑らせる友人に、リリィは流石に怒った。本気で。
「いい加減にしないと、怒るよ? ベル」
穏やかな笑顔だった、それ以上喋ったら絶対に許さないといった雰囲気がひしひしと伝わってくる程に。
ベルベットは「おお怖い怖い」と言って指を鳴らし、その場から姿を消した。
白髪の童女が居なくなった後、大きなため息と共にリリィは呟く。
「はぁ、ベルのばか」
別に隠す必要があった訳ではなかったのだが特別ひけらかすものでもない、とも思っていたのだ。
ーーこれじゃあ恩着せがましくなっちゃうよ。
助けてもらった分リリィもアルフレッドの力になりたい、しかし力になる為にした努力を相手に伝えるのはリリィの理念からするとずるいと感じるらしい。
善意で助けになりたいが偽善的にはなりたくなかったのだ。
頬を紅潮させながら俯き気味に視線を逸らし、組んだ手の親指をくるくると回していると不意にアルフレッドが口を開く。
「ありがとうっす、リリィ」
何となくリリィの心中を感じ取ったのか、アルフレッドはそれ以上は何も言わずにリリィの返答を待つ。
「……うん、どう致しまして」
後でベルベットに仕返しをしようと心に決めて、リリィは大幅に脱線した話を元に戻す。
「それでアルフに覚えて欲しいのは魔法の構築理論、竜魔法が固有スキルだとしてもスキルの発言条件は基本的に同じはずだからワタシたち魔法使いが魔法を覚えるようにアルフも竜魔法を覚えてみよっか」
「簡単に言うんすね」
単語を聞いただけでもう難しそうだと竜騎士は少し顔を顰める。すると、
「大丈夫だよ、ワタシだって出来るんだからアルフに出来ないはずないよ」
少しも疑っていないようなリリィの瞳にアルフレッドは、幻滅されないように頑張ろう、と苦笑いを浮かべるのだった。
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しかし説明不足が否めないのであった。
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