20 / 140
奥様会(1)
しおりを挟む◆◇◆◇◆
国王妃の仕事は多岐にわたる。
王が出席する国内行事にはほとんど同席するし、教会が運営している各地の孤児院への定期的な訪問、炊き出しなどのボランティア活動、芸術鑑賞会への出席、などなど、国民の母の象徴というイメージ付けなのかその地域で暮らす人々の言葉や生活に触れ、うふふと微笑むことを多く求められる。
それらの仕事は当然僕に向いてない。
かなり苦手で苦痛だ。
一日の終わりにはすっかり体力を消耗し、表情筋は凝り固まっている。
そんな僕を労う形で就寝前になると決まって、ほかほかタオル片手にクオーツが喜んでオイルマッサージをしてくるのだが……悔しい事にあいつ、なかなかに上手くて、気持ちいいから、あまりにも凝りが酷い時には僕の方から「やって…」と頼んでしまう事も……たまにある。
その時のヤツのにまにま顔が鬱陶しいの極み!悔しい!だがしかし、背に腹はかえられぬ!
そんな数々のお役目の中でも群を抜いて憂鬱なのが、今日これから出席する要人達の奥様方が集って意見を取り交わすお茶会―――という名の奥様方の井戸端会議だった。
「ラズ様、お顔。ちゃんと作ってください」
「うぅ…憂鬱すぎて既に口角動かん」
国を代表する各要人のトップがクオーツなら、それら主要人物の奥様方のトップは国王妃である僕になり、王城の庭園で開かれるこのお茶会も本来であれば僕主催という形、なのだが……もはやただそこに座って存在するだけの人形と化すくらい、僕が口を挟む隙など無い言葉の応酬が行われる。
今日の話題の火の粉が飛んできませんように…そう願いながら、はぁ……と大きくため息を吐き、覚悟を決めると奥様方が待つ庭園へと歩みを進めた。
「まぁっ聞きました!?あそこの娘さん家同士の不仲で離縁なされるそうよ?」
「うちの主人最近帰りが遅くて絶対怪しいんですっ」
「そのアクセサリーどちらの物です?とても素敵」
色とりどり綺麗なドレスに身を包んだ奥様方が長机を5:5で囲い、お誕生席に僕が座るといういつもの座席。今日も各自様々な話題が飛び交う中、一応近くの奥様方の話を聞いてるふりしながら永遠と紅茶を飲み続けていると、ふと、聞き捨てならない単語を耳が拾った。
「そういえば、騎士団長のラルド様もそろそろいいお年ではなくて?」
!?
「確かにそうよね!何かいいお話はないのかしら…まずアルファでしょ?そしてあの若さで地位を確立して見目も麗しいお方なのに」
「私の娘とか如何かしらっ」
「それを言うなら私の息子も優良よ!」
なっ、なっ、何を言い出すんだこの人たちは!!
ラルド様に嫁だと!?そんなの、そんなの―――
「絶対反対!!」
「ラズ様!?」
突如としてバンッと立ち上がる僕に全員の視線が一気に集中した。いつもだったら、うっ、と狼狽えるシチュエーションだが、ラルド様が関わってるとなれば話は別だ。僕の勢いは止まらない。
「ラルド様は、ラルド様が心から愛した方と結ばれて幸せになるっていうゴールインしか認められません!勝手に外野が口出すのは禁止です!強要ダメっ絶対!」
ふんすっと鼻息荒く言い切る僕を唖然と見上げる奥様方の視線。後ろに控えるマリンの「ラズ様…」という呆れた声ではっと我に返ると急激に顔が熱くなるのを感じながら慌てて椅子に座り直す。
いまだ熱く熱を持つ顔をパタパタ手で扇ぎながら、視線が怖くて顔が上げられない。
うぅ…穴があったら入りたい逃げ出したい……
しん――と静まり返る地獄みたいなこの状況を誰か何とかしてくれぇ……と完全に他人任せでギュッと目を瞑ると、とあるご夫人の言葉が止まっていた時間を動かした。
「す……素敵!ラズ様の臣下に対する熱い想いに感動ですわぁ!」
「ここまで臣下を想っているなんて……さすが国民の母ですわね」
「私達も見習わなくちゃ」
「え、え……」
思わぬ方向に進みながらもなんとかこの場はいい王妃という形で収まりかけた、かと思われたが―――
「ところで、それを聞いてラルド様、今のご心境はいかがです?」
「え……」
何故、今この場にラルド様が居るような質問をするのだろうか……
要人の奥様方が集まる会だとはいえ、城内の警備に当たるのは騎士団ではなく警備隊。
ラルド様がいるはずが――
そう思う僕の後ろで、カツン、と洗礼された足音が鳴り響いた。
1,094
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる