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2【1泊2日の慰安旅行】
2-12 誤解(2)
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手を繋ぎ寄り添う2人が去っていくのを物陰で見届け再びガゼボへ戻った時、後ろから人の気配と共におつかれさん、と声をかけられる。
振り向けば缶ビール片手に、よ、と手を挙げる水嶋くんがそこにはいた。
「水嶋くん…お疲れ様」
「社長がいない宴会は誰が締めるんだよ」
「そうだよね、戻らないとなぁ…」
とは言っても、はぁとため息を漏らすだけで立ち上がる気が全く起きない。
そんな私を見た水嶋くんからもため息が聞こえ、そっち詰めろと言われるがまま少し左へずれると無理やり割り込むように腰をおろし缶ビールが渡される。
プシュッと気持ちいい音がふたつ静かな空間に響き渡った。
「っはー、やっぱりお酒って静かに飲むのがいちばん美味しい」
「はいはい」
冷えた缶ビールの水滴を感じながら夜空を見上げる。山の中だからか、星がとても綺麗だった。
「そっちは大丈夫そ?家の事、戻って来いって言われてるでしょ」
「俺の事は気にするな。俺の人生好きに生きる」
「その水嶋くんの好きに生きてる人生が私の隣だという事が光栄です」
「うっせ」
あははと笑うと再び沈黙が訪れる。
「そろそろ息子達が巣立っていきそうだよ」
「やっとだな」
「やっと、なのかなぁ…つかさくんと出会ってうちに招き入れてから10年も経つのか…あっという間。年もとるわけだ」
「俺らとっくに40過ぎだぞ、おっさんがしみじみするな」
「水嶋くん~また私はひとりぼっちになってしまうよ~寂しい~」
「うわ、酔ってんのかよ、やめろやめろ」
右側に全体重を乗せ、グリグリともたれかかる。
昔から何かあればこうして肩を並べ静かに受け止めてくれた変わらない存在。思えば人生の半分以上を共に過ごしてきている。
「水嶋くんはいなくならないでね……」
「……っ、酔っ払いはさっさと部屋戻って寝ろ!あっちは俺がお開きにしておくから」
「え~もっと一緒に飲もうよ~」
「やめろ!離せ!」
私はズルい。
――知弦くん、僕ね結婚するんだ、子供ができた。
そう告げた時の彼の表情は、いまだに頭をよぎる。それでもこうして隣にいてくれる彼の変わらない気持ちには気付いているのに……本当に、ズルい奴。
息子達には何も縛られずただ幸せになって欲しい……そう思いながら水嶋くんの説教を笑って聞き流すのだった。
*****
楓真くんに連れられ向かった先は僕達が泊まるのと同じ東館。だけどそのエレベーターはとっくに3階を通り過ぎ、最上階へとたどり着いた。
フロアに対して2部屋しかないそこは、客室の扉を開けると僕たちの部屋以上に海が一望できる大きな窓とそれを眺めるようにして置かれた大きなベッドが印象的で、月明かりだけで照らすその光景がとても神秘的だった。
もちろん外にはバルコニーも存在し、露天風呂が湯けむりを立てわいている。
「すごい部屋ですよね、一人で使うには勿体なかったので来ていただけてよかった」
部屋に圧倒され立ち尽くす僕の横を通り過ぎる楓真くんは冷蔵庫の方へ向かい、なにか飲みますか?と尋ねてくる。
「大丈夫、お構いなく…」
そう答えるとしばらくして戻ってきた楓真くんから水のペットボトルをどうぞ、と差し出される。
それを受け取ると2人揃ってソファへと腰を下ろした。
微かに波の音だけが聞こえる静かな空間。
落ち着きなくさまよう視線がふと時計に止まると、そろそろ日付が変わろうとしていることを知る。いつまでもこうしているわけにはいかず、さっさと楓真くんの誤解を説明したいのに、どこから話せばいいのか、なかなか考えがまとまらず切り出せないでいると、あの、と楓真くんの方から声が上がった。
「さっきの父さんのあの反応から椿姫秘書の話は全て誤解だというのはだいたいわかってはいるのですが、やっぱり直接つかささんの口から聞きたいです」
「うん」
「どうしてつかささんは父さんと暮らすようになったんでしょうか……」
「……そうだね、少し長い話になっちゃうけど、聞いてくれるかな」
「もちろんです。聞かせてください」
僕の目を見てしっかり頷いてくれる楓真くんに僕も小さく頷き返す。
そして今から話すそれはいままで楓珠さんにしか話したことの無い僕の悲しい昔ばなし。
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