【本編完結】欠陥Ωのシンデレラストーリー

カニ蒲鉾

文字の大きさ
31 / 67
2【1泊2日の慰安旅行】

2-12 誤解(2)

しおりを挟む

 
 *****
 

 
 手を繋ぎ寄り添う2人が去っていくのを物陰で見届け再びガゼボへ戻った時、後ろから人の気配と共におつかれさん、と声をかけられる。
 振り向けば缶ビール片手に、よ、と手を挙げる水嶋くんがそこにはいた。
 
 
「水嶋くん…お疲れ様」
「社長がいない宴会は誰が締めるんだよ」
「そうだよね、戻らないとなぁ…」
 
 
 とは言っても、はぁとため息を漏らすだけで立ち上がる気が全く起きない。
 そんな私を見た水嶋くんからもため息が聞こえ、そっち詰めろと言われるがまま少し左へずれると無理やり割り込むように腰をおろし缶ビールが渡される。
 プシュッと気持ちいい音がふたつ静かな空間に響き渡った。
 
 
「っはー、やっぱりお酒って静かに飲むのがいちばん美味しい」
「はいはい」
 
 
 冷えた缶ビールの水滴を感じながら夜空を見上げる。山の中だからか、星がとても綺麗だった。
 
 
「そっちは大丈夫そ?家の事、戻って来いって言われてるでしょ」
「俺の事は気にするな。俺の人生好きに生きる」
「その水嶋くんの好きに生きてる人生が私の隣だという事が光栄です」
「うっせ」
 
 
 あははと笑うと再び沈黙が訪れる。
 
 
「そろそろ息子達が巣立っていきそうだよ」
「やっとだな」
「やっと、なのかなぁ…つかさくんと出会ってうちに招き入れてから10年も経つのか…あっという間。年もとるわけだ」
「俺らとっくに40過ぎだぞ、おっさんがしみじみするな」
「水嶋くん~また私はひとりぼっちになってしまうよ~寂しい~」
「うわ、酔ってんのかよ、やめろやめろ」
 
 
 右側に全体重を乗せ、グリグリともたれかかる。
 昔から何かあればこうして肩を並べ静かに受け止めてくれた変わらない存在。思えば人生の半分以上を共に過ごしてきている。
 
 
「水嶋くんはいなくならないでね……」
 
「……っ、酔っ払いはさっさと部屋戻って寝ろ!あっちは俺がお開きにしておくから」
「え~もっと一緒に飲もうよ~」
「やめろ!離せ!」
 
 
 私はズルい。
 
――知弦くん、僕ね結婚するんだ、子供ができた。
 
 そう告げた時の彼の表情は、いまだに頭をよぎる。それでもこうして隣にいてくれる彼の変わらない気持ちには気付いているのに……本当に、ズルい奴。
 
 
 息子達には何も縛られずただ幸せになって欲しい……そう思いながら水嶋くんの説教を笑って聞き流すのだった。
 
 
 
 *****
 
 
 楓真くんに連れられ向かった先は僕達が泊まるのと同じ東館。だけどそのエレベーターはとっくに3階を通り過ぎ、最上階へとたどり着いた。
 フロアに対して2部屋しかないそこは、客室の扉を開けると僕たちの部屋以上に海が一望できる大きな窓とそれを眺めるようにして置かれた大きなベッドが印象的で、月明かりだけで照らすその光景がとても神秘的だった。
 
 もちろん外にはバルコニーも存在し、露天風呂が湯けむりを立てわいている。
 
 
「すごい部屋ですよね、一人で使うには勿体なかったので来ていただけてよかった」
 
 
 部屋に圧倒され立ち尽くす僕の横を通り過ぎる楓真くんは冷蔵庫の方へ向かい、なにか飲みますか?と尋ねてくる。
 
 
「大丈夫、お構いなく…」
 
 
 そう答えるとしばらくして戻ってきた楓真くんから水のペットボトルをどうぞ、と差し出される。
 それを受け取ると2人揃ってソファへと腰を下ろした。
 
 
 微かに波の音だけが聞こえる静かな空間。
 
 落ち着きなくさまよう視線がふと時計に止まると、そろそろ日付が変わろうとしていることを知る。いつまでもこうしているわけにはいかず、さっさと楓真くんの誤解を説明したいのに、どこから話せばいいのか、なかなか考えがまとまらず切り出せないでいると、あの、と楓真くんの方から声が上がった。
 
 
「さっきの父さんのあの反応から椿姫秘書の話は全て誤解だというのはだいたいわかってはいるのですが、やっぱり直接つかささんの口から聞きたいです」
「うん」
「どうしてつかささんは父さんと暮らすようになったんでしょうか……」
「……そうだね、少し長い話になっちゃうけど、聞いてくれるかな」
「もちろんです。聞かせてください」
 
 
 僕の目を見てしっかり頷いてくれる楓真くんに僕も小さく頷き返す。
 
 
 そして今から話すそれはいままで楓珠さんにしか話したことの無い僕の悲しい昔ばなし。
 
 
 

 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

処理中です...