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第3章

負の根源(2)

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 外側から封じられた部屋から抜け出すには、やはり窓から行く以外の方法がなく、ルイとカイが来たルートを今度はアランも一緒になって辿っていく。
 
 
 
 ―――が、
 
 
「……お前らよくこれを行こうと思ったな」
「団長気を付けてくださいねぇ~」
「落ちたら一瞬であの世逝きです」
 
 
 アラン達に与えられた部屋は4階。
 飛び降りるには高さがあり過ぎた為、180後半以上の上背がある大男三人が、ベランダの無いシンプルな窓のちょっとした出っ張りを伝っての大移動をせざるを得なかった。
 ルイを先頭に、アラン、カイの順番で着いていく。
 幸い、森に面しているため見張りの目を気にしなくていい事と、風がないという事だけが救いだった。
 
 
 アランの部屋、ルイの部屋、カイの部屋と無人の部屋を窓越しに通り過ぎていく。
 
 
「はぁ…こんな過酷な移動は久々だな…」
「そっすね~水なしの砂漠横断以来っすかね~」
「確かにあれはキツかったですね…誰かさんが荷物全て盗まれるから…」
「まさかあんな綺麗なお姉さんが盗賊団の一味だとは思わんし~っ悔しい!」
「「どんまい」」
 
 
 声のボリュームは抑えているとはいえ、誰もいないとわかっていると幾分気持ちが楽になり、自然と会話も弾んでしまう。 
 軽口を叩きながらも手足はしっかり動かし進めて行った。
 
 
「あとちょっと行けば窓の鍵が開いてる部屋にたどり着くっすよ~」
「やぁホント、親切なメイドさんと知り合えてよかったです。ねぇルイ」
「だよな~」
「……頼むから後腐れなくしといてくれ」
 
 
 「「はーい」」と声を揃えて返事をする無邪気な笑顔の裏で二人がどのような手段を用いてお近付きになっているのか、そこには深く首を突っ込まないようにし、結果だけを待つに徹するのがアランの上司としての長年の努めだった。
 
 
 ようやく目的の部屋へ到達したらしい。先頭を行くルイが「ココっす」と嬉々として報告してくる。
 
 
「ルイ、周囲を確認して慎重に」
「はーーい」
「カイ、後ろは頼んだぞ」
「お任せ下さい」
 
 
 二面ある内の一箇所の窓の鍵が開いている部屋。物置部屋なのか明かりも灯らず、人の気配もない。その代わり物が所狭しと置かれていた。
 
 先に室内へ入り込んだルイの合図に続いてアランもカイも窓枠を越えていく。
 すぐさま廊下の様子を伺いに行くルイの背中にどうだ、と問えば「超絶ナイスタイミングっす」と後ろ手に親指を立てたポーズが返ってきた。
 
 
 施錠もされていない扉を薄く開けた隙間をアランも覗けば薄暗い廊下に足音が遠ざかっていく。
 歩幅や音からして、女性の足音だと予想がついた。
 
 
「行くっすよ~」
 
 
 極力気配を消し、サッと廊下へ躍り出る。
 ここからはアランが先頭に立って進んでいく番。
 このような深夜の時間帯にメイドが動く理由は数少ない。間違いなくあの足音に着いていけば何かがわかる、そう判断し音の消えた方へ歩みを進めた。
 



 
 階段をおり、何度も廊下を曲がり、後をつけること幾ばくか。
 予想通り、メイドの姿が消えたのは不自然に見張りが立つ王宮の奥まった場所に存在する地下へと続く階段だった。

 
 見張りは―――ひとり。
 
 
「カイ、後方の様子は」
「誰も来ません」
「ルイ」
「いつでも行けるっす~」
 
「………行け」
 
 
 アランの合図で一斉に双子が動き出す。
 廊下を灯す僅かな蝋燭の灯りを消すことで、奥まった場所の光源は瞬く間に消え、あたりは闇に包まれる。
 
 
「なんだ!?――っヴ!?」
 
 
 怯んだ一瞬のすきに背後へ近付いたアランが手刀を叩き込み、簡単に見張りを落とす事に成功した。
 
 
「うわ、チョロー…」
「見張りがザルすぎません?」
「油断するな、先を行くぞ」
「「はーい」」
 
 
 暗闇が底の方まで広がる地下への階段を三人は無言で降りていった。
 
 
 
 
 
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