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しおりを挟む翌日。
抜けるような晴天でまさに結婚式日和。
まるで二人を祝福しているようだ。
「キャス、準備は良いか?」
「ええ、大丈夫よ」
控え室の向こうからヒースの声がする。
声に応えて出ると、私の姿を見た彼がふんわりと微笑んだ。
「似合ってるな」
「でしょう?この日に相応しい色だと思わない?」
「最高」
ドレスの色を誇らしげに胸を張り見せる私に、ヒースはくすくすと笑いを返してくれる。
私が着ているのはもちろんこの日の為に誂えた純白のドレスなどではない。
レースをあしらった漆黒のドレスだ。
きっと今頃オリオンは純白のドレスを着た私を待っているのだろう。
純白のドレスなんて、あんな奴の為に着てやるものか。
「では参りましょうか」
芝居がかったセリフで私をエスコートするヒース。
それに頷き、私達は裁きの場へと移動した。
*
(オリオン視点)
もうすぐだ。
もうすぐキャスが俺の物になる。
幼い頃に決められた婚約者。
親同士が決めたものだと彼女は思っているが、正しくは幼い頃に一目惚れした俺が懇願して懇願してやっと婚約に漕ぎ着けたのだ。
長いプラチナブロンドに薄橙の瞳。
つぶらな瞳も小ぶりな唇もふわりとした微笑みも鈴のなるような声も何もかもが俺の好みど真ん中で、絶対に手に入れたいと思った。
婚約が結ばれる前から結ばれた後も、ずっとずっとキャスを大事にしてきた。
成長したキャスは可愛さの中に色気も出てきて、ふとした時に見せる横顔や風に靡き見える耳と首筋に何度喉を鳴らしたかわからない。
キャスと一緒にいると他の男達からの羨望の眼差しを浴びて、それがまた気分が良かった。
初めてのキスを拒まれたのは悲しかったが、貞操観念がしっかりしていると思えば安心出来る。
結婚さえしてしまえばこの極上の女がただ一人、俺だけのものになるのだから。
キスをして、柔らかそうな肌に触れ、細い腰を貫くのはどれほど心地良いのだろうか。
彼女を腕に抱く事を望み続け、キスくらいは良いだろうとふいに唇を何度か狙ってみたが思った以上にキャスは隙がなく避けるのが上手くて一度も成功しなかった。
とはいえ健全な男が性欲を我慢し続けられるはずがない。
極上の女が傍にいて抱けずに悶々としているだけなんて堪えられるはずがない。
だから俺は……
『キャスに出来ない事、私にしてみない?』
キャスの従姉妹であるミリーにそう声を掛けられ、これ幸と身体を重ねた。
キャスには出来ない事、と言った通りにミリーは何でもさせてくれたししてくれた。
従姉妹だけあって何となく雰囲気は似ていたから抵抗はなかった。
これがキャスだったらと想像しただけで興奮が止まらず、キャスだったらこんな反応をするだろうかと抱く度に脳裏に彼女を想い描いていた。
これは式までの火遊び。
式が終わり本物が手に入れば紛い物などに用はない。
昨日突然訪ねて来られた時に『また呼ぶ』と言った気もするがそんな気はさらさらない。
ベッドでの睦言などあいつだって本気にしていないだろう。
ミリーだって『式前日の新郎を寝取る』シチュエーションに酔っているみたいだったからな。
それに何より従姉妹の婚約者を誘うような女だ、他にも相手がいるに決まっている。
カーンカーンと鐘が鳴る。
花嫁が入場する合図だ。
(いよいよだ)
この日の為に誂えた純白のドレスはどんな仕上がりになっただろうか。
キャスの白い肌に純白のドレスはさぞかし似合うだろう。
当日までのお楽しみだと最後までデザインは知らされていなかったので楽しみだ。
そう考えると更に初夜への期待が高まり、早くキャスと誓いの言葉を交わし宴会などそこそこにベッドへと引き摺り込みたい衝動に駆られる。
早く来て欲しい。
早く、早く早く早く早く早く
ゆっくりと扉が開く。
やっとだ。
やっと、キャスが……!
この国では式のエスコートは一族の年長者が務める事になっている。
キャスの一族の年長者は彼女の祖父だ。
とはいえもう相当朦朧していて目も悪く足も悪いようでかなりゆっくりと本当に少しずつこちらに近付いてくる。
どちらがエスコートしているのかわかったものではない。
時折キャスが足早になり祖父が躓きそうになっているのが彼女らしくないが、緊張しているのか気がはやっているのだろう。
そんなに早く俺の元へ来たいのか。
可愛いな。
純白のドレスはキャスにしては珍しく鎖骨と肩を大きく出したセクシーなものだった。
長いベールに覆われているが、背中も大きく開いているのだろう。
今まではぴっしりと肌を隠すようなものが多かったので、露わにされた肌に知らず喉が鳴る。
俺の為に、俺の好みそうなドレスを選んでくれたのだろうか。
何て可愛いんだ。
いじらしいんだ。
心なしか、想像よりも胸が大きい気がするがそれは嬉しい誤算だ。
引き締まった腰も、張りのあるお尻もたまらない。
これでは式の最中ですら我慢出来るかわからない。
縮まる距離と荒くなる呼吸。
「さあ、こちらへ」
待ちきれずに間近に来た瞬間手を伸ばしてしまう。
彼女はそれに素直に応じ、祖父は他の親族に引き渡され席へと着いた。
その後滞りなく式は進み、いざベールを上げる。
照れくさそうにしているだろうか。
感動して泣きそうになっているだろうか。
幸せそうに微笑んでいるだろうか。
そんな想像をしていた俺の目に飛び込んできたのはそのどの表情でもなく。
「………………え?」
満面に笑みを浮かべたミリーだった。
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