5 / 11
5
しおりを挟む視線をエリオットから陛下に戻す。
許しの言葉を告げていない私にもう良いのかという視線を返されたが、まだまだ本番はこれからですから。
にっこりと微笑むと陛下は苦笑い。
次にこの話の元凶であるジュリに視線が向けられた。
「さて、ジュリとやら。お主の件に関しても報告があがっておる」
陛下がそう言うとジュリがびくりと震える。
報告って何の、と言いたげな表情だけれどわかっているでしょう?
貴女色々しているものね。
「恐れながら陛下」
「何だ?」
「そのご報告に関して、引き続き私からジュリさんにお話をしてもよろしいでしょうか?」
「ふむ」
口を挟んだ私を咎めず興味深そうに顎髭をさする陛下。
んん、素敵なおじさまのその仕草最高です。
ここがこんな場でなければ叫んでいたところだわ。
「許可しよう。一番の被害者はお主だろうからな」
「感謝致します」
これだってこの場でわざわざやる必要のない話だが、私の思惑に気付いたのだろう。
許可を出すその表情は酷く楽しそうだ。
傍らにいる王妃様も表面上はとても美しい微笑みを浮かべたままだが、やっちまいなと親指を立てているのがありありとわかる。
王妃様もあのジュリには手を焼いていたからね。
可愛い息子がこんな女に良いように使われているのも気に食わないし、自惚れではなくお気に入りの私が悪様に言われているのも気に食わなかったらしい。
仮にジュリがゲーム通りの良い子だったら良かったのだろうけど、まあお察しである。
誰だってあちらこちらに尻尾振ってる見境のない女をお嫁さんにはしたくないわよね。
特に王族なら尚更。
つい先日呼び出されたお茶会で今日の事を少し仄めかしたら『貴女の好きになさい。いくらでも援護するわ』と太鼓判を押されましたとも、ええ。
王妃様の口から陛下にも色々と伝わっているのだろう。
両陛下の許可が得られればこちらのもの。
私を断罪して恥をかかせようとしたんでしょうが、そうは問屋は卸しません。
大勢の前で侮辱してくれたんだから、当然同じようにやり返される覚悟はあるわよね?
ここから全力で反撃させていただきます。
「ジュリさん」
「な、何よ」
声を掛けると一瞬びくりとしたジュリだったが、相手が私という事もあり対する返事は強気だ。
私になら勝てると思ってるんだろうなあ。
ジュリが正義で『シャーロット』が悪。
これまでどんなに虐げてもやり返して来なかったから、ここでもどうにかしてやりこめてやろうという気概を感じる。
私がやり返して来なかったのは確実に証拠を集める為と単に相手にするのが面倒なだけだったのだが、ジュリと周りの塵芥達は私に反撃をするだけの力も根性もないものと思い込んでいる。
ゲームの『悪役令嬢』が力も根性もない訳ないでしょうに。
「まずはお礼を言わせて欲しいの」
「え?」
何言ってんだこいつという顔で見られる。
周りの皆も同様だ。
私がジュリにお礼を言う理由はただひとつ。
「私とエリオット様の婚約を破棄させてくれて、本当にありがとう」
この日をどれだけ待ち侘びた事か。
「な、どうして?どうしてそんなに嬉しそうなのよ!?」
「だから、婚約破棄出来たからよ?」
「だからどうして婚約破棄されて嬉しそうなのよ!?エリオットくんが好きなんでしょ!?」
「いいえ、全く。これっぽっちも」
晴れ晴れとした気持ちで自然と浮かぶ笑みを溢れさせて告げると、ジュリとエリオットの表情が凍りつき周りの面々は戸惑っている。
そうよね、私がこの塵芥を好きだと、愛していると思っていたんですものね。
ありえない勘違いをずっとしていたんですものね。
「国が決めた婚約者だもの、それ以上でもそれ以下でもないわ」
「ど、どういう事だ!?お前は俺を愛していたのでは……!?」
「ですからこれっぽっちも愛しておりませんと申しております」
「な、な……!?」
一瞬復活したエリオットが淡々とした私のセリフにショックを受けている。
嫌っている相手に好かれていないとわかってどうしてショックを受けているのかしら。
そしてやっぱりまだ私が自分を愛していると勘違い続行中だったのね。
「まあまあもしかして貴方を好きだから自分の心を慰める為にわざわざ謝罪させたとでも思っていらっしゃるの?婚約破棄された暁には私が泣いて貴方に縋り喜んで愛人にでもなると思っていらしたのかしら?」
「……っ」
ぎくりと固まるエリオット。
一瞬の態度がそれを肯定していて、さすがの陛下も頭を抱えている。
「まあ、愛人だなんて……」
「ノックス公爵令嬢に対してなんて失礼な」
「でもあのお方ならそう考えていても不思議ではないわね」
愛人発言に周りからひそひそと嫌悪の視線がエリオットに注がれる。
その前からも注がれていたけど。
「そ、そんな訳ないだろう!な、な、何故婚約破棄した相手を愛人などに……!」
『あんな女、婚約破棄した暁には愛人として侍らせる予定だ。その方があいつも嬉しいだろう。身体だけでも俺に差し出せるのだからな!呼べば喜んで俺の所に来るはずだ!』
「!!!!!」
慌てて言い訳をするエリオットに無言のまま偶然聞いてしまい録音したその音声を流す。
この音声を録音しているのは魔道具のひとつで、近くにいなければ録音出来ないがその分録音再生が魔力を流し込むとすぐに出来るのだ。
有事の際の証拠集めとして常に身に付けているネックレスがそれで、咄嗟に魔力を込め録音した私グッジョブ。
動かぬ証拠というやつである。
取り巻き達が自分達にもたまに貸して下さいなんて糞のようなセリフが続き、あんなので良ければいつでも貸してやる、なんて最低な発言で一旦切る。
「喜んで、ねえ」
「……っ」
ふっ、と鼻で笑うとエリオットその他がびくりと震えて固まる。
「お前は、本当になんという……!」
「エリオット、貴方……!」
陛下も王妃様も怒り心頭である。
息子は可愛いが息子より元未来の嫁が可愛い王妃様に至っては背後に般若が現れている。
握り締めた扇子が砕けそうな程に軋んでいる。
同じ女性として、息子が女性、しかもこの時はまだ婚約者でもある私に対してこんなセリフを吐いていただなんて許せないのだろう。
気持ちを利用して女としての尊厳を奪いあまつさえ第三者に貸し出そうとするなんて普通に考えて下衆以外の何者でもない。
本当にまともなご両親で良かった。
頭のおかしい人だと、息子の相手を出来のに何の不満があるのです!身体くらい差し出しなさい!とかトチ狂った事を言いかねないものね。
本当に良かった。
「こちらの発言は私への侮辱以外の何物でもありませんわね。正式に公爵家より抗議させていただきます」
実際に婚約破棄されて、拒否したとしても無理矢理連れ込まれ襲われてしまう可能性だってあったのだ。
エリオットだけでも冗談じゃないのにその他大勢に貸し出すなんて、私の人権をどう考えているのかしら。
そういえば一緒にそれを聞いていたとある方が怒り狂ってあの場で彼らを潰そうとしているのを止めるのが大変だったわ。
ふふふ、まあ私も彼らのイチモツを潰して差し上げたかったけど我慢したのよね、自分を褒めてあげたいわ。
あら、私自分を褒めてばかりね。
仕方ないわよね、今まで散々我慢してきたんですもの、たくさん褒めてあげないと。
「そういう訳で、この結婚は逃れられないものと思っていたのだけれど貴女のお陰で私に何の非もなく破棄出来たの。だからすごくすごく嬉しくて。本当にありがとう!」
「……っ、強がっちゃって、本当は悔しいくせに」
「まあまあ私強がっているように見えて?」
「……っ」
見えないでしょうそうでしょう。
だって本当に本気でもの凄く嬉しいからね!
ジュリだってさっきのエリオットの言葉に引いてるくせに、そんな男と婚約破棄したからって悔しいはずないじゃない。
頭の中ではサンバカーニバル開催中で私も踊り出したいくらいよ!
頭の中のサンバカーニバルを少しずつフェードアウトさせながら話を続ける。
「さて、お礼も言わせていただいたので次に参りましょうか」
「次?」
「貴女が影でしていた色々について」
「い、色々って……」
「色々は、色々よ」
ぱんぱんと手を鳴らすと控えていた従者が証拠の数々を持ってくる。
映像石と言って、様々な映像と音声を同時に記録出来る魔道具だ。
先程のネックレスとは違い、こちらは映像専用。
これひとつで録画も出来るし編集も出来るし立体映像で再生出来る。
おまけに様々な証拠として使えるように偽造防止の魔法がかけられていて、編集は出来るが合成する事は出来ないという優れものである。
「まずは私がしていたという嫌がらせに関して、全てジュリさんの自作自演という証拠がこちらです」
映像を再生させるとそこには自分の持ち物を自分で傷付けたり隠したり、何もない所で突然転んだり池に落ちたり怪我してもいない場所に包帯を巻いているジュリの姿が映し出される。
こうして見ると随分滑稽な姿ね。
「や、やだ、何これ……!」
「次はこちら」
次の映像石から流れたのはジュリの裏の顔。
塵芥その他が知らない、女性陣にだけ見せていたあの姿である。
『自分が相手にされないからって僻んでるの?』
『あはっ、私が言い寄ってるんじゃないのよ?向こうから寄って来るんだものどうしようもないじゃない?』
『残念だったね、私くらい魅力があれば良かったのにねえ』
こうして改めて見るとドラマのワンシーンみたいで面白いわね。
ジュリの態度には腹が立つけど。
「う、嘘よこんなの!こんなの私じゃないわ!どうせあんたが作ったんでしょ!?」
「この映像石は偽造出来ない特殊なものよ。心配なさらずともこの方は間違いなく貴女よ」
「違う!こんなの私じゃない!私じゃないわ、みんな信じてくれるよね!?」
「……」
「その……」
あからさまに視線を逸らす面々。
うん、まあそうだよね。
流石にこの映像石の信憑性はわかりきっているのだろう取り巻き達は何も言えない。
316
あなたにおすすめの小説
婚約破棄から~2年後~からのおめでとう
夏千冬
恋愛
第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。
それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!
改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。
虐げられた聖女が魔力を引き揚げて隣国へ渡った結果、祖国が完全に詰んだ件について~冷徹皇帝陛下は私を甘やかすのに忙しいそうです~
日々埋没。
恋愛
「お前は無能な欠陥品」と婚約破棄された聖女エルゼ。
彼女が国中の魔力を手繰り寄せて出国した瞬間、祖国の繁栄は終わった。
一方、隣国の皇帝に保護されたエルゼは、至れり尽くせりの溺愛生活の中で真の力を開花させていく。
王子の魔法は愛する人の涙に溶けた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢にされそうになった女の子がなんだかんだで愛を取り戻すお話。
またはヤンデレな王太子が涼しい顔で復讐を果たすお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢ですが、今日も元婚約者とヒロインにざまぁされました(なお、全員私を溺愛しています)
ほーみ
恋愛
「レティシア・エルフォード! お前との婚約は破棄する!」
王太子アレクシス・ヴォルフェンがそう宣言した瞬間、広間はざわめいた。私は静かに紅茶を口にしながら、その言葉を聞き流す。どうやら、今日もまた「ざまぁ」される日らしい。
ここは王宮の舞踏会場。華やかな装飾と甘い香りが漂う中、私はまたしても断罪劇の主役に据えられていた。目の前では、王太子が優雅に微笑みながら、私に婚約破棄を突きつけている。その隣には、栗色の髪をふわりと揺らした少女――リリア・エヴァンスが涙ぐんでいた。
義妹に苛められているらしいのですが・・・
天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。
その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。
彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。
それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。
儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。
そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。
【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
聖女アマリア ~喜んで、婚約破棄を承ります。
青の雀
恋愛
公爵令嬢アマリアは、15歳の誕生日の翌日、前世の記憶を思い出す。
婚約者である王太子エドモンドから、18歳の学園の卒業パーティで王太子妃の座を狙った男爵令嬢リリカからの告発を真に受け、冤罪で断罪、婚約破棄され公開処刑されてしまう記憶であった。
王太子エドモンドと学園から逃げるため、留学することに。隣国へ留学したアマリアは、聖女に認定され、覚醒する。そこで隣国の皇太子から求婚されるが、アマリアには、エドモンドという婚約者がいるため、返事に窮す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる