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しおりを挟む※エミール視点
結局あれからアリシアの部屋からは何も反応がなかった。
終わったと報告がされるのだろうかとずっと待っていたのだが、その内に俺も寝てしまっていたらしい。
ふと見るとベッドサイドとベッドの上に昨夜の例の資料達が開かれているのが見えた。
(!!!こ、これは早急に片付け……いや隠さなければ!)
ふと見るとそこには金髪碧眼の美女のあられもない絵姿が。
言われた通りに見てはみたものの、彼女の髪はもう少し淡く煌めいているし当然ながら瞳も全く違う。
だが薄目で見るとなんとなく彼女の面影を追う事が出来て、絵姿のままの彼女を想像してしまい……
「う……っ」
朝から元気になってしまうところだった。
今朝は温かい湯ではなく水を浴びるべきかもしれない。
そんな事を考えていると。
コンコン、と扉がノックされた。
(アリシアか!?)
と思い反応するが、音がしたのは内扉ではない方の扉だ。
「坊ちゃま、マーサでございます」
「ま、マーサ?」
アリシア付きにした彼女が朝からこちらに来るなんて珍しい。
すぐに入室の許可を出そうとして例の資料が散らばったままだと気付き慌てて枕の下に隠す。
「少しよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、どうぞ」
バレやしないかとばくばくしながら入室を許可。
礼をして室内にやってきたマーサは笑みを浮かべてはいるものの、どこか呆れたような、少し怖い顔をしている。
「……マーサ?」
この表情の時は俺にとって都合の悪い小言を言われるのだと身を持って知っている。
そして逃げようがない事も。
「坊ちゃま、ひとつ宜しいでしょうか?」
「坊っちゃまはいい加減にやめてくれないか?もちろん良いぞ」
「では僭越ながら」
こほんと咳払いをひとつ。
「坊ちゃま、奥様を営みの後そのまま放置するとは何事ですか!」
「……は?」
まさかの発言に固まる。
い、い、営み!?
断じてしていないのだが!?
ああ、いや待て、そうだ昨夜は例のあの日でアレをした日だ。
そのまま放置ということは……
「今朝、奥様は非常に恥ずかしそうでした。坊ちゃまが責任を持って昨晩のうちに軽くでも清めて差し上げるべきでは?」
「あ、それは、その……!」
マーサの口振りからすると、恐らくアリシアはアレを中に入れたまま眠ってしまったのだろう。
そして朝になり、シーツの汚れか体の汚れかはたまた両方か、それをマーサに見られて恥ずかしがっていたと。
(中に、本当に入れたのか……というか入れられたのか)
彼女が自分で自分の中に俺のアレを入れている所を想像してしまい、慌てて頭を横に振る。
恥ずかしがっている姿も少し見てみたいなんて思っていない、断じて思っていないぞ。
(何という事を想像しているんだ俺は!)
「坊ちゃま?聞いておられますか?」
「!も、もちろんだ!そうだな、俺は最低な旦那だ!」
「そこまでは言っておりませんが……奥様はすっかり馴染んでいるように見えてもまだこちらに嫁いできて日が浅いのですから、他ならぬ坊ちゃまがきちんと気を配って差し上げて下さいませ」
「……うん、そうだな、その通りだ」
年嵩のマーサは俺が生まれる前からこの邸に勤めているので、たまに俺の母よりも小言が多い。
使用人が主人の息子に対してこのような物言いをするなど、と嗜めるべきなのだろうが、肝心の主人である父母がそれを許しているので何も言えない。
とはいえマーサは理不尽な事を言わないししないしそれを嵩に偉ぶったりもしない。
そういう所が父母に信頼されているところでもあり、俺も信用しているからこそマーサの言葉が胸に痛い。
あの後やきもきと待っているだけではなく声を掛ければ良かった。
大丈夫かと一言かけるだけで、今朝彼女が恥ずかしい思いをする事はなかったはずだ。
(次からは気を付けよう)
うんうんと一人納得する俺に、マーサは納得したのかしていないのかじとりとした目を向けられたが気にしない。
「……わかっておられるのなら私からはもう何も言いません」
「ああ、知らせてくれてありがとう」
「いいえ、では私はこれで。失礼しました」
「ああ、アリシアをよろしく頼む」
「もちろんでございます」
力強く頷き部屋を出ていくマーサにホッと一息。
(……全部入れたのだろうか)
下世話な事をまた考えてしまう。
道具など何もないだろうからあの小さな手で?
滑らかな指で?
どんな格好で?
顔は、声は……
(あああああああ!!!いかん!水だ!水を浴びよう!!!)
またも広がる妄想にすぐさま水を浴びに行った。
そのすぐ後。
部屋を出たところでちょうどアリシアと鉢合わせ、昨夜の事を訊ねた。
「昨夜はその、大丈夫だったか?」
「え、ええ、何とかなりましたわ」
マーサから聞いて知ってはいたが、結果を本人の口から聞くとこちらも少し恥ずかしい。
心なしかアリシアの様子もいつもと違う気がする。
「ですがその……」
「どうした?」
食い気味に聞き返してしまいそうになり努めて冷静を装う。
「ええと……」
アリシアは周りをきょろきょろと見渡し誰もいない事を確認すると、言いにくそうに口元に手を当て、こそこそっと俺の耳元で囁いた。
「あの、実は指では少し入れ難くて」
「!」
告げられたセリフの破壊力たるや。
また水を浴びたい衝動に駆られてしまった。
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