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本編
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「吉野、アイス食べる?」
「あ……ありがと」
恋人である伊織の家に泊まることになった夜。風呂上がりの濡れた髪を乾かし終え、ソファに座ってぼんやりとしていると、不意に真っ白な棒付きアイスが目の前に差し出された。手渡された棒からほのかに伝わるひやりとした空気が、火照った身体には心地良い。
「この前発売された新商品なんだって。コンビニで見かけて美味しそうだったから買って来たんだ」
そう言いながら隣に座った伊織は既に同じアイスを食べ始めているようで、その白い塊は彼の口の中にどんどん吸い込まれていく。自分も同じように咥えると、鋭い冷たさと爽やかな甘さが広がった。
「つめ、た…………ん、美味しい」
ミルク風味のアイスなのだろうか。コクがあるのに後味はすっきりとしていて、何とも言えない幸せな気分になる。思わず零れた感想を聞いて、彼は満足げに微笑んだ。美味しいからと言って一気に頬張ると頭もずきずきと痛みそうで、少しずつ舌の上で溶かしながら味わうように食べ続ける。徐々に温まってきたアイスの表面には水滴が浮かび、持ち手を伝って指先を濡らしていく。
何気なく横目で伊織の方を窺えば、もう食べ終えたのか彼の手元には何も付いていない木の棒だけが握られていた。じっとこちらを見つめる視線に気づき目が合うと、そのままゆっくりと顔を近付けられる。
「吉野って冷たい物苦手なの?」
「へ?あ……うん」
唐突に投げかけられた質問の意図は分からなかったが、とりあえず首を縦に振る。確かに俺は冷たい食べ物が苦手だ。氷の入った飲み物くらいなら問題ないが、アイスやかき氷なんかを食べると頬や舌がすぐに痛くなる。気をつけさえすれば他人と同じように食べられるので、今まで特に誰かに言うことはなかったのだが。
「一気に食べると冷たさで口の中が痛くなるから少し苦手だけど、ゆっくり食べれば平気だから」
俺の言葉を聞いた伊織は特に驚いた様子もなく小さく相槌を打つと、何も言わずに俺の手許をじっと見ているだけだった。穴が開くほど見つめられ、どうにも居心地が悪い。何かおかしなことをしてしまっただろうかと考えを巡らせるうちに、手に持ったアイスはどんどん溶け出していく。
「あ、垂れちゃ……っ」
液状になったアイスの雫がぽたりと落ちてしまいそうになり、咄嵯に舌で受け止める。思いがけずはしたない行動を取ってしまったことに羞恥を覚えながらも、何とか手やソファを汚さずに済んだことへの安堵感の方が勝っていた。もうなりふり構ってはいられない。完全に溶ける前に早く食べ終えてしまおうと慌てて白く甘い塊を咥え込むと、向けられていた視線がさらに鋭くなったように感じた。
「な、なに……」
「いや、気にしないでゆっくり食べていいよ」
軽い微笑を浮かべながらも、どこか含みのある言い方をする伊織の真意はよく分からない。ただ、妙な緊張感のようなものを感じているのは確かだった。いつもより距離が近い気がするし、何故か瞳からは熱っぽいものを感じる。まるで情事の最中のような──そこまで考えて、思わず心の中で首を振る。こんな考えに至ってしまうなんてどうかしている。動揺を隠しつつ再びアイスを口に含むと、ひんやりとした感覚と滑らかな甘さに意識を引き戻された。
「あ……ありがと」
恋人である伊織の家に泊まることになった夜。風呂上がりの濡れた髪を乾かし終え、ソファに座ってぼんやりとしていると、不意に真っ白な棒付きアイスが目の前に差し出された。手渡された棒からほのかに伝わるひやりとした空気が、火照った身体には心地良い。
「この前発売された新商品なんだって。コンビニで見かけて美味しそうだったから買って来たんだ」
そう言いながら隣に座った伊織は既に同じアイスを食べ始めているようで、その白い塊は彼の口の中にどんどん吸い込まれていく。自分も同じように咥えると、鋭い冷たさと爽やかな甘さが広がった。
「つめ、た…………ん、美味しい」
ミルク風味のアイスなのだろうか。コクがあるのに後味はすっきりとしていて、何とも言えない幸せな気分になる。思わず零れた感想を聞いて、彼は満足げに微笑んだ。美味しいからと言って一気に頬張ると頭もずきずきと痛みそうで、少しずつ舌の上で溶かしながら味わうように食べ続ける。徐々に温まってきたアイスの表面には水滴が浮かび、持ち手を伝って指先を濡らしていく。
何気なく横目で伊織の方を窺えば、もう食べ終えたのか彼の手元には何も付いていない木の棒だけが握られていた。じっとこちらを見つめる視線に気づき目が合うと、そのままゆっくりと顔を近付けられる。
「吉野って冷たい物苦手なの?」
「へ?あ……うん」
唐突に投げかけられた質問の意図は分からなかったが、とりあえず首を縦に振る。確かに俺は冷たい食べ物が苦手だ。氷の入った飲み物くらいなら問題ないが、アイスやかき氷なんかを食べると頬や舌がすぐに痛くなる。気をつけさえすれば他人と同じように食べられるので、今まで特に誰かに言うことはなかったのだが。
「一気に食べると冷たさで口の中が痛くなるから少し苦手だけど、ゆっくり食べれば平気だから」
俺の言葉を聞いた伊織は特に驚いた様子もなく小さく相槌を打つと、何も言わずに俺の手許をじっと見ているだけだった。穴が開くほど見つめられ、どうにも居心地が悪い。何かおかしなことをしてしまっただろうかと考えを巡らせるうちに、手に持ったアイスはどんどん溶け出していく。
「あ、垂れちゃ……っ」
液状になったアイスの雫がぽたりと落ちてしまいそうになり、咄嵯に舌で受け止める。思いがけずはしたない行動を取ってしまったことに羞恥を覚えながらも、何とか手やソファを汚さずに済んだことへの安堵感の方が勝っていた。もうなりふり構ってはいられない。完全に溶ける前に早く食べ終えてしまおうと慌てて白く甘い塊を咥え込むと、向けられていた視線がさらに鋭くなったように感じた。
「な、なに……」
「いや、気にしないでゆっくり食べていいよ」
軽い微笑を浮かべながらも、どこか含みのある言い方をする伊織の真意はよく分からない。ただ、妙な緊張感のようなものを感じているのは確かだった。いつもより距離が近い気がするし、何故か瞳からは熱っぽいものを感じる。まるで情事の最中のような──そこまで考えて、思わず心の中で首を振る。こんな考えに至ってしまうなんてどうかしている。動揺を隠しつつ再びアイスを口に含むと、ひんやりとした感覚と滑らかな甘さに意識を引き戻された。
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